私は貴様のどんな辱めにも、決して屈しないぞ!

味噌わさび

第1話 囚われの騎士様

「……ふわぁ」


 暗い部屋を見回して、俺は何度目かわからない欠伸をした。


 その日も、俺は特にはやることがなかった。


 椅子に座り、ただ暗い部屋を眺めているだけである。


「……やることねぇなぁ」


 実際、やることはなかった。俺はしがない牢屋の見張り番。で、そもそも牢屋の中に入っているヤツってのは基本的には脱獄なんてしようとしない。


 だとすると、やることは本当にない。ただ、ぼんやりとしていればいいはず……なのであったが。


「おい」


 牢屋の方から、声が聞こえてくる。無論、俺はそれを無視する。


「おい」


 それでも声は聞こえてくる。俺は無視し続ける。


「……おい!」


 今度は大きめの声が聞こえてきた。俺は仕方なく牢屋の方を見てみた。


 ボロ布同然の服を着せられた美少女が牢屋の中から俺のことを睨んでいる。


 金色に輝く髪に、蒼い瞳……服装はボロボロであったが、容姿はこの上なく美しかった。


「……なんでしょうか?」


「いつまでこんな場所に閉じ込めておく気だ。私は誇り高い騎士だぞ! こんな場所に閉じ込めておいて良いわけがないだろう!」


 凛とした声で女性……女騎士様はそう怒る。


 彼女は、先日の戦闘で我が国の軍が捉えた敵国の捕虜である。


「いや、騎士様……アンタは捕虜なんです。だから、こういう待遇なんです」


「フッ……そんなことを言って……単純に私を辱めたいだけだろう!」


「……へ?」


 唐突な謎発言に、思わず俺は聞きかえてしまう。


「私だって自分が捕虜であることは、十分承知している。私が囚われの身であり、貴様によって今にも高潔な騎士としての精神を汚されようとしているということもな!」


「へ? いや……そういうつもりは、全然ないんですけど……」


「嘘だな! 貴様の顔を見れば貴様が何を考えているかなどすぐに分かるぞ! いやらしい変態め!」


「変態って……! いや。本当に何も考えてないですって!」


「そうやって私を油断させようとしているのだろう? だが、そうはいかない。私は騎士だ。貴様のどんな非道な行いにも決して屈しないぞ!」


 騎士様のその凛とした表情を見ていると、俺は段々本気で自分が騎士に対して非道な行いをしようとしているのではないかと思えてきた。


 しかし、俺にそんな度胸はないし、そもそもやる気もないのだ。


「あー……いや、本当にないです」


「嘘を言うなッ! 先ほどからいやらしい目で私を見ているだろう!」


「いや、見てないですって!」


「くっ……大体こんなボロ布を着せて……私を辱めてそんなに楽しいのか!」


 騎士様は本気で怒っていた。


 俺はそんな騎士様を見ていると益々困ってしまう。


 確かにボロ布を着ているために、騎士様は肌が露出した部分が多い。


 かといって、俺にとっては騎士様はどこまでいっても敵国の兵士。


 正直、俺は、どちらかというとあまり関わりたくないとさえ思っている。


 だからこそ、騎士様にそんなことを言われると困ってしまうのであった。


「えっと……いや、本当に、そんなつもりはないんですって……」


「本当か? まるで信用できない。そんなつもりがないのなら、なぜ私にこんなボロ布を着せている?」


「知りませんよ。俺が着せたわけじゃないですし……そういう決まりなんじゃないんですか?」


「決まり? こんなボロ布を着せて女性を辱めるのが貴様らの国の決まりなのか!? とことん腐っているな! 貴様らは!」


 騎士様は真剣な顔でそう怒っていた。


 ……こんな感じで、最近囚われてきた女騎士様は、なぜか俺が自分のことを辱めようとしていると、しきりに叱責してくる、ちょっと変わった感じの人なのであった。

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