第7話 覚醒
「うわあああ!!」
手で守っている人々の盾になるように、決戦兵器は走り出した。
灼熱の炎に抗うような、猛烈な突進である。
身体が熱い。焼け死にそうだ。
だけどそんな痛覚でさえ、前進の糧になりそうなくらい、僕は我を忘れて激昂していた。
距離はそこまで無いはずなのに、果てしなく長い道を走っているようだ。視界も真っ赤で音は轟然と、この機体を包み込んでいる。
「あァァァァ!!!」
とめどなく吹き抜ける炎の激流の先に、黒い影が霞んで見えてくる。それに目掛けて、力ずくで右手を振りかぶった。
「うわああああああ!」
豪炎の源泉である頭を、思いっきり殴りつける。その巨大な頭は口から炎を出したまま、虚空に飛んで、荒野に落下した。残り火が宙に舞って、火の粉を一面に降らせる。
切断された首から、大量の血液が吹き出した。
頭を失ったことで勝機が無いことを悟ったのか、敵は何も見えない筈なのに此方に向かって
体当たりをしてきた。
ガァァァァァという咆哮をあげながら怪獣に押し倒され、敵は、短い手を振りあげようとする。
「ァァァァァ!!!!」
残る全ての力を出し切る思いで、全身に力を込め、怪獣の胴体を掴んでひっくり返し、地面に伏させた。さっきとは反対の状況だ。
僕は発狂しながら、怪獣の身体を殴りまくった。ただひたすら血が飛散した。炎よりも紅く、なりより凄惨な光景が一瞬にして広がった。それでも攻撃の手を緩めず、ことごとく殴りつけた。
爛れ落ちた皮膚、抉れた筋肉、砕けた骨の深部に、いよいよ紅い球体の物体が見えた。
その球を両手で挟み、力を入れた刹那、大量の血液が飛び散り、血の海を形成した。
そして、東京を襲った怪獣は絶命した。
まるでエネルギー源を失ったかのように、急激に肉体の動きと抵抗が止まった。そして辺りは、完全か静寂に包まれた。
「はぁ、はぁ、はぁ…、はぁ、…」
苦しい。息が切れる。僕はやっと自我を取り戻したようで、急に冷静になって来た。
良く思い出そうとしてみても、記憶が曖昧だ。
僕が怪獣を殺した。それだけは覚えている。
アルレシオンのモニターを通じて、周りを見渡してみる。
「う、うわ、なんだ…これ…。」
周囲を見渡して見ると、そこは地獄だった。
一面、血の海である。飛び散った紅い血が瓦礫や灰などを流し、海に流れようとしている。
ここから見える範囲では、ビルや建物が炎によって焼き尽くされた跡の荒野のみが映っている。人の影など1つもない。この高さから見える範囲では、どれだけの人が死んだのだろう。
約半径10kmは、壊滅だった。
東京大空襲も、こんな惨い光景だったのだろうか。そんな、思考停止な考えしか浮かばない。
現実が悲惨すぎて、脳が考えるのを拒否している。僕は今、何をしているのだろうか。
一人の少年の奮闘によって、怪獣は倒れ、人類の脅威は過ぎ去った。しかし、果たしてこれが勝利と言えるのだろうか。
6月30日 4時14分 怪獣、東京都江東区付近に東京湾より出現。
4時16分25秒 怪獣、上陸。攻撃を開始し、周辺の都市への被害が拡大する。
4時42分00秒 アルレシオン起動。
4時44分32秒 アルレシオン、物理打撃を受け
行動停止。
4時45分17秒 各航空基地より出撃した戦闘機部隊、体高約500m超の未確認敵性生物を発見。
4時46分22秒 戦闘機47機が怪獣周囲に展開。
4時46分50秒 航空自衛隊、一斉攻撃を開始。
4時46分54秒 全弾命中確認。しかし、有効な打撃には繋がらず。
4時47分08秒 怪獣、熱光線を拡散放射。戦闘機は、全47機全て撃墜される。
4時49分35秒 決戦兵器、覚醒。
4時49分50秒怪獣の頭部を破壊。その後すぐさま怪獣により倒されるも、体制を入れ替える。
4時50分00秒 アルレシオン、熾烈な打撃攻撃の末、紅色の球体を怪獣体内に発見。両手で押し潰し、怪獣撃破に成功する。
江東区、中央区、千代田区、墨田区、江戸川区、台東区はほぼ完全に壊滅。
港区、新宿区、文京区、荒川区、葛飾区、江戸川区、千葉県の一部も、大きな被害を被った。
死亡者数は200万人を越え、街はことごとく壊れ荒野と化した。自衛隊の戦闘機も、一瞬にして撃破された。日本の中枢を失った日本は、これからどうなるのだろうか。人々はその姿に怯え、戦慄するのか。また、過ぎ去った脅威に安堵するのか。突如現れた決戦兵器に、感謝するのか。
圧倒的な脅威をアルレシオンは倒した。しかしそれは始まりに過ぎない。少年の運命は、過酷を極めるだろう。
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次回更新は未定です。理由は、受験勉強で忙しいので、
あとネタ切れです。プロットも無いし書き溜めも無いので、頑張ります。
決戦兵器-アルレシオン- haru1030 @haruya1030
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