第4話 雑談好きの蝿ー証言①
「月が
「あの日はそんな夜だった」
「マネキンがポーズをとるウィンドウケースのすぐ横側、まるで絶望が鎮座しているかのようにスーツ姿のアイツはいた。朝いつもの時間に来てから晩遅くまでじっと何日も・・・。待ち行く人々も浮浪者だと思って近づかなかない。それほどに不気味だった」
「手元には貯金通帳を握りしめていた。だから当初はこの街でよくある貧困からの自殺志願者だと思っていたよ」
「だけど来る日も来る日もアイツはここが職場であるかのように定同じ時間に来て同じ時間に帰っていくんだ」
「まぁ確かにアイツに興味をもったことは間違いないさ。だからマネキンに何度か話を聞きに行ったよ。アイツは何者なんだってな」
「・・・嘔吐でお金が産み出せなくなったらしいな。俺はマネキンを鼻で笑ってこう言ってやった。一体全体人間てのはどれだけ金に
「・・・ところで貴様はアイツの最後は知っているのか?」
「・・・飛び降り自殺で命を絶ったと。それは知っているんだな」
「他はどうだ。何も知らないのか?」
「それじゃあアイツがここで何に考えを巡らしていたのか、そこから話すことにするか」
「嘔吐ができなくなったアイツはそのことを嫁に打ち明けることができないでいたんだ。そりゃそうだ。贅沢な未来、約束された不労所得、蜘蛛の糸・・・それが前提で作成された人生のマネープランが一瞬にして瓦解しちまったんだ。あがってしまった生活水準と手の届く理想はわかっていてもなかなか下げられないしな」
「それでも一度は打ち明けようとしたんだ。帰宅するなり開口一番『実はもうお金を吐き出せないんだ』ってな。だけどそれは叶わなかった。向かい合った瞬間口を開いたのは嫁の方だった」
「『妊娠したみたい』ってな」
「それからだよ。アイツが会社にも行かずここに座り込みをはじめたのは」
「しばらくは貯蓄を切り崩して嘔吐で稼いできたとか言って誤魔化していたんだろうな。会社に行く気力も湧かないものだからお先は当然真っ暗ってわけだし・・・」
「あんたならどうする?お金が吐き出せず、会社の同僚からは妬み僻みの陰口、憩いの場である家では気の滅入る、輝かしい将来の話ばかり・・・。アイツはもう限界だったんだ」
「薄雲が月を少しぼかす夜だった。男の顔面は暗がりに紛れ、しかし鋭く光る充血した
「アイツは音もなく立ち上がるとまるでゾンビみたいにヨロヨロと足を引きずるように歩き出した。俺は少し後ろを気づかれないように飛び回りながらこいつの人生について考えざるを得なかったんだ」
「真面目に働き、お天道様の元で精一杯生きて、手に入るささやかな幸せで毎日を送っていたんだろう。嫁と子供と一緒に暮らすことに絶望するやつなどあってはならない、そのねじれ過ぎた感情は誰のせいだ?誰がアイツをここまでの人物にしてしまったんだ?」
「俺の目の前で嫁を殴殺した後に
「地面には大量の硬貨が溢れていた・・・」
「一体誰がアイツを責めることができる?アイツは家族に殺されたんだ。」
(ΦωΦ)カネゴン FLOKI-Q @radio062233
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