第6話 エピローグ

「万里加ちゃん、美玖ちゃん、英美里ちゃん、葵ちゃん、クルミちゃん、玲央奈ちゃん、茉代ちゃん、みんないなくなちゃったな。みんな薄情だな・・・けっこう金掛けたのに」


 Aさんにはもう愚痴を言う相手もいなかった。一人でぼんやり座っていた。仕事では頑張れるけど、一人になるとうつ状態になってしまった。みんな俺を捨てたんだ。俺の何がいけなかったんだろう。今更ながら自問自答した。じじいのくせに若い子にうつつを抜かして、呆れられていたんだろうか。俺は彼女たちに経済的な恩恵を与えたけど、その見返りとして得られたのは、偽りの関係だけ。それぞれ好きだったのに、あちらにとったら俺はただの金づるに過ぎなかったんだ!Aさんにとってはショックだった。


 もう、店をたたんで、マンションの賃料収入だけで細々と食っていこうかな。Aさんはすっかり弱気になっていた。


 すると、Aさんの部屋をノックする人がいた。

 101に住んでいる、ブスな女子大生だった。目が細くて顔はそばかすだらけ。上から潰したような顔をしている。犬のパグみたいな顔だ。

「105で飲み会やってるけど来ませんか?」

 誘ってくれたからか、何となくかわいい気がして来た。

「そうだね。行くよ」

 Aさんは立ち上がった。すっかりじじいになった気がした。


 105には、戦力外の4人がこたつを囲んで座っていた。1人だけセックスした子もいたが、一人もかわいい子がいない。テーブルの真ん中に鍋がグラグラ煮えていて、周囲にグラスや取り皿が並べてあった。


「みんな仲いいんだね」

「1階のメンバーだけですけどね」

 Aさんは何となくほっとする空間だなと思った。自分は美人にしか興味がなく、彼女たちを人間扱いしなかったが、今思えば失礼だったかもしれない。彼らは取り敢えず人間ではある。それに、不人気の飲食店で不平不満を言わずに働いてくれているんだ。


「Aさん、こちらどうぞ」

 105が手招きした。そして、上座に座った。こたつ布団の上に、さらに座布団が敷いてあった。部屋はきれいに片付いている。女の子らしいナチュラルなインテリアで、忙しい生活の中でもきちんと暮らしているのに好感が持てた。


 Aさんは言われた場所に座って、鍋を取り分けてもらった。別の子がビールを注いでくれた。甲斐甲斐しく世話をやいてくれる、戦力外の女性たち。こんな顔の女とでも結婚する男はいるんだろうな。外で一緒にいるのは恥ずかしいけど、家にいるだけならいいかもしれない。夜は電気を消してしまえば、何とかなるだろうか。Aさんは考えていた。この中で誰が一番ましだろう・・・甲乙つけがたいほどに全員が不細工だった。


「Aさん、上の階が空いてるみたいですけど・・・」

「え?」

「私たちも上の部屋に住みたいです」

「ダメだよ。賃貸するんだから」

「上にいた一軍の女の子たちがみんないなくなっちゃったって聞きました」

「誰から?」

 Aさんはぞっとした。自分以外は誰も知らない筈なのに。

「どうして知ってる?」

「万里加ちゃん、美玖ちゃん、英美里ちゃん、葵ちゃん、クルミちゃん、玲央奈ちゃん、茉代ちゃん、みんながそれぞれ教えてくれました」

「あ、そうか・・・どうしていなくなったのかな?理由知ってる?」

「きっと、消されたんですよ。万理加ちゃんは美玖ちゃんに、未久ちゃんは英美里ちゃんに・・・って風に」

「じゃあ、茉代ちゃんは?」

「自分からいなくなったんでしょう」

「そうかなぁ。親に紹介してもらう話が出てたくらいなのに」

「これからは私たちが社長にお仕えしますから」

「いいよ・・・今までと同じで」

「いいえ。私たち決めたんです。社長のハーレムを引き継ぐって」

「いやぁ・・・ハーレムってのは、男が女性の美を求めて作るものだから」

「もう、そんなこと気にしなくて大丈夫ですよ」

「え?」


 Aさんは、しばらくして、だんだん気が遠くなっていった。

「何だか・・・調子が悪い・・・」

 そして、パタッと布団の上に倒れてしまった。


 気が付くとAさんは顔の近くが熱いなと思って目を覚ました。体が鉛のように重くてまったく動かない。それに、目を開けられないし、言葉を発することもできなかった。目のあたりが熱かった。手で払いのけたかったけど、どうしても動かなかった。

 

 熱い、熱い、熱い、熱い!!!

 やめろ!!!


 目がやけどしたように痛んだ。


 誰か!助けてくれ!

 助けて!

 目が!俺の目が!!!


 !!!!!!!!

 目が!!!!!!!!!!


 ギャー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!1


 Aさんは気を失った。


 目が覚めると、Aさんは暖かい布団に寝かされていた。両手、両足には手錠がかけられている。


「お目覚めですか?」

「う、うん・・・」

 目を開けることができなかった。瞼がくっついてしまったみたいだった。

 真っ暗だった。

「・・・目が痛くてたまらない。病院に連れてってくれ」

「今、夜中ですから。どこもやってませんよ」

「待ってくれ。放って置いたら目が見えなくなってしまう。119番してくれ!頼む!」 

「いいえ。まだ夜中ですから」

「おい、目が見えないんだよ!何したんだ俺に?」

「何もしてませんよ。ただ、教えてあげたかったんです。人間の価値は見た目じゃないって」

「何するんだ、このブス!」Aさんは怒鳴った。

「ブスかどうかなんてもう関係ありませんよ。社長は目が見えないんだから」

「お店は私たちが切り盛りしますから大丈夫ですよ」

「これからは、私がお世話させていただきますね」

 女たちが次々に言うが、誰の声かもわからなかった。

「社長はただ生きててくれればいいんです」

「そうそう」

「私たちの飼い犬」

「社長の子どもほしいわ~」

「私も!」

「みんなで育てれば仕事も続けられるし!」

 女たちは盛り上がっていた。


 Aさんはもう瞼がないのに、目を閉じて何も聞かないことにした。

 女たちは大声で叫び続けていた。

「大丈夫。目の痛みがなくなるまで待ってあげますから」

「男は一人しかいないから大事にしないとね!」

「社長は、こいうのをやりたかったんでしょ!おめでとう!」

「おめでとう!!」

「逃げたら殺しますからね!」

「人に言わないでくださいね!!絶対殺しますから!」

 101が叫んだ。


 ちなみに、目に熱いものを近づけると、眼球の水分が沸騰して茹で目玉になってしまうそうだ。ヨーロッパではこうやって、目潰しをしていたとか。


 Aさんは失明したと聞いたけど、その後も社長として頑張っているそうだ。

 彼がやっている居酒屋チェーンは今もある。女性が活躍している会社みたいだ。

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ハーレム 連喜 @toushikibu

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