第3話 反撃の質問タイム!

「それでは、私のどこを好きになったんですか?」


 オーソドックスであり、いじわるな質問だったが、私にとっては重要なものだった。二人の馴れ初めを知らないのだから。


 案の定、スティグの顔は真っ赤だった。私は可愛いと内心思った。


「なっ。それをここで聞くか?」

「はい。答えられませんか?」

「そんなわけないだろう。……ひ、一目惚ひとめぼれだったんだ」


 ふむふむ。出会ったのはいつ頃だろう。一目惚れっていうのだから、それなりの年齢かな。


「覚えているか。イーリィ伯爵夫人が開いたお茶会で、初めて会った時のこと。同じ伯爵家で、年齢も同じだからと、仲良くなろうと俺が声をかけたのを」


 私は都合よくカティアの記憶を引き継いでいないため、ただうなずくしかなかった。


「その時の笑った顔が、可愛くて……好きになったんだ」


 スティグは後半、下を向いてしまった。お陰で私のニヤついた顔がバレずに済んだ。


 可愛いのはスティグの方だよ!


 キャーキャー騒ぐ胸の内を知られないように、私は次の質問をした。


「何色が好きですか?」


 スティグが顔を上げた。予想外の質問に、唖然としている様子だった。


 私だって告白はいつ? どれくらいお付き合いしていたんですか? と言いたかった。しかし、カティアがそれを聞くわけにはいかない。


 それにこの質問もまた重要なものだった。


 カティアの好みなどはメイドたちから聞き出したが、スティグの好みは難しい。この際、幼なじみとして知っておきたいものを聞いておきたかった。


 怪しまれたかな。こんなのを知らないのか! って言われないかな。


「紫」


 この答えに、私が赤面した。スティグは開き直ったのか、平然としている。


 もう、どれだけこの男はカティアが好きなの!


 カティアは髪だけでなく、瞳も紫色を帯びていた。赤紫色の瞳。だから、スティグの答えはカティアのすべてを意味していた。


「次は何だ。まだまだ平気だぞ」

「……求婚書を送り返されて、どう思いました? 怒ったでしょう」


 私は即座に好き嫌いの質問をやめた。どれを聞いても、スティグの答えはカティアに通じる気がしたからだ。


 スティグがニヤついているのも、そのためだろう。私が赤面しているのを楽しんでいる様子だった。


 ならば趣旨しゅしを変えてやる。アラサーお姉さんは負けません!


「勿論、怒ったさ。カティアに告白をした時、とびっきり可愛い顔して抱きついてきて、……キスまでしたのに。あれは嘘だったのかって」

「……すみません」

「婚約して、カティアを狙っている連中を、ようやく排除できると思ったのに。他に男がいるのかと疑ったんだ」


 知らなかった。カティアは随分、モテるのね。確かに、一週間前鏡を見た時、凄い美人さんだと思ったもの。


 スティグが心配するのも納得する。


「ごめんなさい」


 私はひたすら謝った。アラサーお姉さん、すぐに負けました。

 てっきり、自分に魅力がなかったとか、しょぼくれた返答を期待していたら、まさかの惚気のろけばなしだった。こんなの聞かされたら、罪悪感で身が縮んじゃうよ。

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