第2話 みずいろ雲に浮かぶあーちゃん

水遊び

暑い暑い日が続いていました。

雨が降りそうな曇り空になると、とてもジメジメします。

そんな日に、小さなビニールに水を溜めてもらい、あーちゃんは、おうちのお庭でおばあちゃんやお母さんと水遊びをするのが大好きです。


ある日のお昼、あーちゃんはお庭を見ながらこう思いました。


「水遊びがしたいな」


雲は薄いところと厚いところとが、まだら模様になっています。


おひさまはときどき顔をのぞかせました。


「あーちゃん、こんにちは。今日は水遊びしないの?」


おひさまがあーちゃんに微笑みながらそう言うと、雲の向こう側に隠れます。


カエルくんとティンクのお誘い

お昼ご飯を食べて、あーちゃんは少しお昼寝をお母さんとしました。


夢の中であーちゃんは、カエルくんといたずら妖精のティンクと水遊びをします。


「あーちゃん、プールに行こう」


カエルくんがそう言います。


「あーちゃんはまだプールに行ったことないのよ」


ティンクがそう言うと、カエルくんがまたこう言いました。


「あーちゃん、起きてプールへ行こう」


「プール?」


「あーちゃん、ビニールプールよりもっともっと広くて楽しいの」


あーちゃんは広くて楽しいと聞いてワクワクしました。


「あーちゃん、あーちゃん、起きてプールへ行こう」


プールへ行こう

目を覚ますと、そこには水色のどろんこの作業着を着たお父さんの顔がありました。


いつも、お昼寝から起きるとき、お父さんはいません。けれど、今日は違います。あーちゃんはびっくりしながら、嬉しくなりました。


「あーちゃんの浮き輪を買ってきたよ、さあ、プールへ行こう。空が泣き出す前に行こう!」


お父さん、お母さんとあーちゃんは水着にきがえました。

近くの小さな屋外プールへとお父さんの車で向かいます。


お父さんは夜おうちにいる時とあまり変わらない格好に見えました。

お母さんはTシャツと短パンとサンダルです。

あーちゃんはいつもの水遊び用の水着。

その上から腕に浮き輪を着込んでとてもかっこいいあーちゃん。


照れ屋さんのあーちゃん

みんなはプールに着きました。

他の家族たちも何組かいました。


「こんにちは」


みんな仲良く挨拶してくれます。

あーちゃんはちょっとだけ、恥ずかしくなりました。


少し照れ屋さんのあーちゃんは、お父さんの水着の端っこに隠れました。

お母さんは、ニコニコしながら、お父さんの後ろに隠れようとするあーちゃんをパシャリとカメラで撮ります。


目の前にはほんとうのプールがありました。

あーちゃんのはじめて見るほんとうのプールです。

ビニールプールとは違うほんとうのプールです。


カエルくんの平泳ぎ

ザブン!


お父さんがプールに飛び込みました。


「あーちゃん、来てごらん!」


あーちゃんはプールの上から今まで見たことのないキラキラのお空を見つめます。


雲たちが少しの間だけ、それぞれに分かれて、おひさまが顔をのぞかせます。


「あーちゃん、がんばれ!」


おひさまがあーちゃんを応援しました。


「あーちゃん、楽しいよ。お父さんのところに来てごらん!」


あーちゃんはそれでもまだ立ちすくみます。


「勇気を出して、あーちゃん」


ティンクがどこからともなくやってきて、あーちゃんを応援します。


「お先にー!」


ザブン!


カエルくんがそう言いながらお父さんの目の前に飛び込みました。


スイスイと泳ぐカエルくん。

お父さんはカエルくんに気づかないまま、カエルくんのようにスイスイとプールを一周しました。


お父さんが一周し終わると、あーちゃんを抱っこしてくれました。


「どう?あーちゃん。泳ぐお父さんかっこいいでしょ?」


カエルくんみたいに泳ぐお父さんが楽しそうでした。

でもカエルくんほど上手くスイスイできていなかったようにも見えました。


「ノン!」


あーちゃんはいつものようにおててを口に当てて笑いながらそう言います。


「あーちゃんのお父さんは僕より下手だなあ」


カエルくんがスイスイ泳ぎながらそう言います。


みずいろ雲に浮かぶあーちゃん

あーちゃんはもっと近くでカエルくんの泳ぎ方を見たくなりました。

カエルくんのそばに行って、カエルくんのかっこいい泳ぎを見たい。

そうあーちゃんは思い、プールに向けて指を指します。


「だっこ!」


あーちゃんがそう言うと、お父さんがプールから出て、あーちゃんを抱っこしてくれました。


ザブン!


お父さんに抱っこされながら、あーちゃんはプールの中でした。


波が立ち、波は、お父さんとあーちゃんの周りでゆらゆらしながら広がっていきます。


お父さんがそうっと手を離します。

あーちゃんは泣き出しそうになりました。


「あーちゃん、お父さんいるから大丈夫だよ」

お父さんがまたあーちゃんを抱きしめてくれました。

あーちゃんはお父さんをぎゅっとしていました。

しばらくお父さんがカエルくんみたいにお水の中でジャンプします。

段々とあーちゃんは楽しくなりました。


お父さんがあーちゃんをそっと水色の雲に乗せてくれました。


プカプカ、プカプカ。


あーちゃんは雲に浮いています。

とても楽しくなってきました。


ときどき、お父さんがあーちゃんの浮き輪を押してくれます。


キラキラ輝く雲の上を浮かぶあーちゃん。


プカプカ、プカプカ。


「あーちゃん、上手だね!僕の泳ぎも見てよ」

カエルくんもあーちゃんに寄り添って泳ぎはじめます。


あーちゃんは楽しくてしょうがありません。


お父さんもあーちゃんもにこにこします。


お母さんがプールの上からあーちゃんたちをカメラでパシャリと撮ってくれます。


お空の雲たちもプカプカとプールで揺れます。


おうちへ

「少し寒くなってくるから、そろそろ帰りましょう」


お母さんがそう言い、お父さんがあーちゃんを抱っこしてプールから出ました。


あーちゃんは少し悲しくなってしまいました。

まだまだプカプカしていたかったのです。


カエルくんがスイスイしながらあーちゃんに手を振りました。


「また遊べるさ。あーちゃん、またね!さようなら」


ティンクは膨らんだあーちゃんのほっぺにキスして慰めました。


「また遊べるわよ。さあ帰ったほうがいいわ。おひさまが顔を見せてくれないと寒くなるわよ」


お父さんが運転する車の中で、あーちゃんは眠りこけてしまいました。

バックミラーでお父さんがあーちゃんを見ると、あーちゃんは、目をつぶりながら、にこにこしています。

お母さんも目を閉じて海風を感じています。


おうちに帰って来ると、あーちゃんはとても楽しかったプールのお話をぬいぐるみのミニーちゃんに聞かせてあげました。


夕ごはんを食べながら、あーちゃんは、コクン、コクン、と何度も目を閉じてしまいます。


「あーちゃんは初めてだったから疲れたのね」


お母さんがあーちゃんを抱っこしてベッドに連れて行ってくれました。目を閉じたまま、あーちゃんは少し微笑んでいます。


「今日は楽しかったね。おやすみなさい、あーちゃん」


お空の星たちが瞬きしながら、あーちゃんに言いました。

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小さな読み聞かせ童話集 Hiro Suzuki @hirotre

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