昔のままに付き合いたくて
目が覚めた時、いつもより散らかっている部屋に驚いた。しばらくしてメグの部屋に泊まったことを思い出して、寝ぼけたままの目で周りを見渡したが、メグはもう既にいなかった。
暫くして、きいいと玄関の扉の開く不快な音が聞こえてきて。それに続くように、ビニル袋を手にしたメグが部屋に戻ってきた。
「おーっす、おそようさん」
時計を見やると、針は七時を差していた。いや、遅くないが。
「飯買うてきた来たぜー。食うべ食うべ」
やはりというか、マックが並べられた。
-いやメグ、お前、いっつもこんな食生活なのかよ。
「いんや、もっとひどいかもよ?なにせアタシには、八千個のブタメシがついてっかんね」
そう言って自慢げにブタメシのストックを披露するメグに、心底呆れかえる。
-お前なあ。
「だって、コスパと時間効率考えたら、明らかに効率いいやんね。あーもうそんな心配そうにすんなし。半分ジョークやって。サラダはコンビニで買ってきて食べてるからさあ」
-肉食ってねえからそんなやせぎすな体になってんだろ?
あまりに細く、華奢な細腕を、親指と人指し指で挟む。
「カンケーないやん。あんた、アタシのママンかよ」
-それでも心配なモンは心配だ。
俺は半ばムキになって、そのうちに、互いにまるで小学生かのようにムキになって、取っ組み合いの喧嘩になる。
でも、体格差はひどくあるし、力も圧倒的に俺のほうが強くって。ものの数秒と経たない内に、俺はメグを押し倒していた。
「…力、強えなあ。もう、全然敵わないや」
息を切らせながら、俺たちは目を合わせる。当然だけどもう、俺のほうがちょっと力が強いくらいだった、あの時のようにはいかないんだ。
「…飯にしようぜ。あと、悪ぃけどさっさとどいてくれ。ちょっと怖い」
俺がメグの上に跨ってるせいで、メグが身動きが取れないことに、今更になって気付く。頭どころか、全身から血を引かせながら、俺はメグから離れた。
俺たちは黙々とハンバーガーを頬張っていく。無言の時が過ぎ去っていく。気まずくあるが、明らかに俺が悪い。ただひたすらに反省をしていた。
ハンバーガーを食べ終わると、すっ飛ぶようにメグはゲームソフトの積まれた棚の方へ駆けていく。そしてソフトを何本もぽいぽいひっぱり出してから、メグはそのうちの一つを、俺に見せびらかしながら叫んだ。
「でもアタシはまだやり足りねえ!コイツで決着つけようや!
そう言ったメグが見せびらかしていたのは、とても懐かしいゲームだった。小さい頃からみんなで遊んでいた、相手プレイヤーをふっとばして、場外へと弾き飛ばすゲームだ。
そして、乱闘騒ぎはゲームの世界へと持ち越された。三本目をあっさり取ってしまったために、五本先取ルールに変更されてしまうが、俺は喜んで受けて立った。
四本目は、俺が先手を打った。吹っ飛ばされていくメグを見やり、画面から目を離さないままに、言う。
-ごめんな、メグ。つい前までの調子で組みかかったけど、怖かったよな。
「は?何言ってんの。いい?アタシは不完全燃焼なの。アタシがあんたに勝ち越すまで、その言葉は聞いてあげないかんね」
それからも俺たちは、罵声を浴びせあい、暴言も吐きあいながら、ゲームの世界の中で、思う存分暴れ倒した。空きっ腹はブタメシで埋めて、出しかけた手は引っ込めて、その分だけ、ゲームの中でふっとばしあった。
そして何度も何度もルールが変えられて、その度に互いに勝ち逃げは許すまいと煽り罵りあって、その度に喧嘩をふっかけられたように買いあって。もう何本先取になったかも、何本取ったかすらも分からなくなっていった。
やがて夕も暮れてきて、それでも俺たちはまだ喧嘩していた。幼かったあの時のままに付き合うことはもう出来ないけれど、それでもまだ、仲のいい幼馴染同士であれることを、いさせてくれることを。
俺は、とてもありがたく思った。
うちの幼馴染がゲーマー過ぎる件 げっと @GETTOLE
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