第23話
同じ港町だというのに、何処と無く雰囲気が違うように感じるのは、せかせかと歩く船乗りさんがいないからかな? 開放的な空気はない。
当然ながら呼び込みの声や露店が広がるなんてこともない。道のせいかもしれないけど。
人の多さはそこそこ。田舎の栄えてる駅前ぐらい。ただし平日。
「ほいよ、ここがギルドだ」
「ありがとうございました」
お爺さんの荷車に揺られながら着いた冒険者ギルドは、街の中心にあってそこそこの大きさを誇った。権力ありそう。心強いね。
手を振ってお爺さんと別れる。割とシンプル。まあ、お爺さんからしたら余計な荷物だったろうから感謝しかないけど。
荷車の隅に金貨を一枚しこんで置いたので、見つけたら驚くだろうな。お世話になりました。バイバイ。
さて身分証を作ろう。
開け放たれた入口から中を覗く。そこには酒場と併設されたありがちな冒険者ギルドの風景があった。
おお、本当に併設なんだね。酔っ払った後で受けた仕事とか覚えてるんだろうか? 不履行で罰金を取るために率先して酔わせている陰謀論とか、授業をそっちのける為によく考えたよなぁ。
丸テーブルを囲う冒険者達は、どちらかというと海賊寄りの風貌だった。ジョッキを高らかに乾杯をする様は意外とした感動を覚える。ほんとにやるんだ。よく割れないな?
僕は未成年ということもあり酒場側じゃなくてギルド側の方へと歩いた。
絡んでくる冒険者とかいたらどうする? 絡んでくるとか本当にありえるのかな? その時は恥も外聞もなく職員さんに泣きつくしかないんだけど。
ギルドの受付窓口は三つ。可愛い系の職員さんと美人系の職員さんと魔物系のハゲマッチョがそれぞれ担当している。実質二択。
迷うことなく小動物系のツインテールさんを選んだ。これは業だよ。僕の知識の中に『GOと言ったら業に従え』というのがあるから仕方ない。
「い、いらっしゃるまっせ!」
「いらっしゃるました」
殺す気かな? やられるのも案外間違いじゃないのかもしれない……。
口に蓋をして客そっちのけで隣の窓口の美人さんをソロ〜っと除き込んでいるツインテール受付嬢。髪色はピンク。瞳が紫。ヲタク殺し。僕がヲタクなら危ないところだった。
隣の美人さんは笑顔のままコメカミ辺りに青い十字路を浮かべている。器用だね、凄いね。
顔も髪色と同じにしたツインテさんが恥ずかしそうに言い直す。
「い、いらっしゃませ、と、当ギルドに御用でしょうか?」
「はい。ギルド証が身分証の代わりになると聞いて、発行してもらいたいんですが」
「あ、はい! 新規ご入会の方ですね! 文字の読み書きは出来ますか? 代筆されますか?」
どうやらマニュアルでもあるのか、急にスラスラと喋り始めたツインテさん。おしい。もうちょっと噛んで欲しかった。
「たぶん?」
「た、たぶん? え? あの、えと……せ、セリアさ〜ん!」
別にわざとやったわけじゃないよ? でもこれから先、この窓口以外を使わないと心に決めました。
「お客様、新人をからかうのはおやめください」
「完璧にごめんなさい」
怖い。笑顔で迫力の意味を初めて理解したよ。笑顔なのに。美人なのに。
溜め息を吐きつつ、新人だと言うツインテさんには厳しい表情を見せる美人さん。ビクッとなるツインテさん。ビクッとなる僕。
「……あなたも。ある程度のアドリブはしなさい。というか、からかわれたぐらいで一々呼ばない! わかった?」
「「わかりました!」」
「……お客様?」
「……隣の美人さん笑顔が迫力ですね?」
「そうなんですぅ〜……つい最近も彼氏に『笑顔が強いよね』って言われちゃったとかでー」
「ダフネ!!」
「ひえ?!」
ピシッと凍りついたツインテさんが解凍されるまで待って、粛々と手続きを始める僕ら。ツインテさんは「ア、アドリブだったのに〜……」と小声で涙目。その間も美人さんは受付はこうだとばかりに笑顔だ。魔物マッチョさんのところに列が出来つつある。触っちゃいけない状態なのか地元勢が避けている。
年齢、性別、経験、名前と、割りかし当たり前のことを書き込む用紙を貰った。特技とか志望理由の欄はない。特になし記入はセーフかな?
年齢は二十歳で、性別は男、経験……いや無いけど? そんなの聞く? 名前…………じゃあクロで。
「はい、ありがとうございます! 登録料は銀貨二枚になりますので、あ、前納ですか?」
登録料と聞いてポケットの金貨を取り出したら前納云々言われたよ。後納もあるの? ツケが利くとかすげぇ。
「前納でお願いします。……すいません、細かいのなくて」
「はーい! 大丈……」
それでも支払える時に支払うスタイルなので金貨を下げずに渡したら、ツインテさんが笑顔のままビクッてなった。ツインテールが一瞬ハネた。
ちょっと分かってきたんだけど。
金貨って高い? いやその価値がべらぼうに高いのは分かってるんだけど。あくまで前の世界基準だったから。精々あって十万円くらいかな、って思ってた。
なにせ隣の美人さんの笑顔が柔らかく感じられるから。
こりゃ相当ですよ、ツインテールさん。
異世界に逝ってと言われたので無人島で生活をすることにしたら トール @mt-r
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