第13話 白い薔薇は白いままで

 一か月後、私は無事に退職を果たした。


「間野ちゃん今日で終わりだね。」

「すみません。体調が治らなくてこれ以上迷惑はかけられませんので。」

「病気だもんね。間野ちゃんがやり残した分は私がちゃんとやっておくから!」

「よろしくお願いします。」


 佐倉女王は私の退職が決まってからも、相変わらず、無視や陰口を続けていたが、最終日には普通? の会話が出来、穏便に別れることができた。


 退職理由は、体調不良とした。

 誰もが本当の理由に気づいていただろうけれど、事なかれ主義の皆さまが、突っ込んでくることはなかった。


 ただ


「私の方が先に辞めたかったです・・・年度内で辞めるつもりだったのに、面談で言いにくくなりました。人、来るかな・・・」


 とは小早川。


「私だってあと10年若ければ・・・ってね。でも、働くのもあと数年。私はここで頑張るわ。」


 とは阿部。


 2人はこっそりと言いに来てくれて、この時ばかりは、お互いに苦労してるよね。と、労を労いあった。




 ***




 私は、体調を考慮しながら働ける場所を探し、今は別の保育園で調理のパートとして働いている。

 少数体制のため、忙しいけれどやりがいがあり、何より人が温かい。

 体調が戻れば、正規雇用も考えてくれると言われていて、そうなれたらいいなと、今は素直に思っている。


 そんな新しい職場からの帰り道には、綺麗な薔薇の庭がある家がある。

 道路越しに、見える白い薔薇をみて、ふと不思議の国の事を思い出した。


 風の噂によれば、今もあの調理場には、女王が居座り続けているのだという。

 そして哀れなトランプ兵たちは、女王のご機嫌をとるために、白い薔薇真実赤に塗りつぶす捻じ曲げるという愚行を繰り返し続けているそうだ。

 その構図は、いつか林田の言った通り、変わることはないだろう。

 でも、そんな事はもうどうでもいい。

 私はもう、悪夢から覚めたのだ。


「白い薔薇は、白い薔薇だからこそ、綺麗なんだよ。」


 自分が犯した過ちも、愚行も、全部背負ってありのままに、私は生きて行こうと決めたのだから。

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調理場地獄 ー今日の女王のご機嫌は・・・― 細蟹姫 @sasaganihime

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