第11話 再会

「お久しぶりです、その後お元気されてますか?」

「えぇ! それがね、友人のお子さんが飲食店を始めて、そこで手伝いしないかって誘われて、今電車で通っているのよ!」

「え!? 電車通勤ですか?」

「そうなの。電車で15分。もう年だから、働くのはやめようと思ってたんだけどね。最初だけでもっていうんで手伝いに。でも、電車に乗るって思うと服装とか気にするし、気合が入るし、仕事があるっていいものよね。身体は元気だし、何か始めて見るのもいいのかなって最近は思うのよ。」

「・・・・・・・・・。」


 未来を語る林田は、とても幸せそうで、話し合いの後の、絶望に打ちひしがれていた林田は、もう居なかった。

 それはとてこいい事なのに、私はそこに、素直に喜べなかった。


『あなたが居なくなったせいで、私は今酷い思いをしているのに、どうしてあなたはそんな幸せそに笑っているの!? 私は何処にも行けないのに!!』


 八つ当たり以外のなんでもない。

 だけどその時はもう、黒い感情が頭の中をモヤモヤとさせていくだけだった。


「あの職場は、きっと変わらないわよ、間野さん。」


 そんな私に、林田の落ち着いた声が語り掛けて来る。


「佐倉さんは役者よ。各所に色んな顔をして味方を作っている。それは、理事長も園長も人事部長も知っているの。でも、経営陣にはそんなこと、どうでもいいみたい。「ぶっちゃけ給食が出るのならそれで良い」と私に断言したわ。経営層は、親身に話を聞いてくれる。でも聞くだけで、最終的に根本的原因佐倉さんをどうにかしようなんて微塵も思っていない。私はね、佐倉さんに屈して辞めたわけじゃないの。ただ、そんな経営陣に心を痛めてまで尽くしたくないって思ったから、辞めたのよ。・・・間野さんはまだ若いんだし、仕事なんて沢山ある。あんな所に居て、これ以上心を壊す必要はないと思うわ。」

「林田さん・・・ごめんなさい、私・・・自分の保身ばっかりで・・・」

「いいのよ。あんな状況じゃ、誰だって自分を守るために動くわ。私に悪いと思うくらいなら、自分を大切にしてあげて。病気になったのに、あなたよく頑張ったわよ。大丈夫、こんなおばあちゃんの私にだって職が見つかったんだから、あなたにだって未来があるわ。」

「林田さん・・・」


 優しい言葉に涙があふれ、私は歩道で、人目もはばからず泣いた。

 林田さんは、そんな私の肩をさすって、泣き止むまでずっと寄り添ってくれた。

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