第4話 女王とは

「間野ちゃんって優柔不断だよね。リーダーなんだしもっとちゃんとしてほしいわ。」

「そうですね。でも、結構無理やりみたいなところもありましたけど。」

「でも、間野ちゃんの作る献立、なんか地味だよね。若いのにおばあちゃんぽくない?」

「あー・・・前の職場は純和食主義だったみたいですね」


 何かの折に、そんな佐倉の声が聞こえた。

当たり障りのない言葉を選びながら、返答しているのは新井。

2人は年が近く、打ち解けるのが早かった様だで、私が園長に呼び出される中、よく2人で話をしていた。


そんな2人の、聞いていいのか分からない会話に足を止めていると、そっと肩を叩かれた。

見るとそこには阿部がいた。


「間野さん、ちょっといい?」

「何でしょう?」

「私がリーダーに指名したから、苦労させちゃってるでしょ? 謝っておきたかったの。」

「あ、いえ。・・・でも、何故ですか? 元々佐倉さんがリーダーだったんですよね? なら、佐倉さんでよかったのでは?」

「彼女が居ない時間が平和すぎて。佐倉さんに実権を握ってほしくなかったのよ。でも、リーダーじゃなくてもダメだったわ。佐倉さんはね・・・この調理場の女王なの。あの人の機嫌を損ねると、クビを切られるわよ。」

「何ですかそれ? 不思議の国のアリスですか?」

「そんな可愛いものならいいけど・・・」


 そこで私は初めて、佐倉真理子女王という人物がどういう人間なのかを教えてもらった。

彼女は調理場の中から気に入らない人間を一人ターゲットにして、無視をしたり、陰口をたたいたり、皆の前で罵倒したり、そうやってこの7年で4人の人間を間接的に辞めさせてきたのだという。


周りを巻き込み「佐倉の意見」ではなく「皆の総意」として放たれる攻撃的な言葉の数々は、誰も否定できずに被害者の心を削っていく。

さらにたちが悪いのは、佐倉女王は外面が良いという事で、園長、主任、他保育職員からも厚い信頼を寄せられているという事。


学校の優等生がいじめの加害者。

という今の状況では、佐倉女王の「そんなつもりはなかったの!」の一言で、全てが解決されるという。


話を聞いて納得してしまった。

どうりで自分だけが園長に呼び出されるわけである。


「つまり、私は女王の機嫌を損ねたんですね?」


 先ほどの会話は、佐倉女王が私をターゲットにした事を示すためのものだったということ。

新井の返答は、どれも明確ではなかったかもしれないが「そうですね。」と言った時点で、女王の中では『間野は優柔不断でリーダーに向いていないと皆が思っている』という解釈になったに違いない。

そうなれば、待ったなし。


女王の機嫌を損ねたトランプ兵にあるのは、「首をハネろ!」という命令のみなのだ。


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