7月16日『錆び』

「深淵様、今日は私どもの仕事道具を見ていただけませんか?地下という環境上、どうしても錆びついてしまって……。薬品や専用の洗剤で磨いてはいるのですが、長持ちはせんのです」


 土竜もぐら族の国に来て三日目。ラビン師匠と私は族長さんに呼ばれて、彼等の仕事道具を保管している部屋に案内された。

 採掘に使っているという、先が尖ったピックハンマーや平タガネなどの道具を見せてもらったのだけれど……。長さんが話すように、錆びついてしまっている物ばかり。

 師匠は眉間にしわを寄せて、「うーん」と思案顔だ。


「師匠、魔法でなんとかならないんですか?」

「それがねぇ、ティア……。一度錆びを落としてから、物の耐久力を上げる付与魔法をかけることはできる、のだけれど……。何年も効果が残る魔法ではないから、結局は一時的なものなんだよ。本当は、土竜族の誰かに付与魔法を教えられるといいんだけれど」


 師匠はそう言って族長さんの方をうかがったが、彼は細い息を吐き、首を小さく左右に振った。


「私どもの一族で魔力持ちの者はほとんどらんのです。魔法を使える家系の者もいますが、換気のために力を使うので精一杯だそうで」

「ですよねぇ。どこの国でも世界でも、魔力を持って生まれる子がそもそも減っていますからね」

「そっか……」


 以前、風邪薬を作った時にも師匠はそう話していたっけ。魔力を持って生まれる子の希少さは年々増しているようだ。


 錆びついてしまった彼等の採掘道具を見ながら、私も何か良い案がないかと首を捻る。

 たしか、錆びが発生する原因は酸素と水分だったはず。

 ……ってことは、


「ラビン師匠、ここは魔法で換気をしているんですよね。外の空気を取り入れている、という認識で合っていますか?」

「うん。そうだよ」

「それなら魔法で調整して、この部屋だけ空気を乾燥させれば……。少しは錆びの発生を抑えられるのでは?あとは、密閉容器に採掘道具と乾燥剤を入れて保管するとか?」


 私の素人考えだけど、一応思いついた案を話してみた。

 師匠と長さんは、はっとした表情で数回瞬きすると、


「それだったら今すぐにでもできそうだね。換気に使っている魔法を、ちょっと応用させればいいだけだし……。効果範囲をこの部屋だけに限定すれば、魔力の消費量もそれほど負担にはならないはずだ。長、あとで換気を担当している家系の人達に会わせてもらえますか?僕が手ほどきしますので」

「おぉ、それは有り難い。後ほど深淵様のところへ伺うように指示をしておきます。採掘道具の保管方法も、これを機に見直してみます。お弟子様、ご助言ありがとうございます」


 族長さんに深々と頭を下げられて、私は慌てて顔の前で両手を振った。


「いえいえ!そんなに頭を下げないでください。思いついたこと言っただけなので、お礼言われる程のことじゃないですよ〜」


 当てずっぽうな考えで、私の案が上手くいくかはまだ分からないけれど。

 少しは役に立てた……のだろうか。


 半年後に帰郷したら、母国の採掘師達の仕事場を見学してみたいなぁ。

 後学のためにももっと見聞を広めなきゃ、と心の片隅で決意をした。

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