7月15日『なみなみ』
いくつかの大小さまざまな部屋が、それぞれトンネルで繋がっている。
昨日は族長の部屋で歓迎の食事を振る舞われた。ここでの滞在中は客人用の部屋を二部屋、借りられることになった。
「深淵様、お弟子様、初めまして。長の孫娘です。今日はわたしが我が家を案内させていただきます」
ぺこりと頭を下げたのは、まだ十代前半に見える女の子だった。三つ編みのおさげ髪と明るい笑顔がかわいい子だ。
「ご希望の場所があれば、そちらを案内させていただきますが……。見てまわりたい所はありますか?」
女の子の質問に、ラビン師匠は顎に手を当てて少し考え込むと、
「たしか、下の層に地底湖があったよね。あそこの水質を調べたいんだけれど。……ティアはかまわないかい?」
「あ、はい。大丈夫です」
「では、今日は地底湖まで案内いたしますね。あそこの水はわたし達もよく使っているので、深淵様に調べていただけるのなら有り難いです」
地底湖なんて見たことがないので、どんなところなのか興味がある。
師匠の意見に同意して、下の層まで案内してもらうことにした。
◇ ◇ ◇
「わぁ〜。不思議なところ……!」
三人でそれぞれランタンを持って地底湖にやってきた。私の声が反響して空間に響く。
土竜族の部屋よりも大きな開けた洞窟には、透明度の高い湖があった。ランタンで湖面を照らすと
師匠はレザーリュックからガラス小瓶を取り出し、なみなみと水を
「どれどれ……。水質は、っと」
ランタンを足元に置いた師匠は、小瓶を透かして見たり、手をかざして微量の魔力を注いだりした。
「大丈夫そうだ。この水質なら生活用水にしても問題ないだろう」
「深淵様、ありがとうございます」
「うん。ここの水質は気になっていたから、今回調べられてよかったよ。前回調べたのは百年ぐらい前だったからね」
淡々と話す師匠。
この人は……、本当にどれだけの年月を生きているんだろう。
本人すら年齢を忘れているようなので、疑問を抱くだけ無駄だとは分かっているけれど。
もしいつか、私が師匠よりも先に死んだら。……この人は一人になってしまうんだろうか。
ふと、そんなことを考えてしまって。
師匠と案内役の女の子が話している声を遠くに感じながら、ぼんやりと地底湖の水面を眺めた。
……水面に映った私の顔は、とても不安そうな表情だった。
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