ミッションNo.1、お昼ご飯を作れ!
ギラギラと照り付ける太陽の日差し。開け放った窓から時折吹き込む風が、外から草木の青々とした香りを運んでくる。何気ないおばあちゃんの一言が、私たちの小さなミッションになる。
「おばあちゃん、たまには、二人の作ってくれたごはんが食べたいなぁ」
******
従兄たちの朝は早い。従兄は6時には家の裏の小学校へとラジオ体操に行くし、従兄のおねえちゃんはその時間には自転車をこいで中学校に行く。部活が午前中に活動するらしく、『この時間に出ないと間に合わないんだよ……』とぶつくさいっていた。
一方私は、というと、朝起きるのが苦手だ。学校がある日は、家を出るのが8時なのにもかかわらず、起きるのはいつも7時45分。なんでだかわからないけど、学校が休みの日の方が早く起きられるから、土曜日、日曜日、それに今みたいに夏休みの期間は少し早く7時には起きる。そう、これでも夏休みの間の方が早起きだ。
……ちなみに余談だけど、私の弟は小さいからか、それとも元の性質なのか、とにかく朝が早い。いつも6時には起きているし、そうなるとお母さんももちろん6時には起きていて、お父さんも6時には仕事に行く人だったりする(お母さんに聞いたら5時30分に起きる時もよくあるって。早い……)。
おばあちゃんお手製の朝ごはんをお母さんと食べながら、朝のニュースの天気予報を眺めていた。おばあちゃんは「朝の涼しいうちに畑仕事を終わらせたい」と言って、先ほど自分の部屋へと準備をしに戻っていった。その時に私の弟はごはんを食べ終えたところだったので、お母さんが私とごはんを食べられるように、と、おばあちゃんが弟の面倒も見てくれている。従兄たちはとっくに朝ごはんを終えて、従兄は居間でゲーム(おばあちゃんのため息の原因の一つ)、従兄のおねえちゃんは部活に行った。
なんとなく見ていた画面の中では、少し年のいったお天気のお兄さん(……おじさん、まではいかない感じ)が手に棒を持って、いろんなところの天気を解説していた。それを聞いていると、どうやら今日は全国的に見ても暑く、最高気温もなかなかに高くなりそうらしかった。ここからは結構離れている自分の地元の最高気温のマークには、目がバッテンになって、口からベロがべぇっと伸びている顔文字がついていて、ふとお父さんや地元の友達らが頭をよぎった。
自分の地元に比べ、こっちの最高気温は低いけど。それでもやっぱり、暑いものは暑い。朝ごはんを食べ終える頃には、少しずつ、じりじりと夏の強い日差しがアスファルトを容赦なく焼き付けていく。そこでいつもよりかなり早めだけど、みんなで軽く打ち水をする。
「えいっ!」
「ぶっ! ……おりゃっ!」
「うおっ!!」
今日は火付け役の従兄のおねえちゃんが部活でいない、私の弟が参加している、私のお母さんが監視役で目を光らせている、みたいな条件が重なって、大人しい打ち水になった(※当社比、だけど)。それでも頭のてっぺんから足の先までびちょびちょになった従兄と私と弟。着替えたけれど冷えたのか、従兄と弟はまたすぐに外に出て日光浴をしていた。
「よくあんな日差しの中いられるな……」
私は、というと、それでもやっぱり少しは寒くて、かつての牛舎前の日差しが当たらないところでさくらの頭を撫でまわしていた。
そんなことをしていれば、またすぐに身体は温まって元に戻る。完全に身体が元に戻った頃、従兄と私と弟は一度家の中に引っ込んで、台所で麦茶を飲んでいた。
「これからなにしよう」
「なにしようねー」
「ねー」
上から従兄、私、弟。麦茶を飲みつつ考えていると、早めの畑仕事を終えたおばあちゃんが台所へと顔を出した。
「おばあちゃんにも。麦茶ちょうだい」
「はい」
従兄がおばあちゃんに麦茶を淹れる。それを飲んだおばあちゃんが一息つきながら、何気なく私たちの方を見ながら言った。
「おばあちゃん、たまには、二人の作ってくれたごはんが食べたいなぁ」
******
弟は流石に危ないから、とお母さんが回収してくれて、台所には従兄と私の2人が残る。おばあちゃんは少し早いけど、一度お昼寝をしたい、といって、居間で座布団を枕にしてスヤスヤと小さな寝息を立て始めたところだ。
「……どうしようか」
「……うーん……」
普段からお手伝いをしない、わけじゃない。だから、野菜入りのオムレツとか、お豆腐の味噌汁とか、ウインナー焼くとかなら出来るんだけど。ちょっと、他人の家の冷蔵庫を開ける、みたいな感じがして戸惑ってしまう。
「ごはん、何作ったことある?」
従兄に聞いてみる。従兄も普段からお手伝いをしていない、わけじゃない。……はず、たぶん。
「オレ? チャーハンとか」
「あ、チャーハン! いいじゃん、チャーハンにしようよ」
従兄が冷蔵庫を開けて、何が入っているかを確認する。
「たまごでしょ、ハムあるじゃん、ネギもこれ使って……」
「そうしたら私、味噌汁つくる」
「なに入れる? あ、わかめある」
「じゃ、わかめの味噌汁だ!」
朝、畑から採ってきたばかりのきゅうりとトマトを、氷水を作ってキンキンに冷やす。これは私がお父さんにこの間教えてもらった。『夏野菜はキンキンに冷えている方が美味しいよ』って。従兄はネギを切り始めた。私は先にたまごをといておかなきゃ、とお椀にたまごを割って出す。
グルグルと菜箸でたまごをかき混ぜる。本当はお母さんやお父さんみたいに、斜めにお箸を持って『カッ、カッ、カッ、カッ』とリズムよくかっこいい感じに混ぜたいんだけど、なかなかうまく出来ないんだよなー。
「うーん……。少し大きくなっちゃった……」
そういう従兄の手元を見ると、少し大きめの、それでも何となく均一には切られているネギ。
「大丈夫じゃない?」
「かなぁ……」
そう言いながらネギを一度お皿によける。続いてハムを出して切り始めた。私は混ぜ終わったたまごをテーブルに置いて、わかめを出して水につける。『塩をちゃんと取らないとしょっぱくなるよ』って、従兄が横からアドバイスをくれる。
「りょーかい」
そう言いながらわかめを何回か洗い流して、最後に水をためてその中に放置。チャーハンが終わるころにはいい感じに使えるでしょう。……たぶん。
「……さて。そしたら、炒めますか!」
「おっけー。ごはん、ボウルに入れるよ」
「えっとー、おばあちゃんでしょ、オレ……」
従兄が何人分かを数えて、私がその人数分の回数、お茶碗にごはんを入れてボウルへ入れる。山盛りになったごはんに私はちょっとびっくりしたけど、家族が多い従兄は慣れていて、慣れた手つきで大きいフライパンを出すと、油を軽く入れてネギとハムを入れて軽く炒め始める。全体的に火が入ったところで、山盛りご飯をフライパンへと入れた。
ジュージューと良い音をたてているフライパン。そこにたまごを入れて、固まる前に一生懸命ごはんとたまごを馴染ませる。塩コショウで味を調えて……。
「はい! できた!」
「おー! おいしそー!」
従兄特製、チャーハンの出来上がり。
「じゃ、あと味噌汁だけだー」
私はそう言って、従兄のチャーハンが入ったフライパンの横に小さめの小鍋を出す。お椀で人数分の回数分、お水を入れて、最後に蒸発する分のお水をほんの少し足して。火にかけえて、沸騰する前にだしの素を入れる。さっきふやかしたわかめを切って、水が湧いてきたのを確認してわかめを入れる。そうして味噌を溶いて、はい。完成。
「おっけ、味噌汁も準備できた」
「あとはきゅうりとトマト切って……」
そうして何とかお昼ご飯を作り上げた。
「おぉ! すごいねぇ!」
お昼ご飯が出来た、とおばあちゃんを起こして台所へと連れてくる。お椀によそったチャーハンと味噌汁、それに小さめのお皿にはきゅうりとトマト。
「本当だ、すごい!」
お母さんと弟も呼んできて、みんなで一緒に食卓を囲む。
「じゃ、さっそく。いただきます」
「「どうぞ、おあがりください」」
変なの、いつもと逆のあいさつに、ちょっとだけむずがゆさを感じる。だけど食べ始めたおばあちゃん、お母さん、弟が口々に『美味しい』って褒めてくれるから。
「へへ、美味しいって」
「やったね!」
小声で二人、お互いにだけ聞こえる声で喜びあった。
夏の匂い CHOPI @CHOPI
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