第42話

 しかし璃兵衛の言葉を、安楽はまともに聞いてはいなかった。


「目に鬼火を宿し、怪鳥を操るとは……これを殺すのは勿体ない……阿片漬けにして売り飛ばす方が、かなりの金になる……そうだ、その方がいい……」


 安楽は璃兵衛とそのそばに寄り添うバーに魅せられていた。


(この目は、あいつらの目と同じだ)


 『身体が弱い璃兵衛など売り払ってしまえばいい』

 『見た目だけはいいのだから高く売れるはずだ』


 幼く病弱だった璃兵衛の面倒を見に来ていた世話係が夜中に璃兵衛が寝ている思い、話しているのを聞いていた。


 薄く目を開けて世話係を見れば、欲にまみれた目をして璃兵衛を見ていた。

 そんな彼らと安楽は同じ目をしている。


「阿呆か」


 その時に浮かんだものと同じ言葉を、目の前にいる安楽に告げた。


「どんなに見目の良い人間でも、腹を開けば中身は同じだ」

「あなたは何も考えなくて大丈夫ですよ」


 しかし璃兵衛の言葉は安楽には届かない。


「ただ逃げられないように、少し大人しくさせてもらいますがね……!」


 安楽は璃兵衛に向かって短刀を振り下ろすが、それが璃兵衛に届くことはなかった。


「遅かったな」


 安楽の腕を掴み、短刀を止めたのはレンだった。


「お前に文句を言われる筋合いはない」

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