第36話

「罰当たりはどっちだ」


 璃兵衛はそんな安楽をひややかに見返した。


「あの墓は茜の母親の墓だ。塔婆は新しい墓にこそ立てられているはずだ。それが立っていないのはおかしいと思わないか」

「それは……そう、うっかり忘れていたのですよ。私も何かと忙しい身で」

「坊主のかたわら、盗人への指示役もしていれば忙しいだろうな。どちらが本業かわかったものではないが」


 安楽が動揺で肩を揺らしたのを璃兵衛は見逃さなかった。


「先程から何のころやら」

「お前の計画はこうだ。盗人に医師から阿片を盗ませ、適切な治療を受けられずに死人が出た家から金を盗ませる。お前は何食わぬ顔で家を訪ね、金がなければ自分がタダで葬式をしてやると遺体を引き取る。そうして引き取った遺体の腹を開き、医師から盗んだ阿片を詰めて輸出する。まさか遺体を入れ物に使うとはな」


 璃兵衛の言葉に安楽は一瞬たじろいだものの、すぐに落ち着きを取り戻した。


「そんな突拍子もない話をされても困ります……それに証拠はあるのですか?」

「お前が家を訪ねるのは葬式ができず困っている最中だ。まるで仏を迎えに来た菩薩のようだと言われているそうだが、一日に何軒も回るなど事前に人が死ぬとわかっていないかぎり不可能だ」

「お前、なぜ、それを……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る