第11話
「同じような遺体は見つかってないか。最近何かおかしなことは起きていないか。それを富次郎に聞きに来た」
「なるほどなあ……」
腕を組み、ここ最近の事件を思い出す富次郎は、青い顔で口元をおさえていた時とは別人のようだ。
「……少なくとも俺が担当しとるとこではそんな遺体は見つかってへん。それやったら、とっくに瓦版になっとるはずやろ」
「たしかにそれもそうだ」
瓦版がこんな派手な文面になりそうな話を見逃しておくはずがない。
「他に何かないのか?」
「何かって言われてもなぁ……」
富次郎は困ったように頭をかいた。
「お前が知っていることでいい。幼馴染に世間話として語るなら問題はないだろう?」
「どういうことだ?」
たずねるレンに璃兵衛は答えた。
「さっきは同心としてのこいつに聞いた。そして今は幼馴染としてのこいつに聞いている。頭をかく時は何か知っている時だからな」
「げっ! ほんまか!?」
璃兵衛の指摘に慌てる富次郎を璃兵衛はじっと見ていた。
「やっぱり何か知っているな」
「頭をかいているところを見て、知っていると思ったんじゃないのか?」
「鎌をかけただけだ。だが、俺の指摘に慌てるところを見ると何か知っていることにまちがいない」
「なるほど、そういうことか」
「あー、もう! 降参や、降参!!」
ふたりのやり取りに富次郎はやけくそのように叫んだ。
「……それで、お前はどこまで知っとる?」
「なにも? ただ情報も集まる先は選ぶ。お前は幽霊嫌いの恐がりだが、好かれている同心であることには違いない。そうした人間の方が情報も集まりやすいだろう」
「勝手な時だけ幼馴染面しおって、お前は……」
富次郎は諦めてようにため息をつくと話し出した。
「言うても惨い事件とかやないぞ。ここんとこ阿片の盗難が続いとるとか、菩薩て呼ばれとる坊主がおるとかくらいで……」
「阿片の盗難とは穏やかではないな」
「阿片……?」
「麻酔、痛みを取り除く薬として使われている。芥子と言えばお前にもわかるだろう」
「あぁ、あの花のことか」
レンがいた国でも芥子は薬の一種として使われていた。
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