第10話

「まさか同心の富次郎が幽霊嫌いだったとはな。富次郎の世話になっている者達が知ったら、がっかりするだろうな……」

「今更、わざわざ脅しにかからんでええわ」


 幽霊嫌いを秘密にしておきたい富次郎は、たびたび幼馴染である璃兵衛にそのことをちらつかされ、わがままに付き合わされている。


「んで? わざわざ見回り中の俺のとこに来るほどの用はなんや?」

「昨日、亡くなった母親の腹の中が空っぽになっているのを見たという子供が店にきた」


 璃兵衛は事実を淡々と告げたが、それを聞いた富次郎の顔から血の気が引いた。


「いや、ちょお待て。腹の中が空っていうんは、つまり」

「母親の遺体の腹が開かれ、中にあるはずの臓器がなくなっていた」

「惨い話や……母親を亡くしただけでもつらいのに、そんな……うぅ……」


 富次郎はその場面を想像してしまったのか。

 顔を青くすると掌で口元をおさえた。


「泣いたり吐きそうになったりと忙しいやつだな、お前は」

「むしろ、なんで腹開いた話を見聞きして、ケロッとしてんねん、お前は」


 そう言いながらも、またその場面を想像してしまったらしく、富次郎は声にならない声を上げ、再び口元をおさえた。


「大丈夫か?」

「あぁ、悪いな……」


 レンが背中をさすってやると少しは気分も楽になったようで、口元から手を離すことには顔色も元に戻っていた。


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