第7話
「あの世に送る前にお母ちゃんを綺麗にするからて、お母ちゃんを別の部屋に連れてって……けど、うち、まだお母ちゃんと一緒におりたくて。ほんで部屋のぞいたら、お母ちゃんのお腹開いてて、からっぽで……その後はよくわからん」
その時のことを思い出したのか、茜の手は震えていた。
「それで茜はどうしたいんだ?」
「お母ちゃんを、元に戻して送りたい……うちにできるんは、それしかないから」
「それしかないと言っても」
「わかった」
レンの言葉をさえぎった璃兵衛の言葉に、茜はおそるおそる璃兵衛を見た。
「ほんまに?」
「あぁ、茜の母親はちゃんと元に戻してあの世に送る。約束しよう」
「……指切りしてくれる?」
「もちろんだ」
璃兵衛が茜と交わした指切りはひんやりと冷たかった。
***
「あんなことを言ってよかったのか?」
茜が店をあとにし、店内には再び静寂が戻った。
座れば死ぬ椅子として持ち込まれた椅子に腰をおろし、茜から渡された櫛をながめる璃兵衛にレンはたずねた。
「断る方が鬼だろう。それともなんだ。本当に鬼にでもなるつもりか?」
「俺が言いたいのはそういうことではない」
「なら、別にいいだろう。どうせ店を開けていたところで客は来ない。それに……」
櫛を胸元にしまった璃兵衛は白い指先で人形の腹部にはめ込まれた作り物の臓器をなぞり、笑うように告げた。
「空っぽの遺体なんて、面白いと思わないか?」
「……悪趣味だな」
「あんなに必死な願いを断れないというのも本当だ。さすがの俺も人でなしじゃない」
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