花咲け乙女、せんごくぅ!〜中華な乙女ゲーム世界で皇帝女子は生き抜いてみせる〜

パタパタ

第一話:可憐な(異論は認めん)乙女は生き抜きたい!

しき……、私が生まれ変わったらお嫁さんにしてね?」

「……ッツ!?」

 識が必死に何かを言っている。

 ああ、でももうその声も聞こえない。


 ありがとう。


 せめてそれだけを伝えたかったのに、唇すらも動かせない。

 そうして生涯を閉じる私、深坂恭子ふかさかきょうこ16歳。


 残念ながら法律改正で結婚は18歳からになったので、死ぬ前に織と結婚する夢はあえなく絶たれた。

 織も同じ16歳だから、どのみち無理だったけど。


 そんな生涯を終えた可憐な(異論は認めん)乙女の私。






 生まれ変わりという奇跡を経験した私はその存亡をかけて土下座している。

 ここが私の人生の天王山、天下分け目の大決戦。

 生きるか死ぬかを賭けた全力土下座である。


 私はシキに会うまで死ぬわけにはいかんのだ。

 ここで死ぬわけにはいかんのよぉぉおお!


「……チッ。陛下。頭をおあげください」


 舌打ちしたぁ!?

 今、絶対、舌打ちした!

 皇帝陛下への敬意はどうしたァァア!

 この国の権威はどこに行ったというの!


 まあ、そんなもんないから皇帝のはずの私が生きるために全力土下座してるんだけど。


 盛大に舌打ちをしたそいつは次の瞬間には困ったような表情を浮かべる。

 もっとも相手が当惑するのはわかる。


 されでここで退くことは叶わぬ!

 私の唯一の救いの道をここで逃してはならんのだ!!


 ここからの戦乱の中でこいつだけが領地を維持し続けたのだ。

 私はこいつに賭けるしかないのだ。


 花咲け乙女〜戦乱絵巻〜というゲームがあった。

 私が病気で死ぬ前にやっていたゲームだ。


 中華風世界で学園編からスタートし、やがて始まった激動の先端の中でイケメンたちを攻略していくゲームだ。


 選択肢にもよるがトゥルーエンディングのためには皇帝になれなければならない。

 そもそも皇帝になれなければ全てバッドエンド。


 主人公は首を斬られるか、ボロボロにされてスラムに捨てられて行方不明か、まあ、全て悲惨な最期だ。


 そしてイケメンたちを侍らす逆ハーレムを築くと、ラストは中央で足を組み妖艶な笑みを浮かべる皇帝女子とそれを囲むイケメン男とのスチルが手に入る。


 そして一言。

 私たちの戦いはこれからだ。


 これをクリアした者は思ったことだろう。

 その一言、必要だった?


 そのベストエンドにそれすらも周辺は敵に囲まれ、自分の支配領地は帝都のある3都程度。

 建前上、皇帝だけどすでに権威は地に落ちたまま。


 そこから逆転、再統一とか奇跡を起こしても無理なものは無理。

 あるある。

 ゲームとか小説にはこのパターンよくあるぅううう!


 現実的に考えたら、このあとアレがこうなってそうなるよね? 

 むしろそうならないわけなくない?

 なんで、こんなハッピーエンドおめでとうみたいな雰囲気で終わってんの?


 そんな気づく人は気づいてしまう、事実上のメリーバッドエンドというやつだ。


 なので記憶を完全に取り戻した私は考えた。

 必死に必死に考えた。


 考えた結果。

 あれ? これ詰んでね?


 気づいてしまった。


 男どもを誘惑して逆ハーレムを築いてイケメンどもの才能に頼るにも、そもそも男を堕とす手技とか知らんぞ?

 こちとら恋愛経験皆無の病死女子ぞ?


 謀略渦巻く帝都で、なんかいい感じに乗り切る。

 うん、私の暗殺待ったなしだよね。


 ついこの間、忠臣ヅラしてやたら接近してきたおじさんはよくわからない罪で投獄されて、すぐに病死したとか。


 宦官という特殊な官僚の偉いさんが報告してきた。

 うわぁ……、傀儡政権かいらいせいけんだぁ。


 古来よりこういった人に私物化された国がまともに運営された例は存在しない。


 少ない情報源とゲーム知識から考えると国の崩壊はもうすぐというか、実質崩壊してるんだろうと思う。


 それでも私は考えた。

 生きるために必死に考えた。


 生きて彼と……幼馴染のしきと必ず再会するのだ!!!


 そのためならば……土下座の一つや二つや三つ、モノの数ではないわァァアアアアア!

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