無数に存在しているといわれる「異界」。それを研究するために選ばれたのは、刑の執行を待つ死刑囚X。異界を研究する「私」はXの視界を頼りに異界を探る。
「私」の視点で語られる、Xの視界を借りた異界観察記録です。
一話完結の短いお話なのでどのお話から読んでも楽しめます。
異界は私たちの世界とそう変わらない場所もあればまるで違う場所、同じように見えて一部が異なる場所など様々です。何十もの異界がこの一作に詰まっていますから、印象に残る異界や行ってみたい異界に出会えることでしょう。
様々な異界を渡り歩くという設定もわくわくしますが、私が引かれたのはXというキャラクターです。
死刑囚にしては穏やかな雰囲気。人に頼られたら断れないという性質。それでも時折見える、一般人ではないのだと分かる言動がXを一層ミステリアスな存在にしています。
Xがどのような人生を歩んで死刑囚になったのか、それはこの物語では語られません。あくまでこのお話はXが異界を渡り歩くお話であり、それを観察する「私」の記憶なのです。
設定というものは語りたくなってしまうものですが、語られないからこその魅力もあるのだとこのお話を読んで強く感じました。
「私」とXの一言で語るには難しい関係も良いスパイスになっており、もっと彼らのお話を読みたかったと、読了して寂しい気持ちになってしまうような作品です。