二六話 池部の地蔵堂

 愛知県稲沢市池部町に池部地蔵堂があります。元々、農村にあるお堂で、実は隣にあるお寺よりも歴史は古いのだそうです。

その辺りのことについては、「愛知県の円空仏」に父・前田清逸が書いてるので興味のある方は是非ご一読下さい。


 それでは、しばらくお付き合いください。


 予定より早い時間に地蔵堂前の火の見櫓の傍に車を止める。しばらくすると管理人のIさんが到着され挨拶を交わすと早速、お堂の鍵を開けて下さった。それと同時に、もう一人、地元の立ち合いの方が到着されました。


 地蔵堂は、須弥壇を除けば六畳ほどの広さです。ここを訪れるのは、三回目となります。

 最初は、高校の頃(昭和六〇年、1985年)、両親と参加した円空学会の研究会、次が7年前(平成29年、2017年)の栄中日文化センターの現地学習だったと記憶しています。


 高校の頃は、学校の行きか帰りにはよくお堂の前を通ったものです。当時は、時折、入り口の引き戸が少し開けられていることもあり中を覗き込んで手を合わせたこともありましたね。


 さて、お堂の中は板の間が六畳ぐらい。簡素な須弥壇の前には盗難防止の柵があり、そちらも開けて頂きました。

 まだ、小島梯次円空学会理事長が到着されていないので、しばらく父が書いた池部地蔵堂周辺のお祭りなどについて最近の地蔵堂周辺の取材を進めることにしました。


 少年時代から住んでいたという方の話では、今では地蔵堂の創建時の記録は既に伝わっていないということ。また、地蔵堂所蔵の円空像は現在五体あるが、いつごろから化粧をしていたのか定かでないとのことでした。


 「愛知県の円空仏」には、地蔵堂を中心として行われる「提灯灯し」という祭りについて書かれています。少し紹介しておきましょう。


 「提灯灯し(とぼし)」と言う祭が主に夏に行われます。稲沢市各所で行われる子ども会規模の小さなお祭りです。

 日中に子供達が一軒一軒を回り、少額のお金を集めて提灯に使うローソク代などにあてる訳で、夕方以後に提灯に火を灯し、余ったお金でジュースやアイスクリームなどを買って肝試しなどをして遊ぶという風習です。

これが四五年程前の祭の姿でしたが、それより前はもっと形が違ったそうです。


 残念ながら、今ではコロナ禍の影響や少子化の影響もあり、最近はやっていないのだそうです。


 さて、ここからは、本題の地蔵堂の円空像群についてです。

現在、地蔵堂には地蔵三尊、観音菩薩、勢至菩薩の五体があります。

観音菩薩と勢至菩薩があることから、阿弥陀如来もあったそうですが、昭和45年(1970年)頃に盗難に遭い当時は村中で探したものの見つからず現在に至っているようです。


 五体の共通項である彩色は、全身に至ります。下地は胡粉か砥粉(またはその両方)を使い、顔や胸など肌が露出している部分には薄い桃色(胡粉に混ぜ物?)に見えるものが塗られています。


 装束は、墨液の様な黒さをしていますが、白手袋を嵌めて触ると黒くなっていたので墨(または炭)を粉状にし、水を混ぜたものを塗りつけたのかもしれません。


 蓮座は、下地の上に辰砂の様な赤いものを塗り、その上に緑青(緑)を。トップには瑠璃(青)を塗ってあるようです。


 その為、全体的にボテっとした感じがします。円空が彫った地蔵菩薩は、概ね裸足のものが多い訳ですが、上塗りし過ぎて指が見えなくなっているものもあります。

また、経年劣化の影響で塗膜が素の材から遊離しかかっている箇所も見受けられました。


 地蔵三尊の中尊である「地蔵菩薩」は、像高が四四・五㎝。

普段は、涎掛けを着けており、管理人の許可を得て外してみると二重に着けているのが判りました。それらを外すと、中から現れたのは金泥を塗られた宝珠でした。

彩色を落とすとどんな表情をしているのかと返す返すも残念に思いました。

彩色を施すのも供養の一部と判っておりますが、地元の方と研究者(愛好者含め)の意識の違いと割り切るよか無いのでしょうね。


 背面の墨書は「ウ(最勝)」「オン(帰命)」「サ(観音)」「カ(地蔵)」の他、大日如来三種真言があり、また、底面には「ボローン(一字金輪仏頂)」が墨書されているのが確認されております。


 地蔵菩薩の脇侍は、「人道地蔵」と「未来地蔵」です。

正面からの見た目は、中尊の地蔵菩薩とほぼ一緒です。

 違いを書いておくのであれば、「人道地蔵」は、袖の中に左右の手がそれぞれ隠れているので、結印しているのかもしれません。両足は、指の表現が見えず、まるで沓を履いているかのように見えますがライトの証明角度を変えると、指の表現の刻線がわずかに浮かぶ為、胡粉や泥絵の具で隠れてしまったと考えた方が良いかもしれません。背面に「人道」「地蔵」と両肩に分けて書かれているので分かり易いですね。


 もう一方の「未来地蔵」は「人道地蔵」と違い、方形の器の様なものを持っているのが判ります。いろいろと調べてみると、木椀の可能性があります。

台座の彩色は、こちらの方が判りやすいと思います。

泥絵の具の種類確認できるだけでも、

・黄土(黄)

・緑青(緑)

・辰砂(赤)

・瑠璃(青)

の四色のようですね。

こちらも両肩に分けて「未来」「地蔵」と墨書されています。


 次に「勢至菩薩」と「観音菩薩」についてです。

両者の違いは、持物の違いと言っても過言ではありません。

共通項は、黄土の宝髪(俗に火焔状と言います)、裸足で蓮台、岩座の二重台座に乗ります。

「勢至菩薩」は、胸の前で両手で合掌をしている形状になります。

一方の「観音菩薩」は、胸の前で両手で蓮の花を持っています。

背面を見るとそれぞれ「勢至」「観音」と左肩に書かれているので、こちらも簡単に区別がつくと思われます。


 地蔵堂を管理される方に確認したのですが、年に数組ですが研究者や円空ファンが予約をして訪れるのだそうです。

今後とも、地域の宝として末永く継承されていくことを祈念します。






 

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