十七話 星宮神社と美並ふるさと館(改稿しました)

 令和五年九月十七日(日曜日)、嫁さんを誘って岐阜県郡上市美並町高砂にある星宮神社と美並ふるさと館内の円空展示室である「円空ふるさと館」を久しぶりに訪ねてみることにした。


 午前9時に愛車のタフト(ダイハツ製)に乗り込み、東海北陸自動車道を一路北上。岐阜市を通り抜け各務原市、関市に差し迫ってきた頃に雲が増えだした。

「降ってくるかねぇ?」

「どうだろ?」

と嫁さんと天気の心配をした。

はっきり言うと、傘を積み忘れたのだ。


 タフトは、美濃インターチェンジを走り抜け、美並インターチェンジで東海北陸自動車道を降り、少し、国道一五六号を南下。


 長良川鉄道「苅安」駅近くの南側の踏切を渡り、長良川を越えた。その後はしばらく長良川沿い、支流の粥川に沿って目的地を目指す。自宅を出発し、約一時間で星宮神社鳥居前の駐車場に車を止めた。


 九月半ばと言うのにまだまだ平地では三五度を超える日が続くのだが、さすがに自然豊かな土地柄なのか空気が違うと思わせた。


 車から降り、スマフォで何枚か写真を撮りながら、まずは星宮神社を参拝。

 浄財を賽銭箱に入れ、二礼二拍手一礼の作法に則りお参り。


 星宮神社は、高賀修験六社一観音の一つに数えられる。


 その昔(平安時代)、藤原高光が鬼(猿寅蛇という鵺の一種とも言われる)退治の為、この地を訪れた。


 その際、矢を清めたと言われる淵「矢納ケ淵(やとがふち)」が境内地にあったり、星宮神社の使いである粥川の鰻が鬼の居場所まで高光を案内したことから、この地の人は鰻を絶対に食べないとなどの伝承が残る。


 その後は、境内地にある粥川寺、棟続きの美並ふるさと館へと歩を進めた。


 粥川寺は星宮神社の別当寺とも言われる。一説には、円空は美並の地で生まれ、やがて粥川寺で出家得度をし修業したと言われる。美並生誕説の中心地とされる。


 以前にも書いたが、美並出生説が昭和五〇年代にたてられた新しい説で、木地士にそのルーツを持つなど盛んに言われるが、確たる証拠が見つからないのもまた事実である。


 さて、入館料の二百二十円(大人一人)を二人分支払い、円空像が展示されている室(へや)へ向かった。

「相変わらず、誰も居ないのね。」とは嫁さんの談。

「まぁ、こんなもんでしょ?観客を増やすとかそう言うことは考えてないのかね?」

と応じた。


 以前訪れた(十年ほど前)際、展示室のドアは閉ざされていたが、今回は開いていた。

 実質、二室に九十一体の円空像、円空の自筆の経典などの資料がカラーコピーを含め十数点、後藤英夫氏(故人)による写真、年表などの資料類が並ぶ。


 手前の部屋には、美並に伝わる自筆の文書資料や各地の円空像の写真、白山神の託宣が記された十一面観音菩薩が展示される。


 次の部屋には、美並町各地に残る一五三体の円空像の内、九十体が並ぶ。

次室に入り左に折れると、よく知られる寛文三年(一六六三年)以前のものと言われる像が五体と八幡大菩薩が並ぶ。


 その中で一番左のものは確かに円空の初期像に似た雰囲気はあるが、果たして五体全てが円空の手によるものかは確ことした証拠がないのでなんと言えない。


 一番大きなもので、慈照庵(苅安の林広院の管理するお堂)の薬師如来(像高八十五センチ)。

 後期像なのかものすごくお顔がにこやかで、左肩になぜか龍の頭が彫られているのが印象的だ。


 一番小さなもので、個人蔵の小仏像(像高三.八センチ、形状から如来ではないかと思う)がある。


 他にも月光菩薩が焼損している薬師三尊、土地の老婆を思わせる木成りを活かした庚申像(実際には、どのような像種かは判らないのだと思う)、円空が白山神の信託を得たという記述の残る不動明王が二体、頭部に宇賀神、身体が不動明王、騎獣(ヤマイヌ、オオカミ、キツネ?不明)に乗る山の神(正式名称は、不明だ。)などなど、そのバリエーションや制作年代の変遷を見るにはうってつけの施設であると言える。


 個人蔵のものの展示も多く、円空像を見る上で欠かせない場所だ。

このエッセイを読まれた方で円空像に興味を持たれた方は、是非ともお勧めしたい拝観スポットである。


 生憎、円空学会とは一時期、幾つかの要因で縁が離れてしまっているので、今後新たな縁を結び直せたらなと深く考えている。


 いずれかの時にまた円空学会の研究会や総会を美並の地で開催したいものである。

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