十話 三重の円空展(改稿済み)

「三重の円空」展へ10月9日に行ってきました。

まず、円空学会の常任理事として、担当のT学芸員に挨拶をし招待券のお礼。

広報のお礼にと図録を一冊頂戴しました。


 Tさん、嫁さん、僕の3人で展示室に入り、あれこれ談笑後、Tさんが離れて夫婦だけの観覧。


 最初の部屋は、志摩市片田地区の大般若経扉絵が並びます。

一巻は、元の釈迦説法図の版画を緻密に書き写した絵ですが筆が進むにつれ、省略(抽象)が始まります。


 大般若経の経典の巻数の進み具合と円空の描いた説法図の省略の進み具合には違和感があり、必ずしも順序よく扉絵を貼り付けたわけではないのだなと考えてしまいます。


 次の部屋は、志摩市立神地区の大般若経扉絵が並びます。

まず、円空の扉絵の元になった版画の釈迦説法図があります。


 これを見た後、もう一度、片田地区の大般若経第一巻の扉絵を見て下さい。

それで円空の描写力が分かるのではないでしょうか?

 片田から立神へ場所と時間を移し、筆致や構図がますます省略されるのが分かると思います。


 登場人物が減り、背景も抽象化され、やがて中尊の釈迦如来だけになるという不思議な扉絵は、「一切は空である」ということを物語っているかのような印象を受けます。


 片田、立神の円空絵画(大般若経扉絵)のコーナーを過ぎると、円空像のコーナーとなります。


 今回の企画展には、三重県内で23体、奈良県から2体、岐阜県から6体の全32体が出展されています。


 大きいもので目に付くのは、津市・真教寺焔魔堂の十一面観音菩薩(高さ236.3㎝)と志摩市片田の三蔵寺の聖観音菩薩(高さ165.2㎝)、菰野町・明福寺の両面仏(高さ163㎝)があります。


 真教寺焔魔堂の十一面観音菩薩は、造像時期が推定しづらい作りであり、この像独特な雰囲気があります。

 どことなくアフリカ芸術を思わせるような表情をしています。


 三蔵寺の聖観音菩薩は、高さの割に厚さの薄い材を用いているように感じられます。梁などの建築余材を用いて造像されたのでしょうか?


 また、明福寺の両面仏は、一方に阿弥陀如来が彫られ、その反対側には薬師如来が彫られているという一風変わった仏さまです。

 明福寺では、普段はどちらを正面にしてお祀りされているかは答えられないんだそうです。

 実際にお参りにいらした方だけが「あぁ、今回は阿弥陀さんが正面だった」などの感想を言われるのだとか。


 次に紹介しておきたいのは、立神・少林寺の観音菩薩と護法神の二体です。

円空が片田・立神に大般若経の修復したのは、彼の自書により延宝二年(1674、42歳)だと分かっているので、その頃の作だと言われます。


 大般若経扉絵を描くことで、省略と抽象化という技法を会得したものだと紹介されることが多い像です。

 立木や木端に必要最小限に手を加え、一つの仏像にしてしまう円空の凄さを象徴している気がします。


 円空が三重県の地を訪れたのは、何も延宝ニ年だけだった訳ではありません。

伊勢市の中山寺と津市から、それぞれ極初期像が見つかっており、三重の円空展に出展されています。

 極初期像は、岐阜県郡上市美並町の神明神社で彫った最初の三体の像(寛文三年、1663、32歳)から始まる寛文四年ごろ迄のニ年間に造像されたものを指しているようです。


 中山寺の文殊菩薩は、右手に経巻を持ち、左手は宝剣が持てるように拳を握っています。

 また、蓮座と岩座の二重の台座になります。

蓮座の脇に垂衣の細工が施され花びらの葉脈の筋彫りがとても細く丁寧に彫られています。

 岩座には、獅子の顔が彫られており、そのなんとも言えない表情がおかしくもあります。

 尊顔の両目は二重の刻線で表現されており、その目尻は吊り上がり、表情が固いのも極初期像の特徴を示しています。


 一方、津市の区有の大日如来は、宝髪が特徴的な作りがされており、胸前で智拳印を結びます。

 蓮座と岩座の二重の台座に乗ります。

これは、中山寺の文殊菩薩と同じ彫りの特徴ですので造像の時期が近いことの証拠の気がします。

 蓮座の葉脈の筋彫りや岩座の凹凸の彫り、衣紋の彫りを見るとかなら緊張して彫ったのだろうかと思わせるほど、丁寧に彫られています。


 最後に紹介しておきたい像が二つあります。鈴鹿市の宇賀弁財天と伊勢市・法住院の不動明王です。


 二体に共通しているのは、どちらも頭部裏に梵字の「ウ(最勝)」が墨書されていることから、延宝八年(1680、48歳)以後の作ではないかと考えられます。


 背面墨書の内容による時代判定については、小島梯次円空学会理事長の説に拠ります。


 鈴鹿市の宇賀弁財天は、頭頂部に日本固有の宇賀神という人面蛇身の穀霊神が彫られ、本体は弁財天であると言う一像複合体の様式を取ります。

円空の彫った弁財天は、基本的にこの形式ばかりです。


 また、伊勢市の法住院の不動明王は、本年六月に伊勢市周辺の調査に訪れた岐阜

大学の野村幸弘教授(円空学会会員)が伊勢市文化財政策課の職員と訪ね歩かれた際に同寺の檀家でお寺の運営に協力をされている方からの紹介を受け確認。


 その後、円空学会の数名で同寺を訪れて確定調査と記録撮影が行われました。

まだまだ謎が多い像なので、調査の結果もまだまだこれから提示されていくであろう楽しみの多い像であります。


 見どころの多い「三重の円空」展は、12月4日までの会期となります。

11月8日には、片田・立神地区の大般若経扉絵が入れ替えられ後期展が始まりますので、前期展を観覧された方も、是非もう一度足をお運びください。


 もちろん、まだの方も謎の多い魅力たっぷりな円空ワールドが楽しめるかと思います。是非、お出掛けの程を!

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