二話 中観音堂(改稿済み)
岐阜県羽島市上中町中にコンクリート作りの二階建ての建物がある。
我が家から車で三〜四〇分程の距離である。
木曽川に架かる馬飼大橋を通り、田圃の中の市道をひた走る。
途中、車同士が交互に行き交う様な箇所を抜けて、名鉄竹鼻線(今では一部廃線)の踏切を越えると目的地に到着する。
逆方向の羽島インターチェンジからだと、インターを降り約10分もかからないだろうか。
近年では、インター周辺にコストコができたので、渋滞にはまるともう少しかかるかもしれないが。
本堂は、コンクリート造りの二階建て。
初めて訪れた際は、父が運転する車が境内の駐車場に乗り入れ、停車。カメラ道具一式を持ち建物へ向かった。
まだ、この頃には本堂横の資料館も隣家敷地内の「円空産湯の井戸」とされる施設も無かった頃だ。
階段を十数段上ると直ぐに本堂だ。
そう、最初に訪れたお寺が円空とも縁が深い中観音堂だ。
何故、中観音堂が円空と縁が深いのか、まだこの頃は知らずに居たので後述することにしようと思う。
入口を潜り、堂宇の天井は高い。
照明は、ほの暗かった覚えだ。
参拝者が座れるスペースは大人が二十人も座れば一杯だろうか。
この世と神仏の世界を仕切る様に木の柵が設置され、その先には、中心に十一面観音菩薩が立っておられ、左右にそれぞれ数体ずつの円空像が立ち並んでいた。
十一面観音菩薩の像容はというと、糸目のような両眼で、円空像の特徴でもある微笑みはあまり感じられない。
むしろ、本面の上の小面の方に微笑みがあるような感じか。
胸の辺りに左手で水瓶を持ち、右手は掌が参拝者の方を向いて下におろされていた。
間近で見るとやはり大きいと感じた。
十一面観音菩薩の右翼には、衣冠束帯の装束を着た平安貴族を思わせるような神像、頭頂部に老人蛇身の宇賀神を乗せる宇賀弁財天、酉年の守り本尊でも知られる憤怒相の不動明王、米俵に乗り小槌を振り上げるふくよかな大黒天、像種は分からないが甲冑姿の様な二体の護法神に続く。
もう一方の左翼には、柘榴を持ち日本で唯一ここにしかないと説明を後に受けた鬼子母神、角髪(みずら)で上半身が裸、合掌をする聖徳太子、耳朶が肩にかかるほど長く、異常に長い台座に座ると阿弥陀如来、宝髪や台座が特徴的な大日如来が立ち並んでいた。
社交性の高い母(おしゃべり好きとも言う)が堂守のお婆さんに挨拶をし、拝観料を払う。
すると徐ろにその老女はカセットプレイヤーの再生ボタンを押す。
そして、備え付けのスピーカーから解説が流れ出すという仕組みだ。
今から四十年も前は、堂守のお婆さんにお布施を渡せば誰でも気軽に写真が撮れた。
お願いすれば木の柵の鍵を開錠して内陣で拝観、撮影ができたものだ。
この日を最初に我が家族は、多年に亘り何度も中観音堂を訪れるようになる。
当然のようにお婆さんにも、顔を覚えられる訳でもあるのだが…。
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