over extended.

 起きた。


 彼の部屋。


「うわ。また」


 もしかして夢で。

 彼はいなくて。


「うっ」


 えっうそ。


「おええ」


 なにこれ。ぐらぐらする。ぐらぐらする。目が。めがまわる。


 彼はいなくて。

 彼の部屋で。

 わたし。


 しぬのかな。



「おいおいおい。動くなって」


「おわぁ落下する」


「ベッドから落下するって。落ち着け。まず寝ろ。ゆっくり。はい。ゆっくり」


 ベッドに着地。

 すごい。

 天井15回転半。


「覚えてるか?」


「飛び降りようとして。あなたがいて。やめた」


「そのあとは?」


 あれ。


「覚えてない。もしかしてほんとに飛び降りた?」


「ばかだな、おまえ」


「ばかとはなんだっ、あっ、おええ」


「起き上がるなよ」


 なんなのこれ。永遠に回転してる。


「浴びるほど酒呑んだんだよ。俺が帰ってきた記念とか言って。ばかかよ」


「さけ?」


 酒。

 えっぜんぜん覚えてない。


「なんでそんなに呑んだよ」


「え」


 酒。

 酒か。


 あ。


 そっか。


「たんじょうび」


「は?」


「おさけのめるとしになった。なりました」


「え?」


「今日。あ、昨日かも。とにかく。おさけ。はじめてなの」


「おまえ。若いな。もっと大人の女かと思った」


「うるせぇ。おええ」


「悪態かえづくか、どっちかにしな」


「あなた。あなたはどうなのよ?」


「もう何年も呑んでるから、べつにどうということは」


「うそ。大人の男。うそ」


「この世の終わりみたいな顔だな」


「えづいても?」


「どうぞ」


「うええ。お酒ってなんなの」


「呑んでるときは上機嫌だったのになあ」


「記憶ないよお」


 あっ。


「待って。行かないで」


「いや。腹へったから飯を」


「行かないで。ここにいて」


 離れたくない。

 また、会ったから。

 あなたに。


「じゃあ、寝るまで一緒にいてやるよ」


「うん」


 おなかの鳴る音。

 彼のじゃない。


「はらぺこ酒酔いむしがいるな」


「お。おなか。すいた」


「じゃあ飯だ」


「ああ。行かないで。ああ回転する。うわぁ」


「そこからなら、俺の姿見えるだろ。ベッドから逆さまで見てな」


 彼がいる。

 料理作ってる。

 さかさまで、回転してるけど。

 どうやらここは、現実らしい。

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また会えたら 春嵐 @aiot3110

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