彼女と彼のお天気占い
黒星★チーコ
今日の天気 午前:曇りのち晴れ☁→☀/午後:虹🌈
【米沢】 土曜日の天気 午前:晴れ/午後:晴れ
「……よし!」
佐伯 遥香はこっそりとスマホの画面をみて小さく呟き、友人の岡村 弥生の所へ駆けていった。
なにか二人で内緒話。ちょっと悪い顔という程でもないが、ニヤニヤしている。
二人は揃って同じクラスの米沢 理名の所へ行く。
「ねえ、米沢さん。今度の土曜日ヒマ?」
「え?今週土曜日?……暇だけどどうして?」
「実はさ、テスト明けにクラスの何人かで遊びに行こうかって話になってて~。」
「……え?でもどこへ?」
「え!…えーと……近所のスポッ●ャ!ボーリングとかカラオケとか~。みんな誘っていこうと思って!男子も誘うけどいい?」
一瞬言葉に詰まってる所をみると、考えなしに言った様子だ。でも咄嗟に思いついた割に悪くない選択だ。
クラスの皆で軽いスポーツやカラオケなど楽しめる健全なアミューズメント施設なら、堅物の委員長、米沢もそれほど嫌がるまい。
「い、いいけど……私なんか参加しても盛り上がらないかも……」
「え~っ!!そんなことないよ!ね、弥生ちゃん!!」
「うん、あたし前から米沢さんとも遊んでみたかったし~!いこいこ!」
「あ、ありがとう……」
「じゃ、約束ね! ねえID教えて~」
メッセージアプリの連絡先を交換し、米沢から離れた二人は他の生徒にも声をかけている様子だ。
そして1人の男子生徒の所へ小走りで近寄っていく。
「川崎君!今度の土曜日、誘えたよ!」
「マジで!?佐伯、岡村、ありがとう!」
喜色満面といった感じの川崎に、指を一本立てて強気に言う岡村。
「あたしら、当日も一緒に行動できるように何回かは手伝うけど、出来るのはそこまでだからね。がんばって。あとあたしと遥香にジュース奢ってよ」
「奢る!何がいい?」
ダイエットコーラ!とかミルクティー!とか女子達が嬉しそうに言うところに割り込む。
「俺、スポドリ~」
「太田君!」
「太田、なんで俺がお前に奢んなきゃいけないんだよー」
川崎が口を尖らした。
「えー、女子には良くて俺はダメ?俺も協力するから~。……委員長でしょ?」
「なっ、なんでそれを……」
「や、バレバレっしょ。委員長は気づいてないけど。なあ佐伯」
「えっ、あっ、う、うん……」
急に話をふられて目を反らし口ごもる佐伯。いつもの元気一杯な姿とはちょっと違う。
隠し事なのか、俺が嫌われてるのか?嫌われてるなら泣くけど。
チラリと横を見ると、岡村と川崎が妙にニヤニヤしてる。
「じゃああたし、他の子に声をかけてくるから遥香は太田君を誘ってね!」
「えっ、あっ、弥生ちゃん!」
「太田、これで貸し借り無しな~」
二人はバラバラに散っていく。
……川崎に"貸し借り無し"って言われるほど、俺そんなに態度に出てたかなぁ。隠すのは結構自信があるんだけど。まぁいいか。
それよりもちょっと佐伯の態度が気になる。
いつもは割と話が弾むのに、今日に限って態度がおかしいってか、距離を取られてる。
アレを見た上だと余計に気になる。
「……誘うって?なんかやんの?」
聞き耳を立てていたので白々しいが一応聞いてみる。
「……あっ、うん、皆でテスト終わり祝いにスポッ●ャ行こうよって弥生ちゃんと計画してて!」
「ホントは川崎に頼まれて委員長と遊ぶ計画、だな?」
「……ていうか、ヒドい。さっきの全部聞いてたんでしょ」
「ぶふっ、うん。そう」
上目使いでぷくっと膨れた顔に思わず笑いが漏れた。可愛い過ぎるだろ。
「でもでも、まだ二人をくっつけるとかじゃなくて、まずは友達からと思って!」
一生懸命に説明してくれる。
佐伯は思ってることがまんま表情に出てわかりやすい。
「そっか。佐伯そういうの好きだよね。もう結構何人か手伝ってるもんな~」
「うん!」
佐伯と岡村は今、密かに学校内の恋愛相談役みたいな事をやってるらしい。
あの二人に相談して付き合うことができたカップルが実際に何組かいるそうで、遂に男子の川崎までその恩恵に預かろうと頼み込んだのだろう。
「皆に頼られるなんて凄いよな。もしかして佐伯って、そういう経験豊富なの?……彼氏とか」
「……!!ない!彼氏いない!! 一回もできた事ない!!」
一回も彼氏ができた事がないと聞いて心の中で小さくガッツポーズする。
真っ赤になって顔をぶんぶん横に振る佐伯。
ポニテが揺れてペシペシ音を立ててる。可愛い。
「そうなの?じゃあ、どうやってんの?」
「あ、あの……占い……とか?」
「占い?女子は好きだねそーゆーの」
「えへへ……」
うーん。やっぱり佐伯は隠し事が下手だ。目が泳いでる。
こんなにわかりやすいのに、どうも考えがバレてないと思っているのだろうか。そこがまた可愛いけど。
「じゃあその占い、俺にも教えてよ」
「ふぇっ!?」
「だって俺、川崎に協力するからって言っちゃったし。仲間だよね俺ら?」
明らかに顔に『どうしよう』って書いてある。結構嫌がってる?
精神的に揺さぶるつもりはなかったんだけど、俺もどうしよう。どうしたらいいかわからん。
せっかく最近は良い感じに距離が縮まってきてる気がするのに、あんまり下手を打ちたくはないしなぁ。
とりあえずこっちから橋をかけてみるかな。
「占いってさっき見てたスマホのアプリかなんか?」
「う、うん……でも、他の人には内緒ね。あと、変に思わないでね……」
一応、こっちがかけた橋には乗ってくれたものの、佐伯にしては妙に歯切れが悪い。
おずおずとスマホを差し出してきた。なんの変哲もないホーム画面。
「え?どれ?」
スマホを確認するフリをして隣に近寄ってみる。
普段は入らない佐伯のパーソナルスペースを侵略。やべ。ちょっと良い匂いする。
受け入れてくれるか、拒否られるか。一か八かの勝負に心臓が高鳴る。背中に汗が沸く。
自分が平気なフリができているか客観的に見られない。大丈夫か?俺。
「あああ、あのね!お天気なの!」
佐伯がザザーッと音がしそうな勢いでスライドして距離を取る。
明らかな拒否に俺の心もザザーッと崩れた。泣きたい。
やっぱダメかなぁ?結構イケそうな気がしてたんだけど。それとも下心があったのがバレてキモかったか?
「……お天気?」
ホーム画面のど真ん中、時計表示のすぐ下に表示された天気予報のウィジェットをタップしてみせる佐伯。
そこにはこう表示されてる。
【米沢】 土曜日の天気 午前:晴れ/午後:晴れ
「これ?普通の予報じゃん。でもなんで山形県なの?」
「違うの……これ、不思議なアプリで、一日一回、その人の気分を予報してくれるの」
「……へぇー」
「あ、ほら!!変に思わないでって言ったのに!バカみたいって思ってるよね!」
俺は佐伯と逆で、感情があんまり表に出ないタイプらしい。
多分無表情で言った「へぇー」を、バカにしてるように感じたのだろう。
佐伯は困ったような、悲しむような表情でこちらを見ている。うん、マズイな。なんとかフォローしないと。
「や、バカみたいとは思ってない!なんつーか、うん、理解?が追い付いてないだけ。もうちょい説明して?」
「あのね、ここで地域名を……えっと、選ぶでしょ。それで今日から一週間以内の日付を選ぶでしょ。で、確認ボタンを押すと」
【川崎】 今日の天気 午前:曇りのち晴れ/午後:晴れ
「この天気表示が、その人の気分を表してるの」
「えーと、晴れがいい気分で曇りはそうでもないってこと?」
「わ、さすが太田君、すぐわかっちゃうんだね。雨だと悲しくて、雷だと怒ってるみたいな!」
「……まあね。でもこれ、ただの天気予報じゃん?」
「私も最初はそう思ってたんだけど違うんだよね。神奈川県川崎市の天気、太田君のスマホで見てみて」
検索バーに『川崎市 今日の天気』と打ち込む。結果、今日の天気 は午前午後ともに雨と出た。
「……へぇー」
「ね、全然違うでしょ。一度選ぶと日付は変えられないから1人の名前につき、一日一回しか使えないけどね。これで晴れの日を見つけたら、その時にできるだけ近づいたり遊んだりして!ってアドバイスしてるの」
「晴れの日なの?」
「え?だって気分が良い時に一緒の方が印象が良くない?」
「……俺だったら曇りとか雨の時も行くけどな。不安だったり悲しい時に慰めたり支えてもらえばグッとくるじゃん」
佐伯が雷に打たれたようになった。顔に『その考えはなかった!!』と書いてある。
次いで、顔がほころぶ。
「……そっか。そうだよね。えへへ」
今日一番の笑顔。うわー、やっぱめちゃくちゃ可愛いわ。
「……うーん、でも難しいかなあ。落ち込んでる所に慰めるのってタイミングが必要だよね。やっぱり占いだから外れることもあるし」
「え、これ外れるの?」
「え!……あ……、あの……うん。そうなんだ」
急に言い淀む佐伯。なんか真っ赤になってこっちをチラチラ見るし。
え、何。何だろう。これは期待していいやつ?
さっきまでは何だか距離を取られてたのに……?
その瞬間に、俺のなかに稲妻のようにある考えが閃いた。
この考えが正しいのか、今最優先でどうしても確認するべきだ。
「な、これ、市町村名以外は選択できないよな?」
「う、うん。良くわかったね?だから恋愛相談を受けても、相手の名前によっては答えられない人もいるんだ。そんな時は弥生ちゃんがフォローしてくれるんだけど」
「ああ、岡村はその辺上手そうだもんな。岡村はこの事知ってるんだ?」
「うん。他の人には内緒ね?こっそり気分を探られてるなんて知られたら良い気はしない……あ!!」
来た!再び心の中でガッツポーズ!!
俺、今だけIQ180の天才な気がする!どうでも良いけど今回のテストまでこの頭が続かないかな。
「……もしかして俺の事も見たりした?」
もう口許がニヤニヤするのを抑えられない。佐伯は真っ赤になって目元が潤んでる気がする。超絶可愛い。
「…………ご、ごめんなさいぃ……」
「いいけど、スマホちょっと触ってもいい?」
佐伯のスマホを借り、天気のウィジェットを押す。
今【川崎】になってるが『手動で設定する』から地域名を入れる画面に遷移する。
地域名を入れる前に、以前入力した履歴がプルダウンで表示されるのを見て、その中のひとつを選んだ。
日付を選ぼうとするが、『今日』のまま動かない。1人の名前につき、一日一回のルールだからだ。つまり、もうこの名前は今日見ている事になる。
確認ボタンを押すと結果が表示された。
【大田】 今日の天気 午前:雨/午後:雨
「念のため聞くけど、佐伯。こっちの"大田"の知り合いいる?」
「えっ……?」
「俺は群馬県の方の"太田"ね」
「あ!間違ってた?!」
「多分、これ同じ名前の知り合いがいなかったら普通の天気予報が表示されるんじゃね?東京都大田区って神奈川県川崎市の隣だよな」
「じゃあ今まで太田君の時だけ占いが外れてたのって……」
「ぶふっ。おっちょこちょいだなあ。因みに本当の俺はこれ」
【太田】 今日の天気 午前:曇りときどき雨のち晴れ/午後:虹
俺のさっきの閃き。
佐伯は俺の気分が一日雨だと思って、距離を置こうとしてたけど、俺の言葉で考えを改めた。
"「……俺だったら曇りとか雨の時も行くけどな。不安だったり悲しい時に慰めたり支えてもらえばグッとくるじゃん」"
そのあと、急にいつも通りな感じで、赤くなったりしてくれたってことは素直に距離を取るのをやめたってことだ。
もうこれは期待していい。
「虹!!!これって……!!!」
佐伯がビックリしてスマホを見て、俺を見る。
今まで何度もカップリングを成功させてきた佐伯なら、もう虹の意味はわかってるはずだ。
「えーっと、改めて昼、一緒に食わね? どうせならちゃんとそこで言いたい」
「……うん。うん。ありがとう……」
もうほぼ告白しているようなもんだから、めちゃくちゃ恥ずかしいし心臓がバクバクしてるけど、きっと佐伯も同じだと、顔を見ればわかる。
「あの!ちょっと弥生ちゃんと話してくる!!またあとでね」
「きゃー!!」と言いながら慌てて駆けていく佐伯を見送った後、脚が震えて廊下にしゃがみこんだ。
「……うわー。嬉しい。マジでヤバい」
小さく呟いて、誰にも見られないよう自分のスマホをこっそり見る。
天気のウィジェットを押す。
【佐伯】 今日の天気 午前:曇りのち晴れ/午後:虹
「……良かったぁぁぁぁぁ!! 午後が虹なのに川崎の所に行くから、最初は川崎とつきあうのかと心配したぁぁぁぁ!!」
彼女と彼のお天気占い 黒星★チーコ @krbsc-k
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます