第3話

「流石に、大人気なさ過ぎでは?」


勇者との決闘刑が実行されてから早数十日。

あの日以降、連日行われる勇者との模擬戦(お互い気絶するか、降参するまで)で私が理解できたのは件の幼馴染NTR系間男勇者がとんでもなく負けず嫌いだと言うことだ。


「でも、今回は大分いいところまで行ったと聞きましたよ?

 噂では、あの龍すら屠る勇者様の素早い乱撃いとも容易く防ぎ、武術を持って押し倒したとか!」


「ほとんど不意打ちだったのに、普通に魔法で対処されたけどな」


「あれが実践ならば、その時点で他の仲間に襲われて、殺されているところ!

 これはもう、防人様の勝ちと言えるのではないでしょうか?」


「それを言ったら、本来勇者側に仲間がいるだろうから、普通に俺の方が負けるだろうな」


なお、ここ数日行われる模擬戦だが、当然勇者側が連勝している。

なぜなら、どちらも非殺傷縛りな癖に、こちらは普通の軽鎧で、向こうはフルフェイスの伝説級の全身魔法鎧。

向こうは模擬戦が始まる直前に魔法による強化バフマシマシ、こちらは当然そんな魔法を使えず。

戦いも距離を取ってからのスタートゆえに、向こうは遠距離魔法を放てる距離であり、こちらは近づくところから始めればならない。

その上向こうは回復魔法を使えるときたもんだ。


馬鹿かと、加減しろと。


幸いにも、向こうは戦いこそ全力だが、殺意がないのは確かだ。

毎度毎度打ち身や切り傷、骨折はあっても、回復魔法ですぐに治せる程度の怪我でおわる。

攻撃魔法も、電撃や重力魔法など即死しない魔法がメイン。

それでも、魔法で治るからって、鼻の骨や歯を砕いてくるのは割と人の心がないと思うの。


「で、で!

 次はどんな戦法で戦うつもりですか!?

 今回は双剣で素晴らしい連撃と堅固な守りを行なっていましたが、流石に全身鎧相手だとあんまり意味がなかったみたいですね」


「まぁな。

 そもそも模擬戦の武器は刃が潰れているからなぁ。

 またメイス辺りに戻そうかと。

 あんまり勇者の防御魔法相手には相性良くないけど」


なお、現在自分と会話しているのは、この城に住む自分の治療役兼担当メイドさん。

こちらのファンであり、勇者と戦うと聞いて、是非お付きになりたいと立候補したらしい。

そのおかげで、彼女とは決闘時間や一部お城でのお仕事の時間、就寝時以外は割とこちらとつきっきりになってくれる。感謝しかない。


「メイスですか、あの鎧と戦えるクラスのメイスとなると一般金属のものでは無理でしょうね。

 わかりました!きちんと勝負になりそうなメイスを渡されるように裏工作してきますね!」


サラッと笑顔でとんでもないことを言う専属メイドさん(借用)。

当初は勇者側のスパイとかそんなことも考えたが、連日の模擬戦でそれはないと既に確信をしている。

いやだって、勇者とこちらの実力差はそんなもの必要ないくらいには離れているし。

勇者側もこちらを殺す気はないのは、ここ数日の戦いでよくわかったし。


それより君は大丈夫なの?犯罪者に加担したとして、王様や勇者から罰せられたりしない?


「大丈夫です!ちゃんと許可は取ってますから!

 それに件のクソ勇者様も、毎回手を変え品を変え挑んでくる防人様と戦うのが、楽しみみたいですから」


う〜ん、なんと言ういらない情報。

というか、タイマン刑をするだけあって、バトルジャンキーなんすね、あの勇者。


なお、翌日のタイマンで貸し出されたメイスは自分が見たことがないくらい優秀なメイスであった。

そのため、この日初めて勇者の鎧を凹ませ、なんなら複数穴を開けるのに成功したのでした。





「まあ、それでも負けるんですけどね」


もっとも、それでも勇者との決闘には無事敗北。

鎧に穴を開けたことにより、勇者の本気を受けることとなり、さすがに今回こそ本物の死を覚悟した。

腕がちぎれ、目も潰れ、足の指が溶け落ちる。

それでもなんとか生き残り、現在自分は監獄の一室にて、絶賛魔法による治療中である。


「はぁ、はぁ、防人様、かっこいい、しゅき♪」


と言うかあれだ。

なんか、ラリっているメイドさんはさておき、今回は色んな意味で完敗であった。

なまじ今回は武器は互角の状態で戦ったのに普通に負けてしまった時点で、絶望感がかなりひどいのだ。

もともとこちらは魔法は使えず、技術もない。

実戦経験や剣術の差など、向こうとこちらには驚くほどの格差がある。

唯一、力とスピードだけはこちらが上のようだが、それだって本気を出してないからと言われたら、納得できる程度の差だ。

特に、今回の決闘は、向こうはこちらを死なせないようにこちらにも回復魔法をかけながら戦っていたのだ、この格差にもはや絶望を超えて笑いすら出てきたものだ。

でも、試合後のあまりの傷の酷さにエリクサーをつかってくれたので、色んな意味で複雑。

でもそれあるなら、それを精神崩壊してる聖女に使えや!!!!


「やっぱり、これ正攻法じゃ無理だろ。

 あ〜どこかの可愛いメイドさんが、勇者のご飯に下剤でも仕込んでくれないかな〜」


「ははは、防人様は冗談がうまいですね!

 防人様なら、遠からずあんなハリボテクソ勇者様なんて簡単にわからせることができますよ!

 ……それに、真面目な話、勇者様相手に下剤など使っても回復魔法を使えるらしいので、効果はないと思いますよ。

 特に勇者として、その辺の対策はきっちりしているので」


う〜んなかなかに厳しい。

その後も勇者攻略のための幾らかの裏技を考えてみるも、大体はやけに勇者に詳しいメイドさんによって否定される。

残念と思いながらも、やはり勇者は只者ではないのだなとしみじみと納得した。


「それにしても、防人様はそこまで考えてもまだ勇者様に挑むのをやめないんですね。

 正直、数回挑む頃には諦めると思ってましたよ」


それに関しては、自分でもよく折れてないと思ってはいる。

が、一応この決闘が始まる前に、あの勇者は【自分に一度でも負けを認めさせたら、できる範囲でなんでもいうことを聞いてやろう】と宣言しており、それで自分が勝ったらあの幼馴染聖女の責任を取らせると約束させたのだ、それで負けるわけにはいかない。


「魔道NTRレターを送ってきたから色んな意味で不安だったが、まあ件の勇者が最低限の人間性があるのはなんとなくわかったからなぁ。

 一応、聖女のことをサラッと聞いてみたところ、嫌ってはないみたいだし」


「でも、妊娠放置させていますよね」


「まあ、な」


実際そこが問題なのである。

ここにきて勇者と無数に剣を交えたことで

あの勇者は外道ながら最低限の倫理はあるということはわかった。

そも、あの魔導レターの真偽を尋ねたときも、真実だと高らかに宣言した男気や妊娠させたのが自分であることをはっきり認めました。

ともすれば、何故その聖女を手放したのかとか、なんで精神崩壊してるのかについては一切話さず、そもそも聖女が今王城にいないことすら他言禁止。

言ったら、幼馴染聖女共々処刑と実に品のない脅しをされてしまったのであった。


「正直、なんか事情があるのはわかったが、それでも筋を倒して欲しいと思っちゃうわけよ。

 大事な人をNTRた身としてはね」


「……言ってはなんですが、防人様は幼馴染の聖女さんの事、本当に大事に思ってるんですよね?」


「何を当たり前なことを。

 大事じゃなかったら、こんなクーデターまがいな事なんてしないだろ」


「デスヨネー、いや、その……やっぱりなんでもないです♪」


なんか言いたげだか笑顔なメイドさんを脇目に、ゆっくりと考えてみる。

確か、勇者と聖女の婚約発表は、正確には勇者とその仲間である3人の美女との重婚についての発表であったはずなのだ。

確か、斥候と魔法使いと聖女の3人であり、その全員とハーレム結婚という実に豪快な報告を全国に向けて発信したのだ。

ともすれば、原因は勇者以外の可能性、もしくは、ハーレム内でのドロドロが原因とか?


「……やばい、気づいてはいけないことを気付いてしまったかもしれん」


「もしかして、防人様は処女が好きとかそういうお方ですか?気持ちはわかります。

 それなら、私も処女ですし、防人様も未だお初のようですから……きゃ♡」


なんか言ってるメイドさんはさておき、このことについて思考するのはやめておこう。

もしそうなら、男であり、女心に疎い自分では色々と厳しいものがあるからだ。

しかしながら、勇者に勝った時の要望として、それを考慮する必要はあるとわかったのは収穫だ。

聖女を第一正妻にするとか、一番大事にするとか、勇者本人含め他の妻からの攻撃やいじめから率先的に守とかも入れれば、多分大丈夫だろ、多分。


「うん、取り敢えず目の前のできることからすることにしよう!

 あんな勇者でも倒せる新たなる手札でも考えるとするか。

 ……あ〜ぁ、俺にも魔法とか使えたらなぁ」


「あ!その作戦いいですね!

 防人様の戦闘力と魔法を組み合わせれば、あのクソ勇者も倒せるはずです!」


かくして、この日もまた色々考えた結果、結局は勇者に勝って解決するという方法に行き着くのでした。





なお、数日後。


「取り敢えず、私たちのお古の女の子を数人譲ってあげるから、もう勇者様との決闘するの、諦めくれない?」


「えっ?」


自分が反応する前に、横にいた女看守さんがいい感じにその女を殴ったのでした。

いや、こんなやばい女が勇者パーティの一員兼勇者の妻の一人ってマジ?

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幼馴染聖女を勇者にNTRされたけど、なんだかんだ円満解決(本人視点)できただけのお話 どくいも @dokuimo

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