第2話


さて、改めて自己紹介するとしよう。


私の名前はアヴァル、元現代人現異世界人のどこにでもいるごく普通の異世界転生者だ。

職業はしいて言うのなら、農夫なのだろうか?

もっとも、この世界の農作物は農業神の祝福を受けているとやらで、マジで丈夫であり、病気知らず害虫知らずで豊作確定なので、基本そこまで世話は必要なく、あんまりの農夫しているという感覚はなかった。

もっとも、村の裏手にある巨大な森林がちょっとした秘境で、そこから時々巨大生物やら魔獣が襲撃してくるから、仕事の忙しさで言えば、通常の農夫とそこまで変わりはないのだろう。

得意な武器はない、しいて言うなら弓や槍、ついでにこん棒に剣だろうか?基本武器なんかは、獲物に合わせてその場にある物を使う。

今まで一番苦戦した敵?しいて言うなら、魔獣と化した麒麟かな?

ああ、麒麟って言い方は俺だけだったか、確かハイユニコーンとか、ハイバイコーンという呼び名の方が一般的だったかな?

あの時は、もう幼馴染である聖女が村から出て行てったし、私も回復魔法が使えないし、いろんな意味であの戦いは死を覚悟したね。

え?双頭巨大地龍ツインヘッド・ギガントワーム

あのときは、回復魔法やバフが使える幼馴染がまだいたし、あんまり苦戦した感じはしなかったかな。

ん?魔化麒麟ハイユニコーン・ヴォイドの討伐報告?いやいや、それをあいつに知らせるわけがないだろ!当時あいつは勇者との魔王討伐の旅の真っ最中だぞ!?

不用意に故郷でピンチがあったって報告すると、あいつにいらぬ心配をさせてしまうだろ。

それに、今はもう魔王討伐の影響で村の裏の秘境もかなり大人しくなった、だからもう心配はないさ。


「……ところで、この尋問いつまで続けるんだ?

 こちらとしては、もうしゃべりすぎてのどがカラカラなんだが」


「しかたないだろ!お前が、本当にあの聖女の幼馴染であるのかとか!

 実は魔王の残党でないかどうかとか、調べることはたくさんあるんだからな!」


そりゃそうか。

なお、現在私は、件の王城の地下にある謎監獄で幽閉&取り調べの真っ最中だ。

勇者に向かって、綺麗な右ストレート&ナイスふっとばし&気持ちすっきり復讐ができたのはいいが、残念ながらその後は普通に捕縛。

多くの兵士さんや王族魔導士の手によって、拘束されてしまったというわけだ。

すまない、勇者を殴れるだけ殴ったのに、それだけで終わってしまった不甲斐ない兄を許してくれ……。


「いや、普通に単身で王城に潜入とか、やりすぎにもほどがあるからな?

 勇者への不敬だけではなく、王族への不敬、なんなら、国家反逆罪とか無数の兵士への傷害罪などで、即打ち首や処刑の流れの方が普通だからな?」


「でもまだ、生かしておいてくれるんだな」


「しかたないだろ!お前がマジものの、あの聖女の元婚約者だってわかってしまい、その上死者も出てないからな!

 ……ねぇ、やっぱり、今からでも実は魔王軍の残党でした~、とか言ってくれないか?」


「言ったら、聖女と勇者の再婚と、聖女自身の治療を認めてくれるなら?

 それと、俺の死罪自体は全然かまわんけど、村の方は巻き込まないでくれると嬉しいかな。

 いや、ここに来る前に万が一を考えて、きっちり神前で勘当してもらったから大丈夫だとは思うけど」


「お前何やってるの?????」


さて、現在私を取り調べしているのは看守さん(♀)。

めっちゃ美人であるが、この世界では珍しい黒というか紫とかの不思議褐色系。

お耳の形も少し長いのがとってもチャーミングです。

それと多分俺よりも強いなぁ、いや、只の農夫である自分と比べるのもおこがましいと思うが。


「私はダークエルフだから、これくらい普通だ。

 只人ヒュームのくせに、勇者を殴りつけられるお前よりは全然ましだ」


なんか間接的にディスられた?


「それと、お前の罪に関してだが……。

 おそらく、お前自身の死罪はともかく、故郷の方は問題ないだろう。

 神前の勘当をしているなら、村の関与は疑われないし、そもそもあそこは聖女の故郷にして、現在の住処でもある。

 世界を救ってくれた英雄の故郷を罰せるほど、我々は横暴ではない」


はえー、とっても良心的。

こちらの想定していた、勇者だけではなく王都やその末端全てが屑みたいな、復讐転生お約束のクズ国家みたいなものは、やっぱりフィクションなんっすね~。


「……でもさ、ひとこと言わせてくれ。

 そこまで幼馴染である聖女を気遣ってくれるなら、何で勇者の子を妊娠した今、おつきもなしにこっちの村に戻した。

 しかも、婚約破棄のショックのあまり、聖女は日夜引きこもりだし。

 あまりのショックのせいで、明らかに精神に異常をきたしているんだぞ!!!!」


しかし、それでもうちの幼馴染であり婚約者であり聖女であるあいつをポイしたという事実は一切許さんがな!!!!!!!

というか、色々考えてもこれだけはマジで納得いかねぇ!

世界を救ったから優遇されるのはわかる、その知り合いであるから自分や村にも優してくれるのもわかる。

ついで、勇者や聖女が優遇されるのだって、魔王出現前後の野良魔物出現率の違いをその身で体感したからすごくよくわかる。

だからこそ、まぁ大切な婚約者とはいえ、双方が納得しているのならNTRでもビデオレターも許したところがある。

が、ここまで常識的な判断をしているのに、勇者の聖女孕ませ後、妊娠ポイしたんだ???

こんな女癖が最悪超えてあれな事ってある???

そこんところどう思いますか?ダークエルフ系女看守さん。


「……それはきっと、高度な政治的判断だろう」


「高度な政治的判断で、聖女だけが冷遇されるってどうなのよ??

 そのせいで、うちの幼馴染兼婚約者が、傷物にされた上で精神崩壊妊娠NTRされたことについてはどう思いますか?」


「……うん、政治って難しいね」


思わず頭を抱えている女看守さん。

いやね、ワンちゃん双方納得の上の円満離婚とかならこっちもまだ我慢できた(できたとはいってない)かもしれんのよ。

でも件の幼馴染聖女が精神崩壊させられているのはいろんな意味でラインを越えているし、妊娠放置だってそうだ。

それに俺個人で言わせてもらえば、聖女が精神崩壊しているせいで【貞操の呪い】がいまだ解けていないのが悲しすぎる。

第二の生とは言え、この年で永久童貞確定はいろんな意味で辛すぎるんだが。


「それとちょっと聞きたいんだが、確かその貞操の呪いって、それを掛けた術者、すなわち聖女相手といたせば、解けるのはしってるよな?

 なら、意識がない今ならこっそり襲って無理にでも解こうとか、そういうのは考えなかったのか?」


「いやさすがに、意識のない人妻妊婦に向かってその発言は引くわ」


「うん、まぁそうだよな、そうだな。

 そういうのが常識的で良識的な只人の男の反応だったんだよなぁ。

 ……いや、それでもクーデターもどきを企てた男に常識云々を言われたくはないわ」


言われてみれば、そうである。

が、それでもその方法はこちらの良心ポイント的にアウトだ。

その上、あの幼馴染は聖女だからゆえか、無意識魔法も使えたはずなので、どのみち手が出せないだろうし。


「それに勇者の妻にそういう意味で手を出すのは、いろんな意味で命知らずすぎるだろ」


「ははは、勇者本人に手を出しておいてよく言うわ。

 それに、件の彼女が噂だけで、まだ勇者が手を出しておらず、妊娠していない可能性は……」


「いや、普通にお腹もやや大きかったし、そもそも旅の途中で匂わせとはいえ、ハ〇鳥魔導ビデオレターを送りまくってきているんだぞ?

 むしろ良く、旅の途中で妊娠しなかったなと」


「……うん、そういえばそうだったね。

 全面的に私が悪かった、本当にすまん」


女看守さんに、かつての勇者一考や幼馴染から贈られた素晴らしき魔導ビデオレターの詳細やら思い出を語ると、そのたびに頭を抱える。

どうやら自分と看守さんの間では、勇者への認識が天と地ほどの差があったようだ。


「とりあえず、お前に関しては後程精神鑑定やら魔王軍の洗脳を受けているかのチェックは……。

 多分受けてないけどしておくとして、お前に対する処分は勇者様直々に決めることとなる。

 それまで大人しくそこで待っていろ。

 いいか、ふりじゃない、ふりじゃないからな?」


「……了解した。

 それと、聖女と勇者の再婚さえ認めればすぐにでも自殺でも何でもするから。

 そこのところだけは覚えておいてくれ」


かくして女看守の退席後、もしもの時のために、監獄の脱出路を確保するのでした。





なお、数日後


「とりあえず、お前への罪と扱いが決まった。

 勇者直々に、今日からお前が毎日気が済むまで、勇者と殴りあえる権利と刑が与えられたぞ。

 よかったな」


「は?」

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