第24話 絶叫
「相談?」
九洞の顔が霞を帯びて思い出される。ここ何日か、まともに目を合わせた記憶がない。
「……僕が冷たくなったとかですか?」
「そのお話はありませんでしたが、日ヶ士さんが無関係というわけでもありません。確認させていただきたいのですが、九洞さんがあなたの知人の姿をしているというのは事実ですか?」
のどが一瞬締まり、ゆっくりと元に戻った。
「はい、あの体は僕の友人です。三年前に亡くなった」
乃木地が目を閉じて開いた。
「葬られることのなかった死体を――よりによってあなたの知り合いらしき死体を消費してのうのうと旅行することは許されるのか、九洞さんは疑問に感じ、悩まれています」
乃木地が続ける。
「いくら講習を受けてマニュアルを読んでも、文化や慣習、それに一部の人間の言動にショックを受ける渡航者は少なくありません。彼らの何割かは旅程の短縮、あるいは旅行自体の中止を選択しています。私もこれまでに、旅程の変更や旅行後のケアを数多くお手伝いしました。ですが今回のように、渡航用の体――渡航服としておきましょう、渡航服がホストの顔なじみだったケースはこれまでに例がありません。情けないことですが私も戸惑っています。九洞さんが困惑されるのももっともです」
「九洞さんも旅行をやめようとしてるんですか?」
「選択肢の一つとして考えられてはいるようです」
寂しいと感じたし、寂しいとだけ感じたわけではなかった。
「もちろん、今回のような事態が発生しうることは分かっていました。しかし様々な試算の結果、発生する確率は限りなく低いため、優先して解決すべき問題ではないと判断されたようです。運がないとしか言いようがありません」
「運、ですか」
「はい。九洞さんもあなたも」
「――じゃあ」
言葉が口をついていた。ヴァイオリンが痛みを訴えるように繰り返し叫ぶ。
「じゃあ、キューもきっと運がなかったんですね。少なくともばちが当たったとかじゃないですよ。彼は騙されたりしない限り悪いことなんかしません。友達の誰に聞いたってそう言うはずです。それが大学を出る前に死んで、知らない星に連れて行かれて服になって……そんなの運がなかった以外にありえない」
笑いを含んだように声が揺らいだ。
「でも……でもいくら運がないからってこんな目に遭うなんて、そんなことあっていいわけないじゃないですか。なんでですか、どうしてこんなことに」
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