第3話 地獄の底のさらに下(終)

 

 銀「それで思ったんだが」


 はんぺん「そりゃ色々思うところもあるだろうね」


 銀「ソシャゲというのは、ガチャを引かせる為には何やってもいいのか?

 今回みたいに、ガチャキャラでなければほぼ突破不可能な強敵を登場させるとか」


 玉露「う~ん……

 そうしないとガチャが回らないという、運営側の事情もあるんでしょうけど」


 はんぺん「今回みたいなのはさすがに露骨な気もするね」


 銀「ちょっと前からその兆候はあったんだけどな。

 通常イベントなら色々工夫を重ねて様々なキャラを組み合わせてクリアできるが、この強敵討伐イベントとなるとそうもいかず、使えるキャラが相当限定されてしまう。

 このソシャゲの原作は、様々なキャラを好きにカスタマイズしてバトルできるっていうのが売りの一つだったシリーズなんだがな……」


 はんぺん「運営が推すキャラばかり強化されがちなソシャゲとは、相性が微妙に悪いタイプのシリーズなのかもね」


 銀「それは言えるかもな。

 あと、期間限定イベントというのもやっかいだ。

 コンシューマーゲームだったら、じっくり腰を据えて色々研究して、ゆっくりキャラを育成しつつ楽しむというやり方も出来るんだが……」


 はんぺん「それでも銀ちゃん。

 これぐらいだったらまだ良心的だと思うよ?」


 銀「そ、そうか?」


 はんぺん「だって通常開催のイベントは普通にクリアできるし、何なら周回だって出来るんでしょ?

 それにこの強敵イベントだって、一応期間限定と銘打ってはいるけど、いずれ別個で常設イベントになるらしいじゃない」


 銀「うん、まぁ、そうだな」


 玉露「あ、それいいですね。

 期間中にクリアできなくても、強いキャラが増えた時にまた挑戦することも出来ますし!」


 銀「確かにそこは美点だな。

 ステータスが頭打ちになったキャラでも、強敵を打ち倒すことでまだ成長出来るシステムも新設されたし、運営も色々考えてくれてはいるんだ。

 いいところも多いからこそ、俺はこのソシャゲをやっているし、色々期待してたまに課金もしてる」




 玉露「まぁ……確かにまだマシかも知れませんね。

 ボクのやってたソシャゲは、ホント酷いのありましたよ。

 周回数でランキングつけて、超貴重なアイテムを上位者にしか配らない設定にして、周回数を延々と競わせるクソイベントとか」


 はんぺん「あぁ……そういうイベント、地獄だよねぇ。

 ニーt……じゃない、時間的に余裕のあるユーザーが圧倒的に有利になるっていうアレだね」


 玉露「上位20%圏内までと、そのすぐ下あたりのランクの報酬の差がものすごくて。

 20%ライン付近で超熾烈な争いがいつも発生していましたねぇ……

 イベント終了間近の時、夜2時過ぎまで周回して上位18%あたりまで行って、これぐらい回ればさすがに大丈夫だろうと思ってちょっと寝て早朝4時に起きたら、21%ぐらいまで落ちてた時は絶望しましたねぇ……」


 銀「お前がちょっと前、時々謎に具合悪くして休み取ってたのってそれのせい?」


 はんぺん「あぁ、あるあるそういうクソなランキングイベント!

 ゲームによってはほぼ毎週、間を置かずにそういうイベントやらかすところもあるから酷いよね!」


 銀「下手すると24時間張り付いていないと上位に行けないタイプのランキングイベントは、出来れば壊滅してほしいものだな。どこぞのブラック企業じゃあるまいし」




 はんぺん「そういえば、僕のやってたソシャゲも酷いのあったなぁ。

 イベントシナリオの中盤までは普通に読めるけど、その手のランキングイベントの上位に入って報酬もらえないとそのオチが読めないってヤツ」


 銀「そいつは極悪すぎるな……

 話のオチを人質、いやオチ質にとるとは!」


 玉露「中盤まで普通に読ませておいて、っていうのがまた邪悪ですねぇ。

 ユーザーの知的好奇心を刺激しておいてソレっていうのがいやらしいです。そういうソシャゲによくある短編のオチってボク、分からないと延々と気になっちゃうんで。

 強敵を倒せば読める、の方がどれだけ良心的か」


 銀「ガチャを当てれば読める……というのも悪辣だが、まだマシな気はするな。金をつぎこんで何とかガチャを当てさえすれば読めるから。

 しかしランキング上位者しか読めないってことは、どうしたってラストまで読める人間は限られてしまうだろう? どれだけ金をつぎこんでも、同等以上につぎ込む人間が多数いたら、ランキング上位も難しくなるしな」


 玉露「そもそも、限られた人数しかラストまで読めないなんて……

 タダで読ませろとは言わないですが、さすがにストーリー作りの労力が勿体ないですよ。

 短編できっちりオチつけるのって、長編だらだら書くより難しい時ありますし」


 はんぺん「可愛い女の子がたくさん出てくる楽しいゲームだったんだけどね……

 そんな地獄のランキングイベントが、殆ど間を置かず毎週のようにあってさ」


 銀「お前がちょっと前、首と腕と肩痛めたとか言って謎の長期休暇取ってたのってそれのせい?」


 はんぺん「首が一切左に回らなくなった時は死ぬかと思ったよ」




 はんぺん「だけどそのゲームで一番酷かったのは、キャラの人気格差が丸わかりになっちゃう推しイベントだったね」


 玉露「推しイベント?」


 はんぺん「ガチャったり周回したりして頑張ってポイント集めて、推しに投票するイベント。

 推しに投票したポイントが多ければ多いほど、上位順に推しの限定衣装がもらえるってヤツ」


 銀「普通に楽しそうだが、それの何が問題だったんだ?」


 はんぺん「聞いただけだとそう思うよね……

 例えば、桜ちゃんと小梅ちゃんと紅葉ちゃんってキャラがいるとするじゃない?」


 銀「うんうん」


 はんぺん「僕の推しは小梅ちゃんなんだけどさ。

 例えば僕が100ポイントを彼女に入れたとして、その時点で僕は小梅ちゃん推しの中では100位だったとしよう。かなり楽に限定衣装をもらえる順位だ。

 でも……ツ〇ッターで見ると、桜ちゃんに同じ100ポイントを入れた桜ちゃん推しは、推し内での順位500位とかだったりしたんだよ。紅葉ちゃん推しに至っては1000位以下だった」


 銀「あっ……」


 はんぺん「桜ちゃん推しや紅葉ちゃん推しは、この順位じゃ限定衣装無理だって泣いてたな。

 でも、僕も同じポイントを推しに入れたのに、結構楽に限定衣装を貰える。

 これがどういうことか、分かる?」


 玉露「え、ええと……

 はんぺんさん、泣かないで」


 はんぺん「そういう風に、ゲーム内外の様々な周辺情報から……

 各キャラの人気格差がはっきり分かっちゃったんだよね……」


 玉露「限定衣装を貰えても地獄、貰えなくても地獄じゃないですかぁ!!」


 銀「箱推しが一番バカを見そうなイベントだな」


 はんぺん「そうなんだよ……僕だって紅葉ちゃんと桜ちゃんの限定衣装欲しかったのに!

 これは全員を選んだら駄目なイベントだって分かったから、泣く泣く最推しの小梅ちゃんに絞ったんだ……

 なのに、限定衣装ゲットしてもこんなうすら寒い気持ちになるなんて……うぅ……」


 銀「正直そういう、ファン全員を泣かせるようなソシャゲはとっとと終了してほしいものだが」


 はんぺん「安心して。1年もたずにぶっ潰れたから」


 玉露「キレイにオチがつきましたね」





 銀「ま、何だかんだで一番いいのは、据え置きでゆっくりやれるゲームってことだな。

 他からの騒音を気にせず、じっくりものづくりが出来るクラフトゲーなんかは良さそうだ」


 はんぺん「いいね~。地味にコツコツが信条の銀ちゃんみたいなタイプにはぴったりだね!」


 玉露「そういうゲーム、あまり夢中になると時間泥棒になりますから、気を付けてくださいね!」






 ~数日後~


 銀「う……うぅ……もう、嫌だ……

 何故俺は……あのゲームを選んでしまった……?」


 玉露「ど、どどどうしたんですセンパイ!?

 またソシャゲで何かあったんですか?」


 銀「いや、違う。

 据え置きのコンシューマーゲームで、クラフトゲーでも評判のいいシリーズを選んだはずなんだが……」


 はんぺん「クラフトゲーならハズレは滅多にないと思うけど」


 銀「俺もそう思ったんだ……

 クエストも豊富で世界も広大で探索しがいもあって、これは楽しめると思ったんだが」


 玉露「それで何が駄目だったんですか?」




 銀「1年以内に魔王を倒さないと世界が崩壊するという、とんでもない時間制限つき」




 はんぺん・玉露「「嘘……だろ……」」


 銀「1年というのはゲーム内時間な。

 ちなみに体感だと、1分足らずで1日が経過する」


 玉露「そんな無茶な」


 銀「1年という制限がざっくりしすぎてて、いつまでに何をすればいいのかが分かりにくい上に。

 とにかく時間経過が早すぎる。素材集めやクラフト中のみならず、歩いているだけでも飛ぶように時間が経過していくんだ。

 町の端から端まで真っすぐ歩いただけで1日経過したとかザラだぞ。ちょっと障害物に引っかかったり、クエストの依頼人のところに戻って完了報告するだけでも朝から夜になったり」


 はんぺん「何でそのゲーム選んだの」


 銀「クエストの豊富さやキャラの多彩さ、世界の広さに惹かれたんだ……

 しかし時間制限のせいで、それが逆に欠点になって。

 クエストが発生したり森に迷い込んだりするたびに、滅茶滅茶イライラするようになってしまった……

 ストレスのあまり、気が付いたら俺はキャラにまで八つ当たりをしていたぞ……」


 玉露「よりによって何で、クラフトゲーでそんな時間制限が?」


 はんぺん「クエストごとに時間制限があるならまだしも、全体的にそんなざっくりした制限があると常にストレスまみれになるね」


 銀「それは思ったな。時間制限さえなければ神ゲーと言っても過言じゃないゲームなんだが。

 ゲームまでブラック企業化しなくても良かっただろうに……うぅう」




 Fin




<おまけ>


 はんぺん「でもゲームで一番嫌なのって、最大HPの〇%をしょっちゅう回復してくる、ってタイプの敵だよね」


 玉露「通常行動で3回に1回の割合で連発されたらスマホ投げますね。

 毎ターン必ずやられると、ク〇ゲー感がひしひしと……」


 銀「現在HPでなく最大HP、ってとこがポイントだな。

 最大HP10万で、その10%をしょっちゅう回復してくる、3回行動の強敵がいたとしたら。

 そしてこっちはせいぜい一撃1000程度しかダメージ出ないとしたら」


 はんぺん「僕ならそのゲームやめる」


 玉露「あったんですか、そんな極悪ゲー」


 銀「あったから言ってる。

 残りHPやっと1000まで削ってあと一撃で何とかなるかもってところでも、運しだいで一気に3万回復されるという地獄……」



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ソーシャルゲームの逝きつく先は? kayako @kayako001

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