水は記憶する
雨傘ロック
雨
自分はなんの変哲もない、そこら辺の水
時には雨に、時には海に、時には涙に、時には雪に
みんな同じ名前を持っているから
みんな同じ透明だから、区別はつかない
自分も"水"の1部にしかすぎない
自分達水は記憶を持っている
どうしてそんなものを持っているのかなんてわからない
みんなは神様がくれた大切なものと、そう言っていた
自分はあまり好きではなかった
記憶するということは
時には悲しくなるから
雨の夜、一匹の狼にあった
自分はその時雨になっていた
水たまりができてその場で狼を見つめていた
雨が上がると狼は水たまりである自分を舐め始めた
とてもくすぐったくて思わず笑ってしまった
その声にびっくりしてしまったのか狼は目を丸くして木の後ろに隠れてしまった
チラチラとこちらを見ながら様子をうかがうものだから、こちらから声をかけてしまった
「くすぐったいじゃないか、もう少し優しく飲んでおくれ」
狼は自分が喋ったことに更に驚いたのか縮こまってしまうが、しばらくするとこちらに駆け寄ってきた
「君は足があっていいね、自分はずっと流れるか落ちることしか出来ないから」
そう言うと狼は人間が捨てた小さなバケツを持ってきて自分をすくい上げた
驚いたけど、狼はバケツに入ってる自分をくわえながらいろいろな場所に連れ回した
突然でなんのことかよく理解できなかったけど
見たことのない綺麗な所、高い所、空気の澄んだ所があってとても綺麗だった。
いつも見てるはずの虹を二人で見たらいつもよりも色鮮やかに見えた
だが狼は川や水の多い場所には近づこうとしないのだ
なぜだと聞いたら泳げないと言い出した
呆れた
いつか水に落ちたら溺れ死んじゃうよ
…水だけど
自分はその後も仲間のいるところから離れて狼といろいろな場所を旅をした
夕日も夜空も二人で見れば寂しくない
自分の仲間はそんなに話そうとしないから、こんな経験は初めてだ
しばらくして狼は自分の森に一緒に帰った
その日も雨で、初めてあったときと同じだった
懐かしいと二人で感じながら葉っぱを被って目的地にゆっくりと赴く
だが
森はそこにはなかった
見慣れない白い壁
きれいな四角を並べたとても大きな箱
熊が吠えるような音
おかしな形をした鉄の塊
そいつが嫌な匂いを出していた
狼はそんな光景をみて思わず自分のはいったバケツが落ちた
そのまま自分は白い壁に囲まれた川に流されてしまった
それを見た狼は川に飛び出してきた
狼は溺れ死んだ
知らない奴らがやってきて、狼が大きな鉄の生き物の口に入れられた
自分は流され、その光景を見ることしかできなかった
日本足で歩く知らない毛がない猿は
その鉄の塊と狼に向かって光を放っていた
目がくらむ
何も見えない
気がつくと、自分は海にまで流されていた
自分はその小さなバケツを手放さなかった
小さな視界から見える星空は
何よりも寂しかった
一人で見る虹も
一人で見る夕日も
一人で見る星も
何もかもが悲しくて、悲しくて
誰も話しかけてくれない
目を開けているとあの狼を思い出す
もう何も見たくない
自分は記憶と神様を恨みながら
今日も何処か流されていく
海に浮く沢山のゴミと
小さなバケツと共に
水は記憶する 雨傘ロック @kz_Leolpeew
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます