戦乙女は狩りにゆく
[10-1]若い二人は狩りデートへ
昼下がりの
厨房の椅子に掛けて読書に
少女が最近好んで着ているのはミスティアが兄の伝手で取り寄せたという、和装をアレンジした女性物の上下服だ。前合わせの襟と袖が大きく膨らんだ上衣には各所にリボンがあしらってあり、ゆったりした
どちらも喋らず、黙々と眼前の文字に集中していた。聞こえてくるのは窓の向こうで
「ダズ、見て見て! ヤマドリ
高らかな声で報告をもたらしたのは、砦の戦乙女ことミスティアだ。食器より重いものを持ったことがないのでは、と思えるほど白く
度肝を抜かれて
「ミスティア、おまえまさか一人で森に!?」
採取班に混じって野生の
「ううん。狩りに行きたいって言ったら、ヴェルクが一緒に来てくれたの!」
満面の笑顔に、察しの良い料理人はなるほどと合点する。島育ちのヴェルクは狩猟により日々の
先日突然、砦に飛び込んできてミスティアと仲良くなった
かといって、砦リーダーとの仲が深まるわけでもなく。石造りの砦は音がよく響くため何をするにも筒抜けなので、不器用なヴェルクと秘め事のできないミスティアが進展するためには、二人きりになれる場所が必要かもしれない――とは思っていたが。
自称恋の鳥による入れ知恵なのか、それともヴェルクが誘ったのか。二人はさながらデートのように、仲良く狩りへと繰り出していたようだ。
「そうか、そりゃ良かったな」
「うん!」
ミスティアは深青色の両目を輝かせ、頬を上気させている。まさしく恋する乙女といったところだが、何か進展はあったのだろうか。
都会的でお
吸血鬼の魔族ということで
「よし、そいつで『ヤキトリ』作ってやろうか」
ちょっとした挑戦心が芽生えて、ダズリーは読んでいた本を閉じ立ち上がる。ガフティに貰ったこの大衆小説は、イザカヤと呼ばれる料理屋とその客が繰り広げるエピソードを書いた連作短編集だ。一話が短く筋もわかりやすい上、和国の料理がレシピを交えて丁寧に解説されており、かの国の文化を知るのに最適なのである。
ヤキトリというのはイザカヤの定番料理で、材料も作り方もシンプルで再現しやすい。
ヒナの
「やきとり! 好きっ」
「うん、鳥肉は
獲物を掲げ、笑顔で頷くミスティアが想像しているのは恐らく鳥の香草焼きか何かだろう。方向性としては似ているが、あえて例えるなら串焼きのほうが近いのだろうか。
いくつか和国の料理に手を出しては見たが、独特の調味料が用意できず味を再現しきれないことが多い。しかし、ヤキトリを漬けるタレつまりソースは、店ごとに秘伝の味があるらしい。ならば自分流にアレンジしてもいいのではないか、とダズリーは考えたのである。
精霊の巡りが豊かなダグラ森は、植生が豊かで果樹や山菜も多い。そこで育つ鳥も獣も魚に至るまで、臭みは少なく味わい深い肉質だ。中でもヤマドリは最上級の鳥肉と言っていいだろう。
和国らしさは薄れるが、合いそうな味付けもすぐに思い浮かぶ。
「ミスト、やきとりは、くしやきですの。でん……でんの、タレ? やくの」
「串焼き? 串焼きも楽しそう! ぼくも手伝おうか?」
「ミスティア、ヤマドリは調理台に置いて手を洗ってこい。ヴェルクも後から来るんだろ? 一緒にやろうぜ」
「うん、わかった。ヴェルクも来ると思うよ」
仕留めたあと完璧な下処理までし
全員に行き渡る量はないので、試行と午後のおやつを兼ね、皆でヤキトリ試食会をするのも面白そうだと考える料理人なのだった。
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