Day 5 線香花火

 無法地帯で情報屋を営むものはごまんといる。

 何処の国にも属さず、ハイエナのように嗅ぎ付けて情報を食い漁る奴らだ。世界が不安定な中、外界と連絡を取るのも難しいだろうに示唆を舐めるだけでは終わらない。何処の国のでもなくなった衛生を見付けてやり取りをしているという。

 社会から切り捨てられても、距離を置いても、生きるための手段を産み出すのだから人間の欲は執念深い。銃を手に取ったトキワも人のことを言えた義理はない。

 諜報班から送られた場所を目の前にしたトキワは薄汚れた扉を開けた。左手にはカウンターと床から天井までの棚がある。正面奥にあるクモの巣だらけの幕がステージの名残だろう。辺りに散らばった大理石のテーブル綿のはみ出たソファは見る影もない。酒場バーらしき店内は捨て置かれた墓場のようだ。

 ガラス片や木片で埋まる床は独特の音をたてる。

 侵入者対策かと検討をつけたトキワはカウンター奥に立て掛けられたローテーブルを睨んだ。その後ろには扉がある。わかりやすい違和感に一つため息をつき、テーブルに手をかけた。扉の影に隠れるようにして大きく開ければ、案の定、罠が仕掛けられている。

 飛んできたのはダイナマイトだ。

 飛び道具がないことを一瞬にも満たない間に確認して、爆薬をステージ後方まで蹴りあげる。カウンターの影に隠れれば、体に響く音が轟いた。

 燃えカスを見た深緑の瞳は、不思議と地面に落ちた線香花火を思い出した。忘れていたと思っていた記憶がよぎるのは、この地に足を入れたからだろうか。


「一見は帰りな」


 扉の奥からしゃがれた声が聞こえた。

 過激すぎる出迎えでは一見どころか、二度と日を拝めそうにないが、そういう小者は切り捨てたいのだろう。客だろうと最初から殺しにかかるとは無法地帯キョクトウらしい。

 弱者が悪であり、敗者だ。逆もしかりである。

 絶対的常識を再確認したトキワは すすけた床を無感動に見下ろした。諜報部の抜けのありすぎる情報を恨みながら、深く息を吸い、吐き出し、やり過ごす。破壊衝動にかられたが、粗のありすぎる情報を改善しなければならない。任務をこなすには必須だ。

 研究データを手に入れることができたら仕事が終わったも同然だが、どんなに優秀なハッカーでも難攻不落の箱庭ガーデンを出し抜くことはできない。不可侵の領域に手を出し、重鎮達から秘密裏に手厚い資金と援助を受けていた場所だ。高望みはしていないが、最低でも箱庭ガーデンの内部図は手に入れたい。

 小さく咲く火花を踏み消し、銃口を向ける。


「断るなら、こちらも手段を選ばない」




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