Day 6 筆
銃口を向けた先にはトキワがいた。否、鏡に映った自身だ。深緑の瞳が値踏みするように細められる。
鏡とステンレスでできた水受けはくすんではいたが、爆薬を投げ入れられたような形跡はない。他に手段があるのか、廃業寸前なのか。
鏡を見透かすように眺めながら、トキワは口を開く。
「アウルのものだ。取引をしに来た」
ふーんと天井から生返事が降ってきた。目だけで確認すれば親指の爪に収まるほどのスピーカーとレンズがはめ込まれている。
「革命家気取りの殺し屋が、困り事とは世も末だねぇ」
無遠慮な言葉にトキワは目をすがめるだけで止めた。
老年の男が鏡に映し出される。下がった眉は白く、頬まで届きそうなぐらいのびていた。筆が作れそうな眉に埋まるようにしてある目は画面に収まらない所に注意を向けている。トキワに視線を向けたのは一瞬だ。
しゃがれた声に似つかわしい頑固そうな男だ。だが、声も姿も簡単に変えられるのだから、本当の姿だとは断定はできない。
男はつまらなそうに続ける。
「こんな老いぼれにかまうほど、あんたらも暇じゃないだろう。帰ってくれ」
「
トキワは固く結んでいた口の封をといた。脅しが通じないなら、こちらが意地になっても仕方がない。
「三日前に壊れた、以上」
答えは誰もが知っているような味気ないものだ。
眉間に力をこめたトキワはトリガーを引く。
乾いた音と鈍い衝突音。弾は鏡の中央、男の喉仏にヒビを入れ、めり込んでいた。
「おいおい、修理代払ってくれるんだろな」
「……こちらの話を聞かないのなら、お前の言い分を聞く必要はない」
「わしの本業は解析とハッキング。そこでたまたま手に入った情報を銭にしてるだけだ。相手の望む情報を切り売りしてるわけじゃない。他をあたってくれ」
きっぱりと断りを入れ、忙しいんだとでもいうようにタイピング音が静寂を埋める。
トキワは、寒気を感じる程の涼しい顔で対処する。
「
「Wi-Fiも四次元ランも死んでるのにハッキング? 橋も船もないのに島を目指すようなもんだぞ。仕事になるわけない」
ふと思い出したように男はトキワを一瞥した。
「ユーイェンに会っただろう。あいつを連れてくるなら調べる方法がないこともない」
トキワは顔をしかめた。反射で銃弾を放つところだったが、思いとどまり疲れた声を出す。
「この近くにいるだろう。勝手に捕まえてくれ」
「そこらのネズミよりすばしっこいんだ。ま、情報がいらないなら連れてこなくても構わん」
「……連れてきたら、相応の仕事をしてもらう」
低い声に怯むことなく、男は捕まえられたらなと喉の奥で笑った。
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