Epilogue
夢――寝ているときに見る夢なんていうのは、起きたときにその内容をはっきり覚えている者などそうはいないだろう。
それでも、詳細はともかく、朧げに何があったか覚えていることもある。いつかの朝と同じように、その日見た夢もそうだった。
かつて見たのと同じ姿で現れた『神様』は、こちらの話を聞こうともせず、一方的に一言、
「これからもあの子をよろしく」
とだけ告げて消えてしまった。
言ってやりたいことは、勿論山のようにあった。だけど一つも口にする間もなく、意識が覚醒に向かって急浮上していく。口惜しい想いとともに、脳裏を過った返事は一つ。
――そんなの、言われるまでもない
■
「……お、起きた。おはよう小春」
夢から覚めると同時、瞼を開いた小春の視界いっぱいに、花音の笑顔があった。
改めて見れば、彼女は小春と並んでベッドに横たわったままだ。口ぶりからして、先に目を覚ましながらも、わざわざそのままの体勢で寝顔を観察していたらしい。つい苦笑しつつも、小春が挨拶を返す。
「おはよう、花音……って待って、なんで目を覚ますなり、人のこと跨いでるの?」
「んー、二度寝のお誘い」
起き上がろうとした小春を制するように、花音が上に覆いかぶさってきた。見下ろしながら嘯く彼女を、可笑しそうに笑って押し返しながら小春は言う。
「本当にやりそうだからやめて」
「それか、昨日の夜の続きでもするか?」
「朝っぱらから何をする気!?」
さっきまでより強く花音を押しのけて、小春は身を起こした。膝を立てて花音を足蹴にする。唇を尖らせながら、彼女はベッドから滑り下りた。
「ちぇー、相変わらずお堅いこと」
拗ねたような声音でぼやいた花音は、しかし直後にはまた笑顔を作って小春へ振り向き、
「ま、いいや。ところで今日は何する? どっか出かけるか?」
屈託なく笑みかける彼女に、小春の口元も自然と緩む。床に足を下ろし立ち上がった小春は、花音の手を取り、指を絡めた。花音が少し驚いた様子を見せるのを小気味よく思いながら、彼女の正面に立つ。
青い――多分この世の何よりも綺麗な瞳を、我が物にするかのようにじっと覗き込みながら。そうすることができる優越感を胸に刻みながら。
かけがえのない恋人に、無垢な笑顔を見せつけて、小春は告げた。
「まずは朝ご飯食べて、それから考えましょう。焦らなくても、時間は沢山あるんだから」
彼女をくれとは言ってない えどわーど @Edwordsparrow
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