光が二人を別っても
伊島糸雨
光が二人を別っても
陽の昇らぬ
右眼のトカリと左眼のロヨナは双子の姉妹として生を受けた。
「お前たちは蛇の依代、ふたつでひとつ。それを忘れることのなきように」
巫術師でもあった母は、顔の右半分を覆う仮面に触れながら、かねてより二人にそう言い聞かせていた。トカリもロヨナもそれを了解し、よほどの必要に迫られぬ限り、互いのそばを離れようとはしなかった。
双子たちも例に漏れず、トカリは右眼を、ロヨナは左眼を蛇に捧げた。「ロヨナ、ロヨナ、私の
儀式より以降、トカリとロヨナは祭祀の主役として祈りを唱えることが増えていった。〝
彼らは死を〝熱と光の奔流〟として捉えている。あらゆる事物を焼き尽くし一面を白で塗り潰す終末の光は、万民に対して平等に訪れた。双子の母もまた死の際にあって、「眩しい、眩しい」と幾度も呟き、トカリとロヨナはそれこそが最後に二人を隔てるものだと理解した。
幾ばくかの年月が経ち、トカリとロヨナは成人の儀を迎えた。二人は長く枝垂れた白の前髪を切り落とすと、露わになった眼窩の奥より片割れを見つめ、その一房を手渡した。それは年月に育まれた繋がりの証であった。
姉妹の仮面は本人たちの求めに応じ、蛇を模して全面を覆うようにつくられた。双子は暗闇の祭壇に立って向かい合うと、蛇の面を互いに嵌めこんで、言った。
「光が我らを別っても」
顔のすべてを隠す仮面の存在によって、トカリとロヨナの判別はいよいよつかなくなった。成人の儀式以降、二人は自身を「トカリ」とも「ロヨナ」とも明言せず、その時々に名乗りを変えた。双子が天命をまっとうし、同様の経過をもって亡骸となった後、初めて公に仮面が取られても、個人の特定は叶わなかった。姉妹の瞳のそのどちらもが、誰も知らぬ間に夜を湛えていたからである。
姉妹は一つの墓に埋葬された。刻まれた名は、「トカリにしてロヨナ」であったという。
光が二人を別っても 伊島糸雨 @shiu_itoh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます