スケルトン怪獣 オキンガ
結騎 了
#365日ショートショート 177
男は、晴れて節電省の一員となった。
加速する温暖化、それによる猛暑と冷房需要の高まり、更には原子力発電の抑制により、電力需要逼迫は立派な国難となっていた。ここにダメ押しで出現したある存在の駆除と電気自動車の廃止を掲げて設立された節電省は、今夏も節電促進に躍起になっていた。
春に入省した男は、半年間、みっちりと研修を受けた。研修の内容はある怪獣について。発電所を襲って電気を喰らい、帯電しながら体表を透明化させる怪獣。ある時から突如日本に出現し、地中を移動して全国の発電所を襲い続けている。その名も、スケルトン怪獣・オキンガ。あらゆる分野の有識者が集い、防衛省もその予算の大部分を割いてきたが、未だ駆除には至っていなかった。派手に発電所を破壊した直後、透明化して姿をくらませてしまうのだ。「オキンガを駆除し満足な電力供給を!」。そんな目標を掲げ、全国民が一丸となって節電に取り組んでいた。オキンガ駆逐に失敗した節電大臣の涙は、もはや夏の風物詩となっていた。
「よしっ、やっと現場配属だ」
男は背伸びをして、制服のバッヂを指でなぞった。彼が物心ついた頃から、節電は国難となっていた。これを僕の手でなんとか改善に導くんだ……。そう思い続け、ついに夢を叶えることができた。オキンガの生態や習性について研修を終えた配属初日、男の上司は一枚の紙を差し出した。
「君にはこれを受けてもらう」
そこには『車両系建設機械運転技能講習のお知らせ』と記してあった。
「えっと、これは」
「その名の通りだ。その講習を受けなければ、ショベルカーを操ることができんだろう」
上司は面倒臭そうにネクタイを緩めている。
「すみません、おっしゃっている意味が……」
「まったく、新人の研修担当者は誰だ。一番大事なところを教え損ねているな。いいか、ショベルカーを運転できなければオキンガが発電所を襲えないだろう。君はもう、オキンガがどんな図体なのかよく分かっているはずだ。頼むぞ、いい感じに壊してくれ」
スケルトン怪獣 オキンガ 結騎 了 @slinky_dog_s11
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます