出会い斬りの達人

砂漠の使徒

達人は今日も

 私は人呼んで「出会い斬りの達人」。

 出会った人を片っ端から斬る危険な辻斬り野郎……ではない。

 私が斬るのは悪しき者だけ。

 今日も人知れず、駅前のファミレスで獲物を待つ。


「あっ、君ミクちゃんだよねー?」


 指定の席で待ち合わせをしていると、声がかかった。

 そう、奴が今日のターゲットだ。


「はい! あなた、太郎さんですかー!?」


 男が喜ぶような甲高い声を出す。


「う、うん。やっぱりミクちゃんだったかー!」


 こちらの服装まで伝えているのだから、間違えようがないだろう。

 男は―太郎と言ったか―白のシャツに黒のジャージ、壊滅的なファッションセンスだ。

 これでデートに行こうと言うのだから、気が知れん。


「太郎さん、何食べますー?」


 私はとりあえず様子見のため、メニューを差し出した。

 こうした些細な行動から、男の性格がにじみ出るものだ。


「あ、ありがとう!」


 例えば、これだ。

 男はメニューを渡す私の手を偶然を装い意図的に触りながら、受け取った。

 ラブコメならば、きゅんとする場面だが私はこんなおっさんに興味ない。

 その後のチラチラ確認する様子も……若者っぽく言うならば「キモイ」。


「じゃ、じゃあこれにしよっか!」


 選ぶのはカップル限定ドリンクだ。

 何を勘違いしているか知らないが、今会ったばかりなのだぞ?

 しかし、今は辛抱。

 時を待て。


☆☆☆☆☆☆


「今日は楽しかったです!」


 そういう体で、話を進める。

 あんな遊園地デートなんて、誰が喜ぶだろうか。

 だが、まだ無害の範疇。

 しっぽを出すのはこの後か。


「そうだね、ミク」


 呼び捨てか。

 仲良くなったと勘違いしているらしい。


「あのさ、この後予定ある?」


 来たな。

 私の予想が正しければ。


「よかったら、ホテルに……」


「アウトだ」


 その言葉を待っていた。


「え?」


 困惑する男。

 しばし冷たい夜風が二人の間を流れる。

 遠くから聞こえるサイレンの音。


「やべっ」


 逃げようとしも、もう遅い。

 私は男の足を払う。

 無様に転んだ男は私を見上げる。


「お前……何者なんだよ!」


 なんだかんだと聞かれたら。


「私はこういう者でね」


 スカートのポケットから、警察手帳を取り出す。


「最近、この周辺でとある出会い系サイトに登録した女の子の誘拐事件が相次いでいる」


「……」


「女の子達が最後に目撃された場所とお前の住所が近いから、怪しいと思って会ってみたらビンゴだったな」


「まさか……『出会い斬りの達人』だったとは……」


 パトカーが到着した。

 中からかわいい後輩君が手錠を持って出てくる。


「先輩、大丈夫っすか!」


 もはや逃げることを諦めた男に手錠をかけ、私を心配している。


「決まってるだろ。私を誰だと思ってる」


「『出会い斬りの達人』っす!!」


 私は人呼んで「出会い斬りの達人」。

 出会い系サイトに潜む危険な奴らを取り締まる刑事だ。

 今日も一人……。


「でも、よくだませたっすね。二十歳くらい歳をごま……いって!!」

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出会い斬りの達人 砂漠の使徒 @461kuma

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