君に会いに

 シオンを撥ね退けると、柵に向かって走った。骨折した場所が刺されたように痛い。そんなの気にしていられない。猛獣から逃げる草食動物のように走る。

 

 柵によじ登ると、そこから僕は身を投げた。一瞬視界にシオンの顔が映る。止めよと何か言っているが、そんなの聞こえない。


 さよなら母さん、父さん、シオン。僕はアオイに会いに行きます。


 目を閉じて死を覚悟すると、強い衝撃が背中を叩いた。呼吸ができない。体が空気を取り込もうとしているが、うまくできない。


 生きてる。どうやら下はゴミ捨て場だった。大量の段ボールと、ゴミ袋がクッションになっていた。


「ばーか」


 頭を起こすと、そこにはアオイが立っていた。うちの制服を着て、髪をショートカットに変えている。身長もあの頃より大きくなっていた。


「言っただろ?お前は一人じゃないって」

「僕にはアオイしか....」

「しょうがねぇやつだな。ほんっとうに」


 アオイが近づいて、僕の前にしゃがみ込む。


「これで我慢しろ」


 胸元を掴まれ、引き寄せられると彼女の唇が僕の唇に触れた。


 柔らかく、優しいレモンの味がする。一瞬の出来事だったけど、その時間はずっと長く感じた。


「また、どこかで会えるから。シオンをよろしくな」


 瞬きをしたとき、既に彼女は居なかった。シオンが昇降口から走ってくる。遠くなる意識の中、アオイの声が聞こえた。


「またね」







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君に縛られた僕 谷村ともえ @tanboi

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