Day15 遭難信号(お題・なみなみ)
『なるほど……昔の怪談は無学の人が多かった時代、危険や禁忌を怪異に例えて戒める意味もあったのですね』
浅黄色の地に朝顔を白く染め抜き、白い帯を締めた浴衣姿の
『本物の怪異がさりげなく映っているのも趣きがあって良いでしょう』
六造が出した青白い人魂が三つ、ゆらりゆらりと浮かんでいた。
「お千代様、こちらです」
『最近、住人達が調子乗っていて悪さをするといけないので』
という理由を述べて、今朝から千代についている三毛丸がそっと袖を引く。事前に打ち合わせして選んだ話題を入力したボードを持って、河太郎の操るドローンのカメラに映らないよう遊具の後ろを回る。
「こちらです」
三毛丸が二人の前に誘導してくれる。ちらりと視線を送る椿に頷いて、千代はボードの画面をタップし、次の話題を出した。
段取りは全てインプットされているミナミが自然に話題を変える。
『電波とか音波は怪異と相性が良いといいますね』
『ええ、オカルトマニアの間では、想いは脳の電気信号だから、そこから発生する霊は電波や音波に乗りやすいというのが通説です。現に電話、ラジオ、テレビ、ビデオ等にまつわる怪談はたくさんありますし』
『宇宙船の通信にまつわる話も多いですけど……『TASOKARE』も怪異めいた通信を受けたことがあるんですか?』
ミナミの質問に千代の胸がトクリと鳴った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あれは……初めは雑用係として船に雇われた後、航宙通信士の免許を取って、『TASOKARE』の通信士となったばかりのことだ。
確かに宇宙船の通信に関する怪談は多い。特によくあるのがレーダーに船影が無く、通信信号もキャッチしていないのに、遭難信号を傍受したというものだ。
もしかしたら、そんな怪談のように父母と兄が乗っていた宇宙船の遭難信号を受けることがあるかもしれない。そう考えて、航行中、千代はいつもシフトを終えて、交代の時間になっても通信席に座っていた。そんな深夜。
ザ……ザ……ザ……。
通信装置のマイクが鳴る音が聞こえた。
……メ……デー……メー……デ……。
明らかに人の声だ。だか、受信を知らせるパネルは点灯していない。
もしかして……。千代は息を飲み、ヘッドセットを着けるとマイクに呼びかけた。
「こちら航宙興行船『TASOKARE』、応答願います」
……こちら……オリ……航宙所属……号。……緊急……事態……エンジン……発火……。
通信はひどくノイズが走っていて聞こえにくい。しかも、声に時折、衝撃音が重なる。もっと良く聞こうと千代がボリュームを上げたとき
「貸しな」
いつの間にか背後に来ていた虎丸が彼女の耳からヘッドセットを取り上げた。
「こちら『TASOKARE』。今から航宙法に乗っ取り、貴船の救助に向かう。宇宙軍にも通報をした。付近を航行中の巡航鑑がそちらに向かっている」
虎丸がマイクに向かい励ますように告げる。
……良かっ……これで……助か……。貴船の……対応に……感謝する……。
ノイズの中に歓声のような複数の声が混じる。その後、通信はプツリと切れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
あの後、虎丸がこういう通信のときは『救助に至急向かっている』と伝えると向こうから勝手に切れる、と教えてくれた。それは通信士の間で『もしも』の時の『対処法』として伝えられているだと。
『うまくいけば、そのまま成仏出来るしな』
『今の通信の相手は成仏出来たのでしょうか?』
『最後に『感謝する』って言ってただろ。礼を言える心が残っているヤツはこれで、あちらに逝けるさ』
『……良かった……』
その答えにぼろぼろと千代は泣いてしまい、まだ、それほど距離が近く無かった虎丸はおろおろと泣きやむまで側にいてくれた。
その後からだ。千代が少し通信席から離れられるようになったのは。
「そうですね……これは私が友人に聞いた話ですけど……」
『話して良い?』
椿がちらりと千代を見る。千代が笑みを浮かべると、彼女に向かって頷いた。
* * * * *
停泊中、人気の無い船橋にクルクルと少し大きくなった影が現れる。それは機関席、航海席、操縦席、船長席を這い回ると、パネルの中にすっと入り込んでいった。
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