絶対あんたなんか好きにならないんだからね!

勇者れべる1

第1話 絶対あんたなんか好きにならないんだからね!

私の名は白羽明日香(しらばねあすか)。

自分で言うのもなんだが超の付く美少女である。

同性も思わず振り向く端正な顔立ち、抜群のスタイル、

たまにふく爽やかなそよ風が私の茶色い長髪をたなびかせる。

そんな私を夢中にさせるのが同じく超の付く美少年諸星隼人(もろぼしはやと)君。

高校1年で生徒会副会長を務め、学力・スポーツも万能のパーフェクトマンだ。

クラスメイトの二人はやがて惹かれ合い結ばれる運命、私はそう思っていた。

そう、あいつが現れるまでは・・・


「僕と付き合って下さい!」


「嫌よ」


私が即答したその男は橘翔一(たちばなしょういち)。

カッコイイ名前に似合わず普通オブザ普通の平凡な外見だ。

前髪が顔を隠しよく見えないさえない男、よく告白する気になった物だ。

その告白に私が首を縦に振る可能性は0%だった。


しかしその可能性は少しづつ上昇していった。

外見に変化はないのに何故か魅力的に見える顔。

ムキムキでもガリベンでもないのに部活での輝かしい成績に学年トップの学力。

そしてまるでストーカーの様に私の前に現れ適切な会話をするコミュニケーション力。

そこに不快感はなく、魅力的な男性が仕上がっていた。


「なにかがおかしいわ…」


まるでゲームの主人公が如くステータスを上げていく橘君。

しかし彼の見た目は何一つ変わっていない。

不審に思った私は彼を調べる事にした。


「さすが新聞部のエースね」


「褒めても値下げはしないわよ」


新聞部に所属する彼女はちょっとした学校の情報通だ。

彼女曰く彼には特に目立った行動は無く、ただひたすら運動・勉強し、鏡の前に立ち身だしなみを整えていたそうだ。

更に複数の特徴的な女性に対し友人以上の交友関係を築いてるそうだ。

このままではその中に私が入る日も遠くない。

こうなる前の彼を知っていた私はゾクっと寒気がした。


「僕と付き合ってくれないか?」


前回同様校舎裏に呼び出された私、そして最初の時と違い自信満々の彼。


「ごめんなさい、私好きな人がいるの」


「・・・!」


ショックを受けてる橘君。

確かに彼は見違えるほど魅力的になったし、会話もしていて楽しい。

一緒に遊びに行ったりもしたし、プレゼントだって私の好みを把握している。

それに彼を目の前にすると胸が苦しくなり、妙に緊張してしまう。

世間ではそれを「恋」と言うだろう。

しかし私には憧れの王子様である諸星君がいる…彼以外の男性と付き合う気はなかった。


「それにあなた、色々急すぎて気味が悪いのよ」


「そ、そんな!だって俺とあんなに楽しそうに話していたのに!」


「それは友達としてよ・・・勘違いしないで」


よくよく考えたらここまで効率的に行動されると逆に気持ちが悪い。

私が喜ぶ言葉や贈り物も好きじゃない人にされても同様に気持ちが悪い。

今の気持ちは恋と言うには気持ちが悪かった。


「なんでだ!あんな奴、ただのモブイケメンだろ!」


あんな奴って誰の事?諸星君の事?彼を馬鹿にしてるの?


「それってあなたの事でしょ…?」


私は少しイライラしていた。

急に現れた彼は私の第二の王子様になろうと奮闘している。

しかし私はそれに応える気は失せていた。

今の彼は私と諸星君の間に立つただの邪魔な壁だ。

どんなに魅力的でも乗り越えなくてはならない。


「くそっ!攻略ルートもフラグも好感度も完璧だったはずなのに!」


今彼はなんて言った?フラグ?好感度?

まるで私をゲームのキャラクターの様に言ったのだ。


「人を物みたいに言わないで!」


私は軽蔑の眼差しで彼を睨みつけた。

しかし彼は私を無視し頭を抱え髪をかきむしっている。

そして私にこう告げた。


「君はただのヒロインなんだよ!このゲームの!」


ついにここまで拗らせたかと呆れる私。

恋愛をゲームだと勘違いしているのだ。

彼にとって私は攻略すべきヒロインでしかない。

もうここにいる意味はない、そう思い立ち去ろうとしたその時だ。


「な、なによこれ!?」


私は自分の身体を驚きの眼差しで見た。

自分の身体が消え始めたのだ。

そこには青白いデジタルなモザイクエフェクトがあり、私を分解していく。


「次こそは、絶対に好きと言わせて見せる!」


消える最後に聞いた言葉は最悪の一言だった。





「こ、ここは・・・?」


消えたかと思った私の身体は元のに戻っていた。

しかし服装は学制服ではなく派手な装飾の付いた中世の鎧の様な物に身を包んでいる。

まるでRPGのゲームのキャラクターの様だ。


「やあ、こんにちは」


「あ、あなたは…!」


私に目覚めの声を掛けてきたその男こそ、現代の私を消し去った(?)張本人、橘翔一だった。

彼は異国の服装に身を包み、マントをたなびかせ、腰には剣をさしている。

まるでソシャゲ主人公の様になんとも特徴のないコスプレだ。


「これ、君にプレゼントするよ」


そう言うと橘君は大量の花束やケーキ、本にぬいぐるみを私に押し付けて来た。

すると私の頭上にピンク色のゲージが出現し、みるみる内に上昇していく。

私が頭上のバーを見ていると彼は次の話に移った。


「部隊になじめないようだけど何かあったの?」


橘君は私に問いかけて来る。

どうやら彼は傭兵部隊のリーダーで私はその部隊の一員らしい。

まるでソシャゲの主人公とヒロインの様に。

私が何か言おうとする前に頭上の「SKIP」ボタンが彼に押される。


「成程ね、実家のお父さんに戻れと言われてるのか」


「は?」


私の頭に理解できないストーリーが情報として流れ込んでくる。

どうやら私は貴族の娘で、しつこい許嫁から逃げて家出してるらしい。

そのしつこい許嫁って言うのが諸星君そっくりなのだ。

どう考えても設定が橘君と逆だと思うんだけど…。


「大丈夫!無理に結婚する必要なんて―」


「無理なんかしてないわよ!」


私が彼につっかかると彼はまた「SKIP」ボタンを押そうとする。

私はその手を掴むと振り払い、彼から距離を取りボタンから遠ざけた。


「イケメンの許嫁?上等じゃない!大歓迎よ!」


私はその場から離れようとした。

しかしいつのまにか私は複数の女性に囲まれていた。


「彼に選ばれるなんて光栄な事だわ」


魔術師の様な恰好をした女性がそう言いながら私の手を取る。


「あいつは強いぞ!いい男だ!」


筋肉質な戦士風の女性が私の前に立ちふさがる。


「今回だけは譲ってあげるわよ」


華奢な体をした女騎士風の女性が私の手を強く掴み離そうとしない。


「いや、離して!」


抵抗するも3人に勝てる訳もなく、彼はじりじりと私に迫って来る。


「好感度をMAXにしてキャラシナリオを全部開放すれば攻略完了だ」


「またそうやって人を物みたいに・・・!」


「それにしても不思議なんだよね、君だけシステムの干渉を拒否してるなんて」


システム?とやらがこの状況を作り出してるらしい。

確かに大量のプレゼントの後は彼を前にすると胸がしめつけられる様に辛い。

身体も火照るし顔も赤く染まっている。

でも絶対にあんな奴に恋なんかしないという魂の叫びがそれらを押さえつけていた。


「シンプルなソシャゲ風のシステムにしたのにまだ抵抗するのか…」


彼はぶつぶつ言いながら私に近づいてくる。


「まあいいや、僕と付き合って―」


「嫌よ!絶対に嫌!」


「何故だ!何故そこまで僕を拒絶するんだ!」


「言ったでしょ!他に好きな人がいるって!」


「でも俺はそいつよりパラメーターは高いし、この世界じゃ勇者として多数のヒロインを従えているんだぞ!」


「だーかーらー」


私は深く息を吸う。


「女性を物扱いするなって言ってんでしょおがああああ!!!!」


私は残った片手で橘君をグーパンした。


「くっ、どうなるか分かってるんだろうな!創造主にこんな真似して!」


私の身体はあの時と同じようにデジタルなエフェクトに包まれて消えていく。


「それでも―」


「それでもあんたなんか好きにならないんだからね!」


私は消えかかった手で彼を指さすと、威風堂々と彼に宣言した。




「こ、ここは・・・?」


次に目を覚ますと何もない空間にいた。

辺りを見回すとぼんやりと光る地点がある。

そこにはぼさぼさ頭で無精髭の男性がPCを前に座っていた。

彼はけだるそうに椅子を回転させると私に向かい合いこういった。


「残念ながら君はメインヒロイン降格だ」


「・・・」


無言で彼を見つめる私。

どうやら私は本当にゲームのヒロインだったらしい。


「システムの言う事を聞かないバグは消去しなければならない」


無気力な目で私を見つめる彼。

橘君を裏で操っていたのもこの男だろう。


「さて最後に聞かせてくれないか、どうして魅力たっぷりの橘翔一を好きにならないかを」


私は目を瞑り一考すると、男にこう告げた。


「平凡すぎるからよ」


「か、彼の魅力度はカンストしてるはずだ!他のステータスだって―」


「数値じゃなくて目で見た感想よ」


すると何体もの違う服装の橘君が出て来て横一列に並んだ。


「どうだ、これでもドキドキしないか!」


「全然」


パラメーターでは最高でも服のセンスは普通だし顔も皆同じで特徴が無い。

声も平凡だし、例え何度命を救われても何を貰っても、恋愛対象になる事は無いだろう。


「消える前に最後に聞きたいんだけど」


「・・・なんだ」


「何故諸星君を主役にしないの?最高のデザインよ、彼」


「何故かって…?」


男はキリキリと歯を食いしばらせた。


「あいつじゃ俺にならないからだよ!」


小説家もイラストレーターもゲームクリエイターも漫画家も、

魅力的なキャラを生み出して魅力の無いキャラの踏み台にする。

そんなキャラに恋させられる女性キャラの気持ちも少しは考えて欲しい。

私は消えゆく身体と意識の中そう思った。


―数日後



今私は憧れの諸星隼人君と手を繋ぎ登校している。

私も彼も見た目や中身に変化はない。

周囲の生徒達もいつもの羨望の眼差しで見つめてくれる。


「先に告白して成功だったわね」


「何か言った?」


不思議そうに私の顔を見て来る隼人君。


「いーえ、別に。でもサブヒロインもいいかなってね」


「???」


サブヒロインにはフラグも好感度も無い。

どんなにプレイヤーに望まれても攻略する事は不可能なのだ。

そして古今東西、恋人がいるヒロインを攻略しようという輩はいない。


「(そうでしょ?創造主さん)」


私は大嫌いな神様にそう祈った。


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