係決めの方法。僕の場合

シイ

第1話

「どうして、僕だけ係が決まらないんだ」

 今日は、中二になってはじめての委員、係決めの日。僕、つまり柳田智男以外、クラスにいる全員の委員と係が決まっている。まだ決まってないのは、僕と、今日欠席した岡島和也だけだ。

「だからあ、副委員長になりなよ。あまっているから。これから代表委員会があるの。委員長と副委員長が出席しないといけないんだよ」

 高林奈美さんが、いつもより甲高い声で言った。

高林さんはいいよな。第一希望の委員長に立候補して、他に希望者がいなくてすぐ決まったから。もっとも、委員長なんて面倒な委員なんて、なりたい人の気がしれないけど。

「嫌だ、新聞係がいいって、言っているじゃないか」

新聞係にすでに決定している上野美咲さんが、困った顔をした。

「だって、今日休んでいる岡島くんが新聞係をやりたいって言っていたんだから、譲ってあげたらいいじゃない」

「どうして、休んだ奴に譲らないといけないんだよ」

 カズの奴、なんでこんな日に風邪をひくんだ。他の係や委員は、定員オーバーしても話し合いや、じゃんけんで決着をつけてみんな決まった。でも僕は、カズが休んでいるから、どうしていいかわからない。

 新聞係は、男子二人、女子二人だ。男子は、すでに一人決まっている。眼鏡をかけている本田誠だ。クラスで一番絵がうまいから、こいつと新聞係を争うつもりはない。本田の代わりにイラストを描けと言われたら、たまったもんじゃない。だいたい、僕の美術の成績は…そんなことはどうでもいい。女子は、上野美咲さんと、上野さんと仲良しの小松原芽衣さんの二人。

 本田が僕に聞いてきた。

「岡島くんは、新聞係になってみんなにいろいろインタビューしたいって言っていたけど、柳田くんは、どうして新聞係になりたいの?」

「えー、俺は、えーと、できれば、探偵もののお話でも書いて載せようかなって」

 これは、その場のでっちあげだ。本当は、新聞係の仕事が楽そうだからなりたかったのだ。たとえば国語係になったら、国語の授業のある日は毎日黒板をきれいにしたり宿題を集めたりしないといけない。でも、新聞は二カ月に一回発行されるだけだから、あまり時間をとられないはずだ。

それでも、他に楽な係があまっているなら希望を変更してもいいけれど、忙しそうな副委員長なんか、まっぴらだ。

 高林さんが頭をかしげながら提案した。

「いいこと考えた。それじゃあ、柳田君が探偵小説を書けるかどうか、試しに謎を解いてみて。それができたら新聞係になればいいよ。それなら、岡島君も納得してくれるよ」

 これっていい考えなのかなあ。探偵の話を書くのに探偵しないといけないの?

先生はにこにこしながら笑って見ているだけで、何も言ってくれない。

「え、謎を解くってなに? もう時間ないんだけど。もうすぐチャイムが鳴るよ」

「ほんとだ。あと五分しかない。学活、終わっちゃうね。上野さん、新聞で謎々を出したいって言っていたでしょ。お願い、柳田君に謎々をだしてみて」

 クラスのみんなが、興味津々の様子で僕と上野さんを見る。誰もとめてくれない。

負けないぞ。僕はこれまで、シャーロックホームズや他の探偵ものをたくさん読んでいるんだ。上野さんのだす謎々くらい、お茶の子さいさいさ。きっと。

 上野さんがちょっと考えてから言った。

「えーと、学活の時間が終わるまでに全問解けたら、柳田くんの勝ちね」

「えー、一問じゃないの? 時間ないのに?」

「そこまで難しくないから。さっそくいくね。第一問、英語で、一月から十二月の中で、一番使われる単語はどれか」

 えー、なんだそれ。どの月が使われるかって、そんなの調べた人いるのか。みんな夏が好きだから夏休みのある八月かな? でもオーストラリアは夏休みと冬休みの季節が反対だし。それともお正月の一月かな? やばい、時間がない。

 焦っていると、小松原さんが心配そうに僕を見ているのに気がついた。小松原芽衣さん、どうしてあんな顔してるんだろう。え、芽衣?

「わかった! 五月! メイって、多分、という意味の助動詞だから、他の月の名前より、たくさん使われているはず」

「正解! では次の問題。今度は日本語。あるお酒から、二文字をとるとスポーツになります。なんのスポーツでしょう」

 わかんないよ! 何だよ、それ。未成年なだからさあ、お酒なんて、よくわからないし。ビールなら父さんがよく飲んでるけど、ビールとスポーツは関係ないし。だいたい、ビールからビーの二文字をとったらルになっちゃう。ルってなんだよ? ビールって単語が、短かすぎるんだな。もっと長い単語じゃないと。日本酒はどうかな? シュをとったらニホンだけど、まさかそんな名称のスポーツないよな? それとも、相撲は日本の国技だから、海外では通称でニホンというとか? いや、ない、ない。父さん、もっといろいろ飲んでくれればよかったのに。そういえば、この前、もらいものとか言って飲んでたの、あれ、何だっけ。ウイスキーとか言ってたな。ちょっと待てよ、ウイスキー、これだ!

「わかった! スキーだ」

「はい、正解です。次は、私が言う最後の問題です。お肉からおを取ったら肉で、お肉も肉も同じ意味です。お醤油からおをとっても醤油で同じ意味です。では、おをとると全然意味が違ってしまう三文字の食べ物は何でしょう」

 えー、何だよ、それ。もう時間もないのに。おがつくもの、お肉ときたらお魚か。でも魚でも同じ意味。お、お、お、お味噌汁、おをとっても味噌汁。違うよなあ。それに、三文字じゃないじゃん! もう時間ない。あーあ、これまでか。

 焦りながら、ヒントでもないかと壁に貼った給食の献立表に目をやった。でも、字が小さすぎてここからはほとんど読めない。今日って、何の給食だったっけ。答になるようなものなかったかな、えーと、主食が麦ご飯で、おかずは…。あ。

「はーい、五分過ぎました。時間でーす。柳田くん、すごく善戦しました。二問正解です。でも、新聞係は岡島君でいいかな?」

 上野さんと小松原さんが、心配そうな顔で僕を見た。

「うん、カズに譲るよ」

 クラスのみんなもほっとしたようだった。副委員長、たいへんそうだけど、委員長の高林さんがしっかりしているから、なんとかなるだろう。

「それで、正解はなんだったの?」

 帰りの会が終わった後、本田は答が気になるようで、上野さんに聞いてきた。

 上野さんはちょっと困った顔をしたが、すぐに

「お酒! おをとると鮭になるでしょう。だから、全然違うものになるというわけ」

「ふうん。でも、おをとってサケだと、鮭と酒のどちらでも意味が通るけどね。それ、問題としてどうかなあ」

「そういわれればそうかな。ごめん、急いで考えたから」

 上野さんは前より困った顔になった。

 僕は助け舟をだした。

「納得、納得! 僕はそれも思いつかなかったんだから、正解しなかったということで納得した!」

「ふうん。まあ、柳田くんがそう言うなら」

本田はそう言うと、首をふりながら離れていった。

代表委員会が終わって昇降口に行くと、上野さんが待っていた。

「柳田君、今日、ありがとうね。本当は、全部の謎を解いたんでしょう?」

「うん。三番目の答えはおかず。おをとると、数。数字だから、全然違うものになる。それに、四番目の謎も解けた」

「やっぱり? さすが柳田君。頭いいね、探偵みたい。ほんと、ありがとうね!それと、最後の答は、誰にも言わないでね!」 

 上野さんはそれだけ言うと、速足でいってしまった。

 四番目の謎。

一問目の答えがメイ。二問目がスキー。三問目はかず。並べると、めい、すき、かず。だから、上野さんと小松原芽衣さんは、カズに新聞係になってほしかったんだ。カズはどう思っているんだろう? 僕の知ったことじゃないな。カズの奴め。

 副委員長、がんばるしかないな。頭いいって言われたし。探偵みたいだって! へん!

 僕は思い切り走り出した。

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