おれのパラダイム・ザ・ワールド

浦切三語

本文

 波色防災センターの本社ビル。髭を蓄えた創業者の胸像。それを一瞥して、おれはビルの正面玄関を大股にくぐり、木立の溢れる外に出た。目の前の片側二車線道路には排気音の残響すらない。ぎらぎらと照りつける太陽にどこまでも長く伸びるアスファルトがたっぷりと炙られて、いまにも透明な巨人が立ち上がりそうな気配だった。今が夏なのか春なのか。おそらくは夏なのだろう。前世紀の頃は桜の花が咲き誇る時節であっても、それに見合った天候ではないことの方が多かったらしいが、だが歴史の授業で「夏=蒸し暑い時節」と学んでいるおれ・・や、おれと同世代の奴らにとって、今のこれは間違いなく「夏」と定義するに相応しい季節とみて、間違いはなさそうだった。


 だからきっと、いまは夏なのだ。そのはずだ。


 薄いブルーのビジネス・シャツの襟元に、じんわりと汗が滲み出てきた。スラックスのポケットから皴だらけのハンカチを雑な手つきで取り出し、額と首筋を雑に拭う。離島のようなハンカチの汗染みをぼんやり見つめながら、ひとまず「避難」できる場所はないかと、駅の方向へ向かって歩き出した。


 歩きながら考えた。おれはまったく、時間などというものに頓着しない性格をしている。それはおれの同期にも言えた話だ。それにも関わらず、たとえば石垣や上林なんかは、あいつらは前時代の幹部連中の覚えめでたくいたいがために、生まれてこのかた一度だって手にしたのことのなかったであろう、ねじ巻き式の【バングル】を……たしか……そう、去年(この言い方もイマイチ慣れないが)の冬のボーナスで買いやがった。社長が愛用しているボレックス・・・・・だかバカボイヤー・・・・・だか知らないが、とにかく、透き通った湖の底に沈殿する白い砂利のような装飾が施された円盤針を、大袈裟なことに基準器として用いて、いちいち毎朝――「朝」なんて概念がこの世にあること自体、おれにはとうてい信じられないのだが――手首にすっぽりはめた【バングル】と睨めっこし、眉間に深い皴を寄せて、ラグビー部出身者にありがちな繊細さの欠片もないような極太の指先で、チミチミ、ミチミチ、ギリギリと針の位置を上へ下へと調節している姿を見ると、なんとも哀しい気分になってくるのだ。おれは、おれの世界を信じたくてこの仕事に就いたが、ところが、あいつらは違ったのだ。おれと同じ世代でありながら、彼らの思考は旧世代的なところがあり、つまりそれは……ルールに縛られていたいという被虐的欲求だった。


 空を見上げる。雲行きが、いつの間にか怪しくなっている。さっきまで白かったものが重金属の廃液のような風合いとなり、もう何十年と人が住んでいない空き家の壁紙のごとく、ぼろぼろと湿り崩れて、みっともない埃のような「雪」を街路樹やロータリーにまき散らしてもおかしくない。だが、本当はそれ以上の「奇妙な被害」がやってくることを、おれは知っている。いや、おれだけではない。ふと周りを見渡すと、経験則の賜物か、あるいは生まれ持っての危機管理能力を発揮したか、機敏な通行人たちが慌ただしい足取りで横断歩道を駆け、駅前の大型ショッピングモールに駆け込むところだった。おれも「避難」しなくてはならなかった。こういう時、ビジネスマンは厄介だ。すっかりソールの擦り減った革靴でばたばたと駆け、一足遅れるかたちで、モールの一階にある衣料品売り場に到着した時だった。後ろからとんでもない音が響いた。振り返ると、すでにそれ・・は始まっていた。


 超強化ガラス張りの壁が、はるか上空からの爆撃に晒されたように、ばりばりと激しい振動を繰り返し、自動ドア越しに望むロータリーの中心で突発的に発生した――そう、それはいつだって「突発的に」やってくる――およそ三十メートルはある銀色のつむじ風が、見えない牙を幾重にも突き出し、タクシーを吹っ飛ばし、街路樹を次々にへし折り、多くのテナントが入ったビルをガリガリと削り取っていた。それは生きた蟻地獄であり、最大効率で運転する速度の化身だった。さっきまで輝かしい陽に炙られていたアスファルトは、突然の暴風域に巻き込まれたことで急速に熱を奪われ、めりめりと引っぺがされて、残骸となって町の中心街に襲い掛かった。


 避難民たちが、神話の怪物を目撃したような絶叫を上げた。そのほとんどが未就学児や、その母親や女だったりした。夫や男たちはといえば、忌まわしいものに遭遇したように、ますますの暴力性と無軌道性を高めて黒曜石じみた鋭い結晶片をショットガンのようにまき散らす銀暴風を睨みつけていた。中には携帯端末の写真機能を立ち上げ、これまで何度となくニュースで報じられた「出現」の瞬間を収めようとする者もいた。


 おれは、ファストファッションショップで購入したペラペラのネイビー・ジャケットの裾を左手で翻すと、ベルトループに括りつけた、横幅・高さ・奥行、すべて十センチ四方の白いキューブを五本の指で力強く、これからキャッチボールでもするかのように握り締める。感圧機能と生体認証機能を備えたそれは、六つの面を一瞬虹色に光らせると、数瞬のうちにおれの全身に見えない細工を施した。来るべき【現震ニューエラー】に備えているのは、なにもおれだけじゃない。モールに避難した全員が、おれと同じようにキューブを展開していた。ここにいるのは全員が日本人で、全員が国から支給されたキューブを、形見離さず持ち歩いている。圧倒的な現象を前に、皆が平等でいられる。こういうとき、おれはおれの平凡さを実感し、妙に安心するのだ。


 銀暴風はますます急速に回転力を上げていくと、ある臨界点に差し掛かったところで急速に膨れ上がり、そしてあっけなく爆発した。まるでシャンパンの栓を抜いたような、文字通り気の抜けた音がおかしな感覚でおれたちの耳朶を震わせた。それでも被害は相当なものだった。超強化ガラスは木っ端微塵に割れて、ダイヤモンドダストと見まがうようなシャワーが、風圧と共に一斉に衣料品売り場へなだれ込んできた。


 おれも、おれ以外の人たちも、かすり傷ひとつ負わなかった。見えない細工。単振連続駆動式透化防護服【骸套バリヤージェ】。破片の嵐は、おれやおれたちの肌より五ミリほど外側のところで、見えない壁にぶち当たったかのようにはじけては、足元にちょっとした盛りを形成するに終わる。【骸套バリヤージェ】には重力子デバイスや超精密ジャイロセンサーが搭載されているから、姿勢バランスを補正してくれるも助かった。まるでスーパーヒーローになった気分だ。配布されたばかりの頃は誰もがそう感じた。無論、おれも同じだ。でも、そのことにもすっかり慣れた。旧世代の奴らにとっては非日常が日常に回収され、おれや、おれより若い世代にとっては、それは最初から日常でしかなかった。


 そして【現震ニューエラー】は収斂した。爆散した銀暴風は幾重もの帯状の霧になり変わると、ゆったりと回遊魚じみて銀の渦軌跡をさらさらと残したのち、徐々にその濃度を薄めていった。続けて、渦の中心から黄昏色の閃光が、ぎらりと鈍く放たれた。ほんとうに僅かな間のことだった。市街地のど真ん中に突如として表れた神秘的な薄暮の空間は、それ自体が幻であるかのように、あっけなく日常の風景と同化していった。だが、それと同時にこの世界に現れたその一団は、幻でもなんでもなかった。 


 何か硬いもので地面を叩く音がした。それは、先ほどまで自動ドアだった入り口の向こう。ある一団のなかから、いくつも聞こえてきた。複数の規則性の下で響く音。聞き慣れた音だった。学者や芸能関係者ではないだろう。一番濃厚なのは、軍人関係だ。それも中世か、あるいは戦国時代だろうか。どっちにしろ、おれには関係のない話だが。


「あれ、誰かな」


「馬鹿だなオメーは。どー見てもナポレオンっしょ」


「なに言ってんのさ、ペリーじゃない?」


「いや、ザビエルでしょ」


「禿げてないのに?」「帽子被ってるじゃん」


「てか、秀吉じゃないのかよ。なんで日本に来るんだよ」


「来るならここじゃなくてフランスだろ」


 新たにこの国に現れたその【まれびと】……これからグラン・サン・ベルナール峠を経由して、チザルピーナ共和国の奪還のためにアルプス越えを果たそうとしていた、かつての偉大なる皇帝と、彼に付き従う騎馬の一団は、険阻な山脈とは無縁の荒野じみた都市に突如として迷い込んだ事実に激しく狼狽しているようで、おれはその様子を、しばらくぼんやりと眺めていた。


 変な形の帽子だな。





 --------------------------------------------------------------------

 多世界時空混雑震動。ミッドホワイト。前代未聞の全宇宙規模における時空環境変動。刹那的狂気の永続現象。かつて過去と呼ばれていた時空。これから先に未来と形容されうる可能性を秘めた時空。両時空軸は「いま」という時のあわいが放つ引力に引き寄せられ、衝突し、干渉し、固着と流動をリピートしている。いま、そう、この「時」も。十二次元の均衡はいともたやすく決壊し、時空間のゴルディアスの結び目は激しく混在し、ありとあらゆる時代が――無論のこと「この世界」の教科書には掲載されていない「どこかの時代」も含めて――実体を伴って流入。すなわち、およそ天文学的数字に上る世界という世界の時空間における極大汎用情報が、「この世界」一点を目掛けて転がり込んできた。「現在」という名の蟻地獄の天元。広大な宇宙蜘蛛の巣に垂らされた歴史の朝露は、落ち窪んだ中心に向かって滑り落ちる。それが、多世界時空混雑震動。ミッドホワイト。

 すっかり特異点と化した「この世界」で、観念や基準としての「時間」は、それを定義する尺度を喪失し、空間は生活において定められていた限定的領域を、人間の認知領域を超える状態にまで拡大し続けている。【時混震】の時波が宇宙線の不連続的放射を活性化させ、それが不規則極まる格好で「この世界」に降り注いだ結果、「時間」を知る者と「時間」を知らぬ者との二種に人類を分断せしめた。ちょうどその時期に生まれた新生児だけでなく、その時点ですでに時間のなんたるかを経験的に理解していた者たちの一部も、時の何たるかを知らない者のリストに強制的に加えられた。彼ら新世代は決まって次のように口にする。だが「時」とはなんだ?

 言うまでもなく、世界は損耗し、疲弊した。瓦解にまでは至らずとも、国も企業も国際機関も等しく著しくエネルギーを奪われた。「事態に対処する」といった悠長な台詞は、それが引き延ばしの常套句であることを差し引いても、路傍の石より役立たずになった。ぶつける矛先を見失ったから。膨大な歴史の地層で英雄・優れた統治者・偉大なる文化革命家として祭り上げられ、未だ見ぬ夜道の先では希望の光と称えられていたであろう、あらゆる個人や組織や思想や宗教は、たった一夜で多世界のサラダボウルとしての役目を押し付けられた「いま、ここ」の世界においては、住所不定のならず者も同然であり、襤褸にも劣る詭弁に過ぎない。【まれびと】のほとんどが、治安維持という名目で臨時的に各国共同の下に設立された強制収容施設へ次々にぶち込まれ、増築されゆく一角の奥深くで、生きてるのか死んでるのか分からない暮らしを送っている。かつて革新的とされた思想や、これから革新的萌芽を迎えたであろう思想の種は、「いま、ここ」に氾濫する使い古された考えや低俗な単純性の結論に翻弄され、誰もその真価を探ろうとはしない。有識者たちは、次元の位相混雑によって不定期に迷い込む彼らから、この未曽有の事態を解決するための教えを乞うことはなかった。その余裕がなかったとも言えるし、あるいは、彼らのうちの何人かと次元的ハードルを乗り越えたコミュニケーションを介してみて、人類が数えきれないほどの前進と後退を繰り返して積み上げてきた叡智が、そのじつ「叡智」と呼べるほど神格化されるに足りえないことを悟ったせいだ。

【時混震】の初観測直後、世界はハツカネズミの妊娠期間より短いうちに大混迷の底辺へ誘われ、そこからいつまでも起き上がれないでいる。いま、そう、この「時」も。だが「時」とはなんだ?

 --------------------------------------------------------------------





 モールを出た。客先でひと仕事終えたことを携帯端末で営業二課長に報告してから、最寄り駅の隣の駅まで徒歩移動し、そこで飯を食った。テナントビル二階のファミレス。覇気のない出迎えの声。人工肉と大豆を混ぜたハンバークステーキセットを注文したら、サラダとスープまで付いてきたが、それほどお得感はない。「収穫時期」を知らない者が育てていたのがはっきり分かるくらい、サラダの色がくすんでいたから。三食区切りで最後の飯になるから、たぶんこれが「夕飯」と定義されている奴で、すると「今日」の業務はもう終わってもいいはずだったが、おれの勤め先的に「今日」はまだ終わっていない。企業によって「日の区切り」の基準はまちまちだったりするが、おれのところはノルマ計算だ。つまり訪問先企業の件数。そこで見積依頼や受注依頼を何件獲得したかで一日が区切られる。今日はまだ三件。あと二件訪問しなければ、「今日」という日は終わらない。(ちなみに、ここのファミレスは一日五百人のお客を捌いたら「今日」が終わる。入口の電光掲示式カウンターには三百二十四と表示されていた。まだまだ彼らの一日は続くというわけだ)


 本当ならさっさと仕事を終わらせるべきだったが、食事を終えたいまのおれには、まず先にやるべきことがあった。ほとんどのサラリーマンにとってノルマ達成は優先すべき事項であるには違いない。けれど、おれにとってはそうじゃない。そのことを強く思考すると、意識のひだがくすぐられた。そうだった。そんなものはどうでもよかった。いや本当に、これからの選択次第では、ノルマだの時間だの、そんな一切の概念が無意味になってしまうかもしれない。


 以前、彼ら・・と会合を約束した場所。いつだったか、【現震ニューエラー】の時空波衝撃・・・・・で更地になった旧市街地跡に最近になって建設された、だだっ広い緑地公園。河川に面したそこは、近隣に立ち並ぶ団地で暮らす、健康的なファミリー層に向けて設計されている。適度な数の遊具、石造りの噴水に、花壇、木製のベンチ、砂場、それに親御さん向けのアスレチック風な健康器具まで取り揃えていて、そこは大袈裟に言うなら聖域だった。この混迷極める時代において、絶対唯一の平和を維持し続ける領域。平凡の極みで、だからこそ犯しがたい空気を醸し出すそこにこれから集まる者たちは、聖域を踏み荒らすならず者・・・・も同然だった。


 ならず者のひとりには、当然のことおれも含まれる。そして、それは二人になった。公園のベンチに腰かけてしばらく(この「しばらく」って感覚も、最近になって掴めてきた。例えるなら、仕事から帰ってきてくたびれたスーツをいよいよと脱ぎ、換気扇の下で何を考えるでもなく一服を二三済ませ、そろそろ風呂に入ろうと意識した時の「そろそろ」という奴に似ている)


「どうも」


 そいつは無難な挨拶を寄こしてきた。猫背の姿勢で、首を斜め前にずらすような、小さな会釈。「どうも」と俺も同じように返す。オフホワイトの通気性に優れたカーゴパンツに、どこで買ったのか分からない、黒と赤のストライプが入ったオーバーサイズの半袖パーカーを羽織り、おまけに黒いキャップを斜めに被っている。本人はごく自然なオシャレを装っているのだろうが、こいつはかなり「ダサい」という蔑称に相応しいスタイリングなのだろう。靴の中に硬い小石が転がり込んだような不快感があった。なぜかと言えば、おれはこいつを「おれA」と内心では呼称しているからで、そうしなければならない。こいつが、数多に分岐する並行世界のどこからかやってきた「もう一人のおれ」であるせいだ。


 時間の概念が一部の奴らにとって無意味と化したことで生じた不都合のひとつが「待ち合わせ」だった。場所は指定できても、時間の指定が通じる人とそうでない人とがいるせいで。その結果、人数に関係なく外出の頻度は世界的に減少したが、かといって人と人との友好関係が不特定のオンラインなものに限定されうることはなかった。「いま、ここ」の世界の人々は、惹かれ合う人物とだけ、波長の合う人物とだけ、行動を共にするようになった。それは無意識的に人間が備えうるであろう超常感覚や、あるいは本能的な反射がもたらす共鳴現象と言ってもよいものだ。


 街をぶらぶらと歩いて、横断歩道の信号待ちをしている時に、反対側の歩道に何気なく目を向けてみよう。その時、形容しがたい「なにか」を薄い肌の下でわずかでも、一瞬でも、だが見逃せないほどの違和感と共に覚えたら、その人物はきっと他人ではない。その人物も、同じ「なにか」を感じている。そしてその人物は、まず間違いなく、こことは違うどこかの世界における【もうひとりの人物ドッペルゲンガー】である。「きみ」と「きみ」が、「あなた」と「あなた」が、「わたし」と「わたし」が、「ぼく」と「ぼく」が惹かれ合ったように、「おれ」も「おれ」と惹かれ合い、こうして適度な間隔で触れ合う時間を設けている。


 ドッペルゲンガー同士は魂のレベルで直結し合っていると、以前、そんな仮説を世界的な文化人類学者と精神物理学者のコンビが言っていたが、いまのところは、それを裏付けるような状況が続いている。おれと「おれA」は「今日」という日を知らない。それでも、おれと「おれA」は「今日のこの時間に会おう」という旧世代的な約束をせずとも、お互いがここに来ることを理解わかっていた。魂が直結しているから。偉い学者がそう言うんだから、きっとそうなのだろう。良く知らないが。


「ねぇ、やっぱりないのかな。カップラーメン」


 おれAは疲れ切った顔色でそう口にすると、隣に腰かけてきた。無香料の整髪剤で頭髪を整えているおれと異なり、寝起きのままやってきたような髪型のせいで、だらしない印象がある。それでも、ホームベースのような顔の骨格だったり、眉根の位置だったり、額の広さ、口元のほくろの大きさ、目の大きさ……顔貌のパーツひとつひとつの形状は、傷ひとつない鏡に向き合っているくらい、お互い似通い過ぎていた。


「だからないって、そんな食べ物。ネットの画像でしか見たことない」


「でもおかしいよ。この世界には、時間を知覚している人だっているはずなのに」


「さる団体からの圧力があったらしい。時間感覚欠乏人権保護団体とかなんとか……ようするに、時間を知覚できない人が楽しめない娯楽や飲食の一切は、不快で配慮に欠けるから、販売や流通を禁止しろと訴える団体。そいつらの働きがあったらしい。ネットでの噂だけど」


「本当なんだね、その胡散臭い話……あれが無いというのが、いまだに信じられないよ」


「そんなに美味いのか?」


「いや、そこまで美味いものでもないよ。普通だ。普通の味さ」


「なら別にいいじゃないか」


「良くない。本当に君は、何もわかっていないんだな。君には君の生活を象徴する平凡さってものがないのか?」


「その平凡さを象徴するものが、あんたにとってはカップラーメンって奴なのか?」


「そうだよ。三分、測るんだ。時間を。そう、三分間。そいつを手にすれば、ぼくは少なくとも三分という時間を体感的に獲得することができる」


「だが、そいつは数字じゃない」


「数字なんていいのさ。麵のふやけ具合、スープの若干の減り具合を観察していればわかる。それが分からないなんて、これほど残酷なことはない。あれがありさえすれば、ぼくは三分という時間を、ようやく再び手にすることができるんだ。君には言ってもわからないだろうが、ぼくにとって、こいつは一大事なんだ。ああ、くそ。いったい、なんだってぼくはこんな世界に……」


 時間飢餓症患者に特有の偏執病パラノイアを曝け出していると、また新たに現れたもう一人の「おれ」が、公園の北方面からとぼとぼと歩いてきた。いや、ふらついていると言ったほうがいいだろう。ベージュの短パンからのぞくのは黒いサンダルを履いた、まるで枯れ木のようなすっぴんの両足で、その頼りなさで見事な球体を描いた上半身を支えている。ゆうに百五十キロは越えた巨体。黒いタンクトップに白くプリントされている二次元美少女のバストアップが、ひどい肉圧のせいで悲鳴をあげている。滝のような汗を流して無精ひげにまみれたその丸顔は、自堕落な大学生活を送って立派にだらしなく肥えていた時代のおれに酷似している。


 おれBは、ぜぇぜぇと荒い息をつきながら、こちらに近づいてきた。見ると、右手には食べきったアイスキャンデーの棒が握られていた。


「あづぅ……い……あぁ……あづぅ……」


 うわごとのように同じ単語を繰り返すと、ベンチの隣に生えた青々しい木立の陰に、どっかりと腰を下ろして胡坐をかいた。衝撃で、ちょっとベンチが浮いた気がしなくもない。


「あぢぃいよぉおおお。日陰なんて何の意味もねぇ。なんだよこの暑さは。不快指数高すぎるだろ」


 お前のその格好の方が不快指数はだいぶ高いぞ、という台詞を飲み込んで、おれは訊いた。


「クーラーボックスはどうした。前に会ったときは持ってきていたはずだが」


「あんなの、何の役にも立ちやしねぇ。氷水を投入したところで、数時間経ったらぬるま湯だ」


 手負いの獣のような唸り声をあげると、おれBはおれAとおれを交互に睨めつけながら、挑むように言った。


「お前らの服装を見てるとなぁ、さらに暑くなってくらぁ」


「別に、普通だと思うけどね。この格好」


 おれAがパーカーのフードを軽くなぞりながら意見すると、おれBは苛立ちを隠すことなく言った。


「俺のいた世界には夏なんてものは存在しねーんだ。前も言ったよな。冬しかないんだ。そうだ。この世界で言うなら冬だ。俺の世界ではうぶって言うんだがな」


 そういうと、アイスキャンデーの棒で地面に「冲」と描いて見せた。


「竹を割ったような、すがすがしい寒さ。それが俺のいた世界の常識。そうだ常識だ! この世界にゃそいつが著しく欠けていやがるんだ!」


「時間は? 時間を正確に感覚できないことの方が問題だよ。「いま」が何年何月何日の何時何分であるか分からないことの方が深刻だ」


「そんなもん知るか馬鹿! 先にこのウザってぇほどの暑さをどうにかしねぇことには先に進まねぇだろ。おい、お前よぉ」


 おれAを一喝すると、おれBは茶色く汚れた棒を、おれの喉元へ突き刺すように向けた。この男は、おそらくおれのドッペルゲンガーのなかで、もっとも粗暴で野蛮な性格をしている。


「本当に、ここに来るんだろうな。その、お前が言ってた【時を換えた少女】ってのは」


「来る。そのはずだ」


「いつ来るんだ」


 気もそぞろなその問いが、この世界では無意味なことを理解しつつも、それでもおれBはそう口に出したくて仕方ないようだった。おれは落ち着き払って言った。


「全員が集まったらと、そう口にしていたよ」


「全員? 俺のドッペルゲンガーが全員集まったらってことか」


「おれの、ドッペルゲンガーだ」


「信じていいのかな。詐欺じゃないの?」


「おれも最初はそう思っていたが、違うな、あれは」


「へぇ……まるで神様だ」


「おい、その単語、うかつに奴の前で口にするんじゃねぇぞ」


 おれBが、公園の正面入り口を棒で指しながら言った。


「信者のおでましだ」


 信者――そう陰口を叩かれた、もう一人のおれである彼の世界では、神聖一文字モノグラマトンを世界統一の象徴文字とする宗教が政治生活の根幹を成しているという。人々は生まれたときから、強制的にその宗教へ入信させられ、つねに神聖さを象徴するたった一文字を、その身ひとつで表現し続けなければならないらしい。死ぬまで。


 おれCは「Tの男」だった。黒のスキニーパンツは明らかにひとまわりサイズが小さく、ムチムチな彼の下半身をきつく縛り上げている。その一方で、上半身はビッグシルエットのストリート系ファッショニスタが好みそうなグラフティ・プリントの施された「T」シャツだ。それは、おれの知るTシャツより、ずっとTシャツだった。およそ四十センチはある袖丈が、肩のラインに沿って落ちることなく、ぴんと真横に張っているからだ。それもそのはずで、彼の背中に極太の医療用ビスで打ち込まれたT字型の金属アングルが、真一文字に袖口を貫いているせいだった。


 伝統と習慣――彼のいた世界では、新生児の時にそれを装着させられる。そして、骨の成長に合わせて徐々にアングルのサイズを大きくしていき、宗教的意義の下で、装着者自身を「T字」に偶像化させるという。おれの感覚では拷問そのものだが、おれCはそうは思っていないらしく、初めて会ったときにそのことを何となく指摘したら、烈火のごとく怒り散らして、宥めるのが大変だった。彼は完璧なまでに「T」を象徴していた。その事実に彼自身、とてつもない安心感を覚えると同時、近くに「神」の存在を感じるのだという。彼がおれAのような時間飢餓症患者めいた症状に毒されていないのは、ひとえに、彼の信じる神とやらの力か、あるいは彼自身の信心深さに起因していると見てよかった。


「四人ですか。まだ集まりますかね」


 おれCは微笑みを浮かべると、ベンチの手前で止まり、直立不動の態勢をとった。おれと同じ顔をした人物が、おれが生涯決して誰かに向けることはないであろう柔和な表情と、それにそぐわない奇抜なポーズをとっている。その事実が、おれをひどく不安にさせた。両手をピンと張り、地面と平行にする。食事とトイレと仕事をしている時、そして寝る時以外、常にその体勢を維持し続けなければならない。それが、彼のいた世界でのルールだった。


「さあな。この前は六人ぐらい来てたか? 今回はもっと増えるかもな」


「なんにせよ、全員集まったらようやく話が動き出すわけですよね?」


「それは間違いない。約束したんだ」


「なら良いですが」


「ねぇ、よくその格好で疲れないね」


 何気なくおれAが口にしたその一言が、おれCにとっては意図を図りかねるものだったらしい。首の角度をいじるのもご法度なのか、顔は極力動かさず、目線だけをやや下に向けて、ベンチに腰を下ろしたままのおれAに問いかけた。


「どういう意味でしょうか」


「どうって、そのままの意味だよ」


「姿勢の圧倒的制御が疲労に繋がると仰りたいのであれば、それはとんでもない誤解ですよ、もうひとりの私」


 おれCは滔々と口にした。


「疲労、それすなわち精神的な過負荷から生じる雑念です。ですが、こうして神の一文字を象ることで、私はその雑念を追い払うことができています。肉体的束縛は精神の乱れを修復する。そういう機能を、本来、人は備えているものです」


 しかし……と、おれCは細い眉根を苦悶に寄せる。


「この世界に迷い込んでから、なにか、おかしく感じます。不調とまではいかずとも、私の肉体が神の気配を感知できずにいます。外的な要因。すなわち、この世界における時間の乱れのためです」


「時間の乱れと神と、どういう関係がある」


「そもそもこの世界は、不健全なのですよ。マルチバースの同時多発的な時空間接合によって流入するのは物質だけに留まりません。思念、概念、伝統、そういった諸々が混然一体となって流れ込んでくる。それすなわち、雑念。世界はひとつの思念とひとつの概念、ひとつの伝統によって支えられるべきです」


「一神教というやつか」


「この世界では、そのように呼ぶようですね」


「この国には昔から大勢の神様が棲んでるが」


「あなた、神は信じないと仰っていたはずですが?」


「信じてないが、神話ではそうなってるんだ」


「ああ、あの穢れた物語……いやになりますね」


 おれCは下唇を少し噛んで、顔を顰めた。嫌な思い出を振り返る時のおれの仕草にそっくりだった。


「私も少し勉強しましたが、唾棄したくなるような伝承ばかりですな。河で擦り落とした垢から神が生まれたり、穀物を尻穴からひり出す神がいたり、脈絡の無さに眩暈がします。不健全きわまるとはこのことです。神は理知であり、清らかなものから生まれるからこその神なのです。清らかさ。それすなわち世界の真理であり、多幸への階梯を上るための絶対条件であります」


「それは、お前の範疇の常識だろ?」


「常識より寛容さを優先するように強要する行為は、私という世界に対する脅迫に他なりません。それに、私という世界を天と地の二方向から支える偉大なる神の御現れを無視した発言ともとれる」


「そういうつもりじゃ……」


「あなたも二言目にはそれだ。そういうつもりじゃなかった。いつもそうやって心の中の罪の在処を誤魔化す。ですが、叩き込んでおくべきです。自覚なき暴力ほど恐ろしいものはない。あなたは多様性という言葉で、私の世界をねじ伏せようとしているのですよ?」


 口調は静かながらも、剣呑な物言いだった。おれAは居心地悪そうに視線を逸らし、おれBは最初から興味などないとばかりに、犬のように黄ばんだ苔で汚れた舌を突き出している。そこにも汗腺があるのだろうか。


「お前さん方、よくもそんな、無駄な言い争いをしている元気があるな」


 後ろから声がした。ベンチから腰を上げつつ振り返ると、ペンキの剥がれたフェンス越しに、おれDの姿があった。もう何度か会っているが、彼の姿を見ると、おれは多少なりとも動揺を隠せない。自分と同じ顔をした、限りなく己に近い他人を初めて目撃した時に全身をしたたかに打った、あの昂揚感に近い寒気が、再び鎌首を上げながら足元を這い回っているような。そんな不安定な居心地に陥っているのは、きっとおれ以外のおれたちも、そうなのだろう。


 おれDの容姿をひとことで表現するなら、やはり他のドッペルゲンガーたちと同様、顔だけはおれと同じ日常の平凡さそのものであるが、それ以外の身体的特徴は、非日常を体現したような、それこそ神話から出てきた怪物そのものだった。大蛇じみた下半身は黒い菱形の鱗にびっしりと隙間なく覆われて、表面を滴る体液が直射日光を浴びて濡れ光っている。こいつは肺ではなく皮膚で呼吸をするらしく、日照りの強い日はあまり外に出たがらない性格だという。それにも関わらず、こうして地上に現れたということは、彼もまた何かを感じて公園へやってきたというわけだ。胸板は薄く、禿頭から生えた二本の角はヘラジカのように巨大だった。そんな不気味な見た目でも、おれDは間違いなく、マルチバースにおけるおれの姿のひとつであると理解った。彼はおれや、他のおれたちにはない多くのものを持っていた。そのひとつが、正確な時間感覚だった。彼は、彼のいた世界ではワームホール生成機構を備えたアダマンタス級超宙航行貨物船の一等航宙士という職業とやらに就いていたらしく、業務遂行中にミッドホワイト現象に巻き込まれたという。それが、何か関係しているのだろうか。


 おれDは、公園の敷地内に入ることはせず、フェンスの向こうから、順繰りにおれたちを見やると、重い溜息をついた。


「共有したいものだ」


「なにを?」


「時間喪失という感覚をだ。なぁ、あっしがこの世界にやってきて、どれくらいの年月が経過しているか、教えてあげようか」


「聞かせてくれ」


「五年と十か月だ。これをどう思う」


 返答に窮した。おれを含めた、その場の全員が言葉に詰まった。ごねんとじゅっかげつ。ごねんとじゅっかげつ。ごねんとじゅっかげつ。繰り返し頭の中で、何かの呪文のように繰り返す。だが、それは呪文にすらならない。閃きをもたらすどころか、それはおれの耳に届いた時点であらゆる意味を喪失し、単なる音韻の羅列としてしか感覚できなかった。


「その呆けた表情が、いつだってあっしを絶望させるんだ」


 硬そうな背中を丸めて、しょんぼりと被害者ぶっているが、そういわれても、おれたちにどうしてほしいというのだろう。この混迷した現代って奴を、それこそ魔法のような力で解決できる手段があるとするなら、その鍵を握っているのはおれたちではないはずだ。


「一日の長さがそれぞれで異なるだけで、こんなにも多くのことが変わるとは思わなかった。あっしのいた世界にあった出前文化は、この世界では跡形もなく消滅しているし、サッカーだってない。もちろん映画すらも。映像文化はほとんど死滅していると言っていい。素晴らしく価値のあるものが、価値の定義を知らない者たちが蔓延している世界では、粗雑に孤独に蝕まれている。そのことが、あっしには大変に辛い。辛すぎることだ」


 どうも鬱の気があるらしい。前に顔を合わせたときは、ここまで弱気な発言はしていなかったと記憶しているが、しかしながら人生をネガティブな方向に捉えているのは、おれDだけではなかったようだ。その後、続々と集まってきたおれのドッペルゲンガーたち……地雷系ファッションの女装男子を自認するおれIも、遺跡発掘調査中にこの世界へ流れてきた僻地惑星保護団体職員のおれJも、彼らの世界には当たり前のようにあった時間という常識の欠落したこの世界では、普通の暮らしを送るのもままならないようだった。


 それ以外に集まってきた面子は、すべて初対面だ。全身が虹色に光る皮膚を持つ仮想高等遊民のおれMに、地底世界で詐欺行為を働いている高級スーツ姿をした興行家のおれO。もっと胡散臭いところでは、見た目は明らかにホームレスに近い格好の「信用銀行員」なる職業を名乗るおれP。粘液の塊じみた無脊椎動物たちが暮らす王国で踊り子をしているおれHや、背中に小さな四枚翅を生やしたインセクト・サイボーグという種族に属しているおれYの顔を観たときは、おれDという前例があるにしても、さすがにひっくり返った。どれだけ生まれや文化や体つきが、このおれ自身とかけ離れていても、顔貌の特徴に関して言及するなら、だれひとりとして、おれと違う顔のやつはいなかった。


 総勢二十七人。それほど待たないうちに(そう、たぶん、それほど)河川公園の一角はクィアの巣窟となった。自分で言うのもおかしいが、まともなのはおれくらいのもので、その他の二十六人は壮烈を極めている。おれDを除いた、おれを含む二十六人は、なるべく人目を避けるように、可能な限りこじんまりと円形に陣を組んで、お互いに顔を突き合わせていたが、醸し出されている異様な雰囲気を隠すことは不可能だったようで、ほかの地域住民たちは奇異な一瞥を寄こしては、そそくさと公園を去っていった。それで正解だと言えたし、これから話し合うことの重大さを考えると、都合がよかった。


「この規模のドッペルゲンガー集団は初めてだなぁ」


 のんびりとした声がした。おれを含めた二十七人のおれたちが振り返ると、いつの間にそこにいたのか。ブランコに揺られて、ひとりの少女がにやにやと意地悪そうな笑みをこちらに浮かべている。有名スポーツブランドのロゴが入った黒い厚底のサンダルに、これまた同じブランドの黒いトラックパンツ。ポリエステル百パーセントの黒い半袖シャツはオーバーサイズ仕様で、逆にサイズ小さめに振り切ったウィメンズ・キャップの下から覗く金色のショートヘアは、潤いをたっぷり含んで艶やかさを演出している。黒一色という出で立ちにどことなく浮世離れしたモード感があるが、それは見た目だけの話ではなかった。その少女は、おれたちが集まっているのを確認すると、ひょいとブランコを後にして、軽快なステップを踏むかのような足取りで、不審者の集団に近づいてきた。


「よっ!お疲れ!お疲れさん!お疲れ様―!」


 旧友に再会したかのような、馴れ馴れしい口調をひとりひとりに寄こしていく。そして最後に、少女はおれの前に立った。ズボンのポケットに両手を突っ込みながら。


「さっきそこでフェリペ四世がリンチされてたっすよ。あの人マジで顎なげーんっすねー」


「誰だそいつ」


「スペインの王様ですよ。たぶん」


「ざっくりした回答だなぁ」


「ぎゃはは。アタシも良く知らねーんです」


 全員の視線が、その一癖も二癖もありそうな小柄な少女に向けられ、その目線に宿る奇特なニュアンスは、次第に、彼女と平常な会話を成立させている俺へと流れていった。


「おい。こいつが例の女か?」


 おれBが怪訝な表情で尋ねた。おれから伝え聞いていた内容を元にイメージしていたルックスと、だいぶ異なることに少々の驚きを隠せないでいるのだろう。


「そうだ。この世界を創り出しちまった元凶だ」


「ちぃーっす。どもっす」


 おれ以外の面子と顔を合わせるのはこれが初めてのはずが、少女の態度は変わらない。距離の詰め方やノリが、社会を舐め切っている若い男に特有のそれだった。おれCやおれJは、この手の女が一番苦手なようで、さっきから渋柿を口にしたような顔を浮かべている。逆に、おれIとPは、さっきから興味深そうな目線を女と、女の着ているブランド物の服に向けていた。


「じゃ、まぁ全員お揃いということで、早速ですけど決を取りますかねぇ~っと」


「ちょ、ちょっと待ってよ。ぼくたち、まだ何も説明受けてないんだけど」


「そもそも……あなたが【時を換えた少女】本人だとして、なぜこのような世界を創り出し、そこに私たちを呼び寄せたのか、説明していただけますか」


 おれCの詰問するような口調を前にしても、少女は全く動じなかった。感心するほどの鈍感さだ。しかし、この女が、全宇宙にミッドホワイト現象を引き起こしたのは、間違いなかった。その証拠とされるものを、おれは彼女と出会って以降、何度も目撃してきたものだった。


「別に、理由なんてないっすよ」


 あっけらかんとした返答に、おれ以外のおれは、開いた口が塞がらなかった。


「ただまぁ、そうっすね。強いて言うなら、世界なんていい加減なものなんだってことを、みんなに教えたかっただけっすね。アタシしゃあ、お節介焼きなんですよ」


 ドッペルゲンガーたちの何人かが、気色ばんだ声を上げた。声だけでなく、行動にまで出そうとした奴もした。


「こいつ、殴っていいか?」


 さっきまで猛暑にやられてクタクタだったはずのおれBが憤然と立ち上がり、血気盛んに少女へにじり寄った。おれは慌てて間に割って入り、少女の擁護に回った。


「待て、落ち着け」


「あぁ? なんだ、お前。俺のドッペルゲンガーのくせして、こいつの肩を持とうってのか?」


「彼女の言い分はともかく、ここにやってきた理由を聞いてないだろ」


「俺たちをからかおうってんだろ? あいにくと、そんなのに付き合っていられるほどお人好しじゃねぇのさ」


「だったら、なんでお前たちは今日ここに来た。今日……そうだ、今日だ。今日ってやつがいったいなにを指しているのか皆目わからないが、とにかく今日、お前たちは、何かを感じてここに来た。そのはずだぞ。自分の直感を信じて、ここにやってきたんだ。なにか重大なことを決めるために。うすうす、そのことに気づいていたはずだ。だって、おれはお前たちのドッペルゲンガーで、お前たちはおれのドッペルゲンガーなんだから」


「……お前、何言ってんだ?」


「理解する必要はない。ただ、感じればいい。それで良いはずだ。少なくとも今は。なぁ、とっとと先に進めてくれ」


「あいあいさ」


 おれBを煙に巻いたところで――おれはおれなりに真剣に彼を説得したつもりだったが、結果そうなってしまった――話を促された少女は、わざとらしく敬礼のポーズをしてから「えーおほん」と、これまたわざとらしく咳払いをひとつ。口をきった。


「結論から言っちゃうと、皆さんの意見次第で、この世界を元に戻そうと思います」


「なに? いまなんて?」


 おれDの爬虫類じみた青い瞳が、真昼の月を目撃したかのように大きく見開かれた。


「あ、えーっと、正確にはこうっすね。アタシがめちゃくちゃにしちゃったこの全宇宙の全時空軸の位相を、正しく調整しようってことっす」


「それは……つまり、あっしも含めた二十七人全員が、元いた世界に戻れる、ということですか?」


「そして、失われていた時間という概念も復活して……カップラーメンの世界に還れる……」


「なんでまた、そんなことを……」


 おれCの呟きに近い質問に、少女はこめかみのあたりをトントンと長い人差し指で叩きながら、軽い調子で言い放った。


「飽きちゃったから」


「こいつ、やっぱり殴っていいか?」


「待って待って待ってよ! え? ねぇ、それっていつから? いつからぼくたちはぼくたちのいた世界に戻れるの?」


「あ、ご希望なら今すぐにできますよ。アタシがここで指パッチンすれば、それで万事元通りって奴っすねー。た・だ・し……まぁちょっとした条件があるんですけど」


「条件?」


 そいつは、おれも初耳だった。何か秘め事を口にされたような、嫌な予感があった。


「簡単に、どうやって宇宙の時空を元に戻すか説明するところから始める必要があるんすけどー……お、おたく、いいもの持ってるじゃーん。貸して!」


 言うや否や、少女はおれBがぼんやり手にしていたアイスキャンデーの棒を、さっと彼の豚足じみた左手から奪い取った。おれBはもちろん、人外のおれDですら、その光景に目を見張った。素早いなんてもんじゃなかった。まるで、はじめから少女の手に握られていたかのような自然さで、アイスキャンデーの棒が、いつの間にか移動していた。少女の見た目は、そりゃあ「少女」って代名詞が似合うくらいに若いわけだが、そんな若い女にはできない芸当だったし、プロの格闘家だって、さっきの少女の動きを見たら驚くに違いない。目にも止まらぬ速さとは、こういうことを言うのだろう。


「いま、この世界を含めた宇宙がどうなってるかって言うとっすねー……」


 少女は、地面に大きな蜘蛛の巣を雑に描きながら、淡々とおれたちにも分かるくらい、嚙み砕いて説明を始めた。


「いまのこの世界の状況は、いろーんな並行世界、マルチバースの情報量がドカドカと絶え間なく垂れ流しにされている、言わばゴミ箱みたいな状況よぉ。いや、廃液タンクって言った方が良いかなー? ちょうど、この蜘蛛の巣の端という端から、だだーっと中心に向かって、大量の水が流れているような」


「はぁ……で?」


「このままボケッとしていると、洒落にならんよ。情報量の大洪水に時空間の糸が耐えきれなくなって、ぶっつんしちゃう。だから、それを防ぐためにバイパスを作るっちゅーわけ」


「バイパス?」


「つまりぃ~、アタシらがいる世界を含めた全宇宙から観測して、一つ下の次元にある別の全宇宙へ向かって情報路を形成して、この情報量を全部流し込むんだべ。そうすると、あーら不思議。情報量の洪水がこの世界に流れ込まなくなることで、時空間軸のひずみっちゅーか、ゆがみっちゅーか、まぁそんなのが次第に解消されていく。ほんで、巣を形成していた糸は解ける。この世界に接合されていた世界は、それぞれ、元の独立した世界に還元されていく。ざっくり説明すると、そういう仕組みなわけです」


「それを、君の指パッチンひとつでやっちゃうってこと?」


「そそ。このバイパスを繋ぐ一連の作業を、ここではシンプルに【回帰リバース】と表現しましょうか」


「その【回帰リバース】を成功させるための条件ってのはなんだ」


「条件というか、まぁ、合意が必要というか」


「合意だって?」


 確認を求めるように尋ねるうちに、なんとなくさっき感じた嫌な予感が、おれの中で強まっていった。


「さっき説明したんで繰り返しになっちゃうからアレですけど~、別の全宇宙を洪水じみた情報量の受け皿にするわけだから、そこに住んでるお前さん方のドッペルゲンガーたちは、多大な迷惑をこうむることになるわな?」


「つまり、この世界を救うためには、別の宇宙と、そこに住んでる人たちの生活を犠牲にしなきゃいけないと?」


 そう言うと、少女は大袈裟に何度も首を縦に振った。つまり、そうだというのだ。


「ざっくりした話が、等価交換の原則って奴っすねー」


 おれたちが、おれたちの世界を元のかたちに戻すには、どこかの次元に存在する別の世界のかたちを歪めなければならない。当然、そこにはおれのドッペルゲンガー……おれだけでなく、他の奴らのドッペルゲンガーたちもいるんだろうが、そいつらの生活は、根本から犠牲になってもらうほかないらしい。


「別に、いいんじゃねぇのか。このクソッタレな気候からオサラバできるってんならさ」


 あっけらかんとした風に、おれBが肩を竦めて口にした。至極真っ当な意見を自分は口にしているんだぞと、そのでっぷりした顔が物語っていた。


「どっかの世界がめちゃくちゃになる? それの何が問題なんだ? なぁ? みんなもそう思うよな?」


 右を左を振り返りながら、同意を得ようとする。賛同する声は多かった。というか、おれ以外の全員が、無言の合意に至ろうとしていた。


 この事態を前に、少女本人は驚きを隠せないでいるのか、キャップを被り直したり訳もなく足踏みしたり、表情こそシンプルだが、肉体的には動揺が表れていた。彼女としては、二つの世界を天秤に賭けた葛藤を経て、喧々諤々の論争になることを期待していたのだろう。「そんなにあっさり決めていいの?」おれBの顔を下から覗き込むようにして尋ねた。「一度合意に至ったら、もう後には引けないよ」


「ここにいる奴ら、全員が俺にとっちゃ他人さ。あくまで俺に似てるってだけのな。なんで他人のために自分の生活を犠牲にしなきゃいけないんだ? ましてや、一度も会ったことのない見ず知らずの奴らのために」


 そうだそうだと、悪気のないおれBの意見に同調する声で公園の一角は占められつつある。神の敬虔な信者であるおれCも、右に倣えとばかりに意見した。


「神の居場所なき世界に価値はありません」


「君たちが犠牲にしようとしている世界にだって、神を信じている人たちがいるかもしれないのに?」


「それは、その人たちが信じる神であって、私が信じている神ではありませんからね」


「ダメだこりゃ。話し合う気ゼロだな。おいおい、そこの君はなんと考えてる?」


 おれCとの会話を早々に打ち切ると、少女はおれAと、フェンス越しに佇むおれDへ会話の矛先を向けた。しかしながら、彼らもまた、最初から正統な議論に参加するつもりはなかったようだった。


「カップラーメンのある平凡な世界に還れるんなら、申し訳ないけど、その一つ下の次元に住んでいる人たちには、犠牲になってもらわなきゃとは思ってるよ」


「あっしも同じ意見だ。ドッペルゲンガーとはいえ、それは別次元のあっしであって、あっし自身じゃないんだからな。そんな人たちのことを想像して思いやりを持てという方が、無理な話だ」


「なんてこったよ」


 てこでも動かない彼らの言い分を前に、立ち眩みでもしたかのように少女は後ずさると、キャップを被り直した。一気に老け込んだような、退屈さに汚染された顔をしていた。右手で己の頬をぴしゃりと軽く叩き、それから、ポロポロと悪罵を口にし出した。


「君たちには失望を通り越して呆れたよ。別に他人を完全に理解しろと言っているわけじゃないんだ。アタシはただ、あんたらに議論して欲しかったんだ。納得のいく結果に至るまでの、君たちの思考錯誤っぷりが見たかったんだ。なぜって、それこそがアタシの考える人間らしさだからさ。人は人を完全に理解できずとも、理解しようと努力することはできるのに、君たちはその努力すら放棄しているんだ」


「理解してるぜ。暴力的だってな」


 おれBが、真っ黄色な歯を獰猛に覗かせて嗤った。


「ここにいる奴ら、一部を除けばみんな優しい性格をした奴らばかりだぜ。初対面の奴もいるが、ちょっと面構えを見ただけでわかったね」


 慣れない暑さを受けて額や首筋から噴き出す汗を、ハンカチでごしごし拭いながら、おれBは灼熱する思考を放出する。


「優しくて、且つ暴力を容赦なく行使できる人間の集まりさ。矛盾しているようで、なにひとつおかしな言い分じゃないぜこいつは。いいか? 人を傷つけない優しさなんてのは、ただの臆病者の言い訳なのさ。大切な存在のためには、一切の道徳だの倫理だのを踏み越えた行動を取る奴こそが正しいんだ」


「ちょい待ち。君が守ろうとしているのは君自身じゃないか」


「間違っちゃいないだろ? 俺のいた世界では【自分を大事に】が国の教育のスローガンだったんだからな」


「もっとよく考えろよなぁ。時間という概念が崩壊した世界で、待ち合わせという手段が無力化したこの世界で、なぜ君たちはこうして出会うことができたか。それは君たちが君たち自身だからさ。自分を愛することでしか社会と繋がれなくなった時代に生きている君たちが、自分自身すらも愛せなくなったら、これ以上の悲劇はないんだよ?」


「その説得の仕方は奇妙過ぎませんか」おれCがT字の姿勢を頑なに守りながら突いた。「時間という概念が復活した世界なら、私たちは私たち以外の人たちとも、正しい手段で繋がることができるはず。自分が自分を愛せなくなったとしても、誰かが自分を愛してくれるのであれば、そっちの方がより社会的な意味では健康だともいえる」


「もうなんでもいいからさぁ」投げやりな口調でおれAが横やりを入れてきた。「さっさと決を取ろうよ。いいじゃんどうでも。どっかの世界がめちゃくちゃになろうが、いまここにいるぼくらの生活の方がずっと大切なんだよ。少なくともぼくにとっては、ぼくに似た他人の生活がめちゃくちゃになる悲劇より、カップラーメンを啜っている時の幸福感の方がずっと想像しやすいんだ」


「おれは反対だ」


 どこで切り出すべきか迷っていたが、いま……そうか、これが、いま・・という感覚なのか……とにかくおれは切り出した。


「時間の概念は、壊れたままでいい」


 全員の目が、その場にいる五十二個の瞳が一斉にこちらに向けられた。そのうちの五十個には、個人個人で多少の差はあれども、苛立ち、憤怒、不可解といった感情が込められていた。


「お前さん、自分ひとりだけ、お利口ぶってる場合じゃございませんぜ?あっしらの置かれた状況ってものを考えてくださいよ」


 口火を切ったのは、意外にもおれDだった。口調こそ慇懃ではあるが、ペンキの禿げかけたフェンスを今にも嚙みちぎりそうなほどの恨みを瞳に込めて、こちらを睨みつける。


「場の空気って奴を呼んで欲しい――」


 文句は唐突に途切れ、代わりに銃声がその場を支配した。この場面に限定するなら、おれBの発言は正しかったと証明されたはずだ。優しくて、且つ暴力を容赦なく行使できる人間の集まり。おれは仲間外れなんかじゃない。


 どれだけ異形の姿をしていようとも、ペラペラのネイビー・ジャケットの裾を左手で翻えし、内側のポケットから自動拳銃を抜き取るこちらの動きは、目で捉えきれなかったらしい。フェンスの網が銃眼の役目を果たした。どさり、と仰向けに倒れたおれDの額から流れ出る赤い血。これで、彼が会社の顧客だったら、ノルマ4達成だったのだが。


 ふと、周囲を見渡した。皆が絶句して、おれと、おれの右手に固く握られている拳銃を交互に見やっていた。なんとも言えない間抜けな面構えだ。


「本来なら、これは合法的な仕事なんだ。ついさっきも、波色防災センターの本社ビルで、これと同じようなことをしてきたばかりだ。でも、さすがにこの状況を前にしたら、合法だのなんだのとは言ってられない。黙って民主主義なやり方に任せていたんじゃ、納得いかない」


 ミッドホワイト現象を境に、時間の概念を喪失したショックを上手に癒すことのできない一部の富裕層たちが求めたことで、法的に禁忌とされるその行為は、ある条件下においては合法的な「処置」として役所に受理される。自分で自分の命を絶つ勇気のない者たちが蔓延したこの世界では、誰かの手に命の手綱を握られていることに安心を覚える奇特な人物たちもいるようで、そういう人々の願いを叶えてやるのが、おれの仕事だった。


「良心は悼まないさ。とっくに慣れたからな。そう、慣れだ。おれはこの世界に慣れた。この壊れた世界こそ、おれの生きる世界なんだ。この世界がなくなったら、おれはどうすればいい? おれは、この世界が好きなんだ。この壊れた世界が、おれのフィールドなんだ。誰にも奪わせないさ。そう、誰にも」


「待て、おちつい――」


 おれCが発した声を……おれの行動を制止するその声を、おれはおれDにしたのと同じやり方で黙らせた。右眼球に入り込んだ弾丸は彼の眼底を木っ端みじんに打ち砕き、柔らかな脳漿をぐちゃりと潰した。鼻と口からどっぷりと赤黒い血をこぼしながら前のめりに倒れた彼を見て、ドッペルゲンガーたちは蜘蛛の子を散らした。


 それでも、おれはおれで落ち着いていた。精神の水面は時化からは程遠く、凪に近かった。フェンスをよじ登って逃げようとする者。腰砕けになりながらよろよろと走る者。途中で転んで這いずる者。恐怖と焦燥から糞尿をまき散らす者。何事かをがなり立てながら逃走する者……別世界のおれたちを、引き金ひとつで葬り去っていくことの、なんと簡単なことだろうか。気づけば、あれだけ大口を叩いていたおれBも、人間離れした体つきのおれDも、今では仲良く物言わぬ肉の塊となって、湯気立つ赤黒いプールに沈んでいる。清潔感のあった平和な公園の一角は屠畜場に変わり果て、鼻の奥を強烈に突き刺す生臭さを一帯に放っていた。たかる蠅の数が次第に増えていき、上空ではカラスたちが旋回している。臭いがますます濃度を高めていく。慣れていない者が嗅いだら、胃の中のものを反射的にすべてまき散らしてしまうことだろう。


 なかなかの重労働だった。二十六人を一度に殺戮するというのは。ハンカチ一枚ではとうてい吸収できない量の汗。自分の汗に濡れた肌着の不快感を無視して、おれはどっかりとベンチに再び腰を下ろし、眼前に現れた光景をぼんやりと眺めた。血肉と沈黙。それだけがあった。それが、おれの世界だった。大いなるルールが分断され、自己を愛せなくなった世界で、おれがおれの平凡な日常を守るために選んだ末に現れた世界だった。


 いつの間にか、少女の姿はどこにもなかった。そのことに気づいた拍子に、おれは深く息を吐き出していた。自分でも意識していなかったが、変に緊張していたのだろう。おれの取った選択は、彼女にとってプラスだったのかマイナスだったのか、いまでは確かめる術すらない。彼女は結果を選ばない。むしろ過程を重要視する。であるならば、過程を無化する俺の暴力を前にしては、どうすることもできなかったのだろうか。


 とにかく、そんなことはどうでもよかった。おれはこの世界を正しく愛していると自負しているし、目の前の屍の山を見つめつづけていると、ますます自信に繋がる気がした。たとえ、どれだけの犠牲と汚染が眼前に積み上がろうと関係なかった。大いなるルールが崩壊した事実を受け入れられず、左回りに捻じ曲がった現実を、己の思考を右回りに歪ませることで帳尻を取ろうとするようなことはしない。そんな陰謀論者めいた精神の弱さを露呈して、同情を買うような真似など。それだけで立派なもんだ。そうだろう?


 全人類を等しく縛りつけていたルールが崩壊した世界を。


 誰しもが己の価値観だけを頼りに生きるサバイバルなワールドを。


 自分すら愛せなくなった者たちが永久の救いを求めている世界を。


 それは「そういう世界だ」と、おれは認識できている。


 それで十分だった。おれは、おれの世界が続くことを心の底から祈っている。


 血肉の屍に群がる黒い使者たち。そのうちの一羽が予兆を感じ取り、翼を広げていずこかへ飛び去っていた。終わらない舞台の始まりを静かに告げるように、混沌の場にそよ風が吹いた。


 きっとまた、銀暴風が接近してくる。そして、時は動かない。


 おれは安らかな笑顔を浮かべた。同期たちの振る舞いに心を乱されることも、ノルマの達成率に一喜一憂するのも、すべてが無意味なのだと悟った。


 何を不安に思う必要がある。


 おれこそが、おれの世界の支配者なのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おれのパラダイム・ザ・ワールド 浦切三語 @UragiliNovel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ