第9話長女、小林千紗②

最近家族が、ご飯のお盆の上にメモ用紙で私とやり取りをしようとしている。

始めは、お父さんだった。

こんな、ネトゲ廃人の娘なのにお父さんは優しい言葉でメッセージをくれた。

ドア越しに言葉をかけららたり。

そのメッセージに返信したら、お母さん、健太までメモ用紙にメッセージをくれるようになった。

私の顔のキズは一生消えない。美容整形外科もさじを投げた。

でも、私はこのままではいけないと思う。

田嶋君が命懸けで私を守ったんだから、現実逃避していてはいけない。

まだ、外を歩く自信はないけど、家族とは会いたい。

どうして、引きこもりになったんだろう。

メイクすれば、多少キズは隠れる。


朝。

みんなの慌ただしい声が聞こえてきた。

私は、ドアを開けて階段を降りた。


「千紗、おはよう」

「……おはよう」

「さっ、姉ちゃん、一緒にご飯食べようよ」

健太は私をテーブル席に座らせた。

みんな、平常を装っているがお父さんは嬉々としているし、お母さんは目が赤い。今にも泣き出しそうだ。

健太は、相変わらずオシャレな髪型をしている。

お父さんは、私にゆっくり食べろ、今日はお母さんは仕事休みだから。と、言うとベランダへ行き、タバコを吸っている。


私はまた、新たな一歩を踏み出したのだ。

田嶋君、家族の為にも苦難を乗り越えなきゃ。でも、そのハードルは意外と低い気がしてきた。

私はみんなが大好きである。

この家族の一員として、幸せをふつふつと感じている。


(終)

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ヴィーナスの傷 羽弦トリス @September-0919

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