夢喰い人へ花束を

有理

夢喰い人へ花束を


※1:1 or 2:2

(cast、guestで比率分けることもできます)



cast

羽村 かなめ (はねむら かなめ)

山﨑 未来 (やまさき みく)


guest

槙野 譲 (まきの ゆずる)「愛の溺れかた」にて登場

桑原 花

片瀬 恵介

釘崎 アリス (くぎさき ありす)「愚かな不香の花」にて登場





未来「かなめのエンドロールには誰がいるんだろうね」

かなめN「指の間をさらさらとすり抜けていく」

未来「ねえ。」

かなめN「俺はこの砂時計をひっくり返すことができない。」

未来「その夢、叶うといいね。」

かなめN「アルストロメリアはふわりと、微笑む」


未来(たいとるこーる)「夢喰い人へ花束を」


__________________


かなめN「夢を見た。満席、息をのむ音が響く、耳の奥で鳴る心臓、舞台の真ん中で俺は」


未来「かーなめ。」

かなめ「…うーん」

未来「朝だよー。かなめ。」

かなめ「あー、」

未来「朝ご飯、たまには一緒に食べよ?」

かなめ「うーん。起きるー」

未来「コーヒーにする?それともお水?」

かなめ「んー水ー」

未来「はいはーい。」


かなめN「薄目を開けるとレースのカーテンがちらちら揺れていた。枕元のスマホには7:04の文字。」


未来「ほら!」

かなめ「わかったわかった、」

未来「おはよう。」

かなめ「おはよ。」

未来「昨日も遅かったねー。」

かなめ「公演前だから仕方ないよ。」

未来「今日は?バイト?」

かなめ「今日は休み。昼から稽古だからさー。今週はシフト入れないんだ」

未来「…そうなんだ。今月末からだよね?公演。」

かなめ「そう。1週間。」

未来「バイト先、そんなに休んで大丈夫?」

かなめ「もともと言ってあるからさ。多分、大丈夫」

未来「…そっか。」


かなめN「駅まで徒歩5分。1DKのこの部屋の朝は少し騒がしい。鉄筋の階段を降る音、窓の外はもう既に起きている。」


未来「ねえ、かなめ、今月の生活費、」

かなめ「今月半額でいい?公演終わったらがっつりシフト入れるからその月倍払うからさ。」

未来「…う、ん。分かった。」

かなめ「ごめんなー。毎回頼っちゃって。」

未来「ううん。」

かなめ「…俺、頑張るからさ。」

未来「分かってるよ。…応援する。」

かなめ「ありがとう。未来。」


未来「じゃあ、私、仕事行ってくるね」

かなめ「うん。いってらっしゃい」

未来「うん。かなめも気をつけてね。」

かなめ「ああ」


かなめN「未来の作ってくれた朝食を食べ、小さめのシンクで洗う。いつもの景色が違って見えたのは、そこに見慣れないビールの空き缶が置いてあったからだ。“飲まなきゃみられない夢もある”キャッチコピーがやけに目についた」


____________________


未来「おはようございます!」

槙野「おー、山﨑さん。おはようございますー」

未来「槙野さんいつもはやいですね。」

槙野「この朝の時間が1番集中できるんだよね。」

未来「そうなんですね。」

槙野「山﨑さんもはやいね。まだ就業時間外でしょ?」

未来「どうしても定時で上がりたくって。」

槙野「そうなの?総務今大変そうだもんね」

未来「まあほとんど寿退職ですし、おめでたいことですからね!」

槙野「そうだね。今日は、彼氏とデート?」

未来「え?!」

槙野「いや、定時で上がりたいって言うからさ」

未来「あー、その、夕方から短期のバイト入れてて」

槙野「うち、副業禁止だったよね?」

未来「ちょっと、知り合いの手伝いっていうか…」

槙野「…」

未来「…あの、」

槙野「山﨑さん正直だよね」

未来「え」

槙野「そうでーす彼氏とデートでーすって嘘ついちゃえばいいのに。」

未来「あ、た、たしかに…」

槙野「内緒にしとくけどさ。」

未来「…すみません」

槙野「…何か理由があるんだよね、多分」

未来「…はい。同棲してるんですけど、彼氏、夢があって。その応援っていうかなんていうか。」

槙野「そっか。まあ、詳しくは聞かないけど体には気をつけてね。」

未来「ありがとうございます。」

槙野「ん。」


未来N「そうやって槙野さんは、さりげなく買った缶コーヒーを私にくれた。」


未来N「大学を卒業してもう6年が過ぎていった。就活に失敗した私は数年間フリーターとして懸命に働き生活を繋ぎ止め、去年ようやく今の会社に契約社員として入社した。」


未来N「“走れ、全力で”そう書かれた缶コーヒーは酷く冷たくて掌を刺激する。」


未来「走れ、なんて。」


未来N「誰もいないフロアはどこよりも心地よくて、心細かった。」


___________________


かなめ「おはようございまーす」

桑原「あー!羽村くーん!遅ーい遅刻ですー」

かなめ「花さん、お疲れ様です。時間通りだと思いますけど?」

桑原「5分前行動が基本です!」

かなめ「それは花さんの基準でしょ。」

桑原「そうだけどー。」

かなめ「あの、皆さんは?」

桑原「スタッフは結構揃ってんだけどさー。役者共は全然よ。」

かなめ「はは、昨日も遅くまで稽古やった後に飲んでましたもんね。」

桑原「あれ?羽村君は行かなかったの?」

かなめ「俺は途中で抜けました。セリフとかもう一回通したかったし。」

桑原「真面目だねー。」

かなめ「俺夢なんすよね。本当に、役者になるの。」

桑原「…はは」

かなめ「あー。バカにしました?」

桑原「まさか。ここにいる人達もまだ夢を追ってる最中だよ。」

かなめ「花さんも?」

桑原「…私はちがうよ。」

かなめ「そうなんすか?」

桑原「うん。」

かなめ「演出家になりたいのかと思ってた。」

桑原「癖になっちゃってるだけ。高校の時からやってるし、仕事にしたいっていうより趣味かな。」

かなめ「そうなんですか。」

桑原「うん。でも、夢に向かって一生懸命に頑張る人は応援したいなって思うよ。」

かなめ「俺噂で聞いたんすけど、花さん大学時代演出も役者もやってたって。」

桑原「人手不足だったからね。」

かなめ「凄いっすね。」

桑原「そんなことないよ。」

かなめ「…あの」

桑原「んー?」

かなめ「夕季まりあと友人って本当っすか?」

桑原「…それも噂?」

かなめ「…はい」

桑原「今やまりあちゃんもよくテレビ出るからなー。」

かなめ「…」

桑原「コネとか、そんなのはないよ。」

かなめ「…そう、っすよね。」

桑原「そんなの頼りにしてちゃなれないよ。役者」

かなめ「…すんません。」

桑原「でも、大事。そうやってがっついていくの。」

かなめ「…」

桑原「…羽村君。焦ったって仕方がないこともあるんだからね。」

かなめ「はい。」

桑原「そう。焦って白鳥になったって、仕方がないんだよ。」

かなめ「白鳥?」

桑原「こっちの話!さ、先に立ち回り稽古でもやる?」

かなめ「はい!」


かなめN「早く、はやく。俺はきらきら輝くあの夢にひたすら手を伸ばし続ける。」


___________________________



未来「ありがとうございましたー。」


未来N「突発で始めたコンビニのバイトは私の時間を蝕む。駅近徒歩5分、1DK。月13万の家賃は毎月家計の首を絞めている。」


未来N「私が支えなければ。私が頑張らなければ。夜遅くまでセリフの練習をするかなめの声を聞きながら眠る毎日だった。」


片瀬「や、まさき先輩?」

未来「え?」

片瀬「俺、片瀬です。片瀬恵介、大学ん時の」

未来「あ、えー!片瀬君?」

片瀬「久しぶりですね、元気ですか?」

未来「うん、片瀬君は?」

片瀬「ぼちぼちっすね。」

未来「そっか。スーツってことはお仕事帰り?」

片瀬「そうです。侘しく夜のコンビニ弁当買いに。」

未来「最近のは美味しいしねー。」

片瀬「山﨑先輩最近働き始めたんですか?」

未来「そう、本当最近」

片瀬「そうですよね。俺ここよく来るのにみたことなかったですもん。」

未来「はは。でもこんな遅くまで大変だねお仕事。」

片瀬「会社、フレックスタイム制度導入してて、昨日午後から早退しちゃったんで、その分、今日。」

未来「あー。なるほどね。今何やってるの?」

片瀬「不動産の営業っす。」

未来「へー。」

片瀬「山﨑先輩。」

未来「ん?」

片瀬「大丈夫ですか?」

未来「え?この時間はもうお客さん少ないし、」

片瀬「じゃなくて、クマ。隠せてないですよ。」

未来「…あ、ははは、」

片瀬「…」

未来「今月厳しくって、それで、副業ってわけ。」

片瀬「…羽村先輩とは」

未来「うん。一緒に住んでるよ。」

片瀬「何かあったんですか?」

未来「え?」

片瀬「2人で住んでて急に入り用って。」

未来「…」

片瀬「何時に終わるんですか?バイト。」

未来「22時。」

片瀬「外で待ってるんで、コーヒー奢らせて下さい。」

未来「でも、」

片瀬「いいから。」


未来N「バーコードを読み込むたびに擦り減っていく何かを悟られた気がした。」


______________________


かなめN「稽古前や稽古後にファーストフード店や公園に寄るのがお決まりだった。今日吸収した感情や立ち回りを鮮明に刷り込んでおきたいからだ。」


かなめN「焦っていると言われればそうなのかもしれない。ただ、早く夢を掴みたかった。未来を安心させたかった。ただ、ただ、それだけで毎日を全力で生きていた。」


釘崎「すみません、相席してもいいですか。」

かなめ「あ、は、はい。」

釘崎「満席で、すみません。」

かなめ「は、あの、」

釘崎「はい?」

かなめ「釘崎、アリスさんですか?」

釘崎「…はい。」

かなめ「あ、別にファンとかじゃなくて、その」

釘崎「お芝居の練習、されてるんですか?」

かなめ「はい、その」

釘崎「台本でしょ?これ、」

かなめ「はい。舞台やってて。」

釘崎「そうですか。」

かなめ「…」

釘崎「…なにか?」

かなめ「この間のドラマ、見ました。」

釘崎「ありがとうございます!」

かなめ「CMとか歌のイメージが強かったんですけどお芝居も上手なんですね。」

釘崎「あはは、よかった。ドラマとかあまり出ることないのでドキドキだったんですよ。」

かなめ「俺、特にあの、6話の」

釘崎「?」

かなめ「“私なんか、生まれてこなきゃよかったんだよ”ってセリフ。すっごい真に迫ってて、ゾクッとしました。」

釘崎「…よく覚えてるんですね。」

かなめ「はい。勉強のためにドラマはよくみるんです。あれが慣れない演技だってならすごい、怖い才能ですね。」

釘崎「はは。ありがとうございます。」

かなめ「…釘崎さんは、スカウトですか?」

釘崎「え?」

かなめ「芸能界。きっかけっていうか。」

釘崎「…スカウトでしたよ。アイドル、ならないかって。」

かなめ「そうですよねー。こんなに深く帽子被ってても綺麗なの分かるし。」

釘崎「ありがとうございます。」

かなめ「あの、芸能界って、」

釘崎「すみません、そろそろ。」

かなめ「え、あ、俺が色々聞くから…」

釘崎「いいえ。待ち合わせ相手、来たみたいだから。」

かなめ「あ、あの。」

釘崎「はい?」

かなめ「連絡先、とか」

釘崎「ふふ。」


釘崎「踏み台になんか、ならない。」


かなめ「…」

釘崎「それじゃ。ありがとうございました。」


かなめN「マスクを下げてあらわになった顔は当たり前に整っていて、テレビやポスターに貼られているまんまだった。牽制する圧も一般人のそれとは全く違っていて背筋を伝う冷たくなった汗にゾッとした。」


かなめN「手元の台本に目を落とすと大きく“夢中で”と書かれていた。夢の途中、それなのに画面の向こうが少し怖くなった。」


____________________


未来「あ、おかえり。」

かなめ「ただいま。起きてたんだ。」

未来「うん。お疲れ様。」

かなめ「未来も。」

未来「ご飯、食べた?」

かなめ「うん。稽古場で食べたよ。」

未来「そっか。お風呂準備してるから、入っておいで」

かなめ「ん、ありがと。」


かなめ「あ、飲んでたんだ。」

未来「うん。一缶だけね。よく眠れるから。」

かなめ「…そうなんだ。」

未来「ねえ、かなめ、この間片瀬くんに会ったよ。」

かなめ「片瀬?」

未来「うん。偶々コンビニで。」

かなめ「そうなんだー。片瀬元気そうだった?」

未来「うん。今不動産会社で働いてるって。」

かなめ「あー。芝居やめたんだ。」

未来「助っ人で公演とかはたまに出てるって言ってたよ。」

かなめ「そっか。俺片瀬の真っ直ぐな芝居好きだったんだけどな。」

未来「…」

かなめ「諦めちゃったのか。」

未来「…それで、ね。いい物件紹介してくれるっていうの。」

かなめ「引っ越したいの?便利いいのに」

未来「たしかに駅はすぐそこだけど、家賃、結構するからさ。」

かなめ「あー。でも定期その分高くなるじゃん?」

未来「かなめがお芝居集中してる時とかさ、私の収入から出してるから結構、その、苦しい時とかあって。」

かなめ「うーん。俺その分次の月出したりしてんじゃん?」

未来「うん。そうなんだけど、私実家に仕送りもしてるし、奨学金の返済もあるからさ。」

かなめ「そっか。」


かなめ「ここ、結構劇場とかいっぱいあってさ、気に入ってんだけどな。…仕方ないか。」


未来「…私も考え直してみる。」

かなめ「あのさ、未来。」

未来「なに?」

かなめ「俺、頑張るからさ。俺は諦めたくないんだ。」

未来「…夢」

かなめ「未来もまたやったらいいのに。芝居。」

未来「…」

かなめ「覚えてる?大学2年の時、学祭でやった舞台。あれ、未来主役とってたじゃん。」

未来「…覚えてるよ。」

かなめ「あの時の未来さ、もうキラッキラしてて、かっこよかった。俺未来の芝居見て俺も絶対心動かせるような役者になりたいって思ったんだよ。」

未来「…そうなんだ。」

かなめ「あの頃一緒にやってた奴ら、ほとんどもう芝居関わってなくてさ。それでも俺、諦めたくないんだ。」

未来「うん。」

かなめ「だから、もう少しだけ待っててほしい。」

未来「…うん、応援する。応援、するね。」


かなめN「パキッとシンクから音が響いた。未来がのんだビールの空き缶だった。」


かなめN「跳ねた肩はまるで映写機がガタつくような、歯車が軋んだ気がした。」


________________________


未来N「かなめの舞台の千秋楽。私はベッドの上で迎えた。結局私は引っ越しをする勇気もなく、だからといってもう一度かなめと向き合う度胸もなかった。」


片瀬「未来?」

未来「ごめん。考え事してた。」

片瀬「羽村先輩?」

未来「…ううん。」

片瀬「嘘、下手くそ。」

未来「…ごめん。今日千秋楽なの。」

片瀬「あっそ。観に行かなくていいの?」

未来「うん。」

片瀬「嫌いになった?」

未来「舞台、観たくないの。」

片瀬「なんで。演劇部だったのに?」

未来「…私、本当はなりたかったの。女優。」

片瀬「…」

未来「夢にする前に諦めちゃったけど。」

片瀬「家のため?」

未来「…そんなのただの言い訳だよ。」

片瀬「言い訳くらい、許されるだろ。」

未来「許されたいわけじゃないの。」

片瀬「…嘘」

未来「後悔とか、そういうんじゃないの。家が貧しいからとか、無謀なことできなかったからとか、そんなのね、ただの言い訳。私、夢に立ち向かう勇気がなかった。」

片瀬「…」

未来「全部投げ出して、それでも立ち向かうっていう、強さは、私にはない。」

片瀬「未来。」

未来「片瀬くんと、こんなこと。続けてるのも、後悔はしてない。」

片瀬「うん。」

未来「立ち向かう勇気ないんだ。かなめに。」

片瀬「…」

未来「酷くて、狡い女」

片瀬「俺も。勇気なんかなかったよ。」

未来「片瀬くん、」

片瀬「でも、あんな濃いクマ作ってさ、誰かの為に働いてるあんた見てると俺は夢を捨ててよかったと思った。」

未来「…」

片瀬「大切な人を苦しめてまで見る夢なら、俺は見なくていい。」

未来「…夢って、何なんだろうね」

片瀬「誰かを、幸せにすることだと俺は思うよ。」

未来「…」

片瀬「羽村先輩は役者になって未来を幸せにしたいんだと思う。」

未来「うん」

片瀬「でも、その幸せのために未来が苦しむくらいなら、俺は奪うよ。先輩から未来を。」

未来「ちゃんと話し合わなきゃいけないね。」

片瀬「言える?」

未来「…わかんない。」

片瀬「俺が言おうか。」

未来「それじゃダメだよ。」

片瀬「誰が決めるんだ?ダメだって。」

未来「私達の問題だから。」

片瀬「俺達の問題でもあるだろ?」

未来「…」

片瀬「俺はこのままでもいいよ。」

未来「…そんなの」

片瀬「未来が楽になるなら。俺はいいよ。それがずっと夢だったから。」

未来「…」

片瀬「あんたの幸せが、俺の夢だったから。」


片瀬「あんたが幸せなら、何にでもなるよ。」


未来N「私より体温の高い彼は顔に似合わない細い指で涙を掬った。噛み付くようなキスは私の迷いをぶん殴る。もう、どうでもいいような。明日、生きていなくてもいいような。チカチカする視界の先で何度も好きをくれる。」


未来N「あの日、22時にバイトを上がると、彼は店の前にいた。先ほど卸したであろう封筒を握り締めて。貰えないと言う私に頭を下げた。」


片瀬「何でもするから、貰ってください。」

未来「片瀬くん、」

片瀬「俺、こんなことさせるためにあんたを諦めたんじゃないんだ。」


未来N「私が売れるものは、自分しかなかった。それもいらないと、彼は言ってくれた。正直、限界だった。支えてあげたいのに、私にはそれすらもできないという虚無感と私も見たかった夢に必死に食らいつくかなめに対する敗北感と、何よりも、揺らぎ続ける私に耐えられなかった。」


未来N「夢を捨てた私は、現実を信じるしかなかった。片瀬くんの部屋の不釣り合いに挿された黄色い水仙が目に焼き付いた。ここに帰ってこいと言わんばかりのそれに後ろ髪を引かれながら私は足をすすめた。狭くて息苦しい私の愛の巣へ。」



__________________________


桑原「羽村くーん!お疲れ様!」

かなめ「花さん、お疲れ様です」

桑原「最後のシーン!1番感動したよ」

かなめ「最後?」

桑原「“夢は叶う!君が愛してくれるから、僕は夢と心中できるんだ”って。」

かなめ「ああ、」

桑原「大盛況だったのも、羽村くんのおかげよ。」

かなめ「はは。花さんも最後まで宣伝ありがとうございました。」

桑原「ねえ。羽村くん」

かなめ「はい?」

桑原「夢って、何だと思う?」

かなめ「夢?」

桑原「そう。羽村くんにとって夢って何?」

かなめ「…叶えるものです。」

桑原「叶うものって?」

かなめ「ううん。叶えるものです。俺、その為に生きてるんです。」

桑原「…」

かなめ「俺自身も、俺を支えてくれる人も、全部、全部。報われるべきなんです。こんだけ俺捧げてるんです。なのに報われないなんて叶わないなんてあるわけない。」

桑原「…」

かなめ「夢は叶える為にあるんです。俺を、俺の大切な人を連れて行くんです。夢だった世界に。俺はその為なら何でもする。」

桑原「なんでも?」

かなめ「はい。」

桑原「なんでも、なんて事軽く言うのはやめた方がいい。」

かなめ「え?」

桑原「なんでもって、全てを捧げられる時に言わなきゃ。」

かなめ「…捧げますよ。全部。俺が持ってるもの全部」

桑原「大切な人も?」

かなめ「…」

桑原「犠牲にできる?」

かなめ「…」

桑原「悩んでるんじゃ、夢、逃げちゃうよ。」

かなめ「…俺は、」

桑原「…今日原野さんがきてたよ。」

かなめ「原野、って火10の脚本書いてる…」

桑原「そう。羽村くんと話してみたいって言ってる。」

かなめ「え、」

桑原「叶える為にあるんなら、絶対逃しちゃダメだよ。」

かなめ「っ、!はい!」

桑原「隣の喫茶店、待ってるって。」

かなめ「行ってきます!花さん、ありがとうございます!」

桑原「うん。」


かなめN「満席、息をのむ音が響く、耳の奥で鳴る心臓、舞台の真ん中で俺は」


かなめN「ゼンマイを巻く音を聞いた。カチコチ動き出したそれは夢が叶った音だと思った。1番に思い出したのは未来の顔、目に涙を溜めて微笑む彼女の顔。“おめでとう”そう笑ってくれるあの子の顔だった」



___________________



未来「っ、かなめ、」

かなめ「未来、今帰り?」

未来「うん。ごめん、舞台行けなくて。」

かなめ「仕事だろ?仕方ないよ。俺、めちゃくちゃ負担かけてんだし。」

未来「…ううん、」

かなめ「いつもありがとう。未来。」

未来「ううん」

かなめ「俺さ、今日」

未来「…とりあえず、中入ろっか。」

かなめ「そうだな。部屋の前で何してんだろうな。」

未来「ねえ、かなめ」

かなめ「ん?」

未来「…お、おかえり。」

かなめ「ああ、ただいま。未来」


かなめ「あのさ、未来」

未来「かなめ。私も話があるんだ。」

かなめ「ああ、引っ越しのこと?」

未来「あ、いや」

かなめ「違うの?」

未来「あ、うん、そのかなめは?…何?」

かなめ「ああ、今日の舞台、脚本家の原野俊之が見に来ててさ。俺と話したいって言ってくれたんだ。」

未来「え?」

かなめ「話してきた。原野さんと。」

未来「…」

かなめ「大学時代一緒に舞台観に行ったろ?夕季まりあが出たあの話題になった舞台。」

未来「うん。覚えてる。」

かなめ「再来年、次作をやるんだって。それに出て欲しいって言われた。」

未来「っ、」

かなめ「未来。俺、夢、叶うんだ。」

未来「…」

かなめ「俺、やっとやっと一歩進めるんだよ。今まで未来が支えてくれたおかげで俺、俺、」

未来「…かなめ」

かなめ「うんっ」


未来「…ごめん」


かなめ「…え」

未来「…」

かなめ「な、何で謝るんだ?未来、俺」

未来「ごめん」

かなめ「…ち、違うだろ?未来、ごめんじゃない、“おめでとう”って、喜んでくれるはずだろ?」

未来「…ごめんなさい」

かなめ「未来…?」

未来「もう、一緒にいられないの。」

かなめ「…なに」

未来「私にはかなめの夢を一緒に見る資格がない。」

かなめ「何言ってんだよ」

未来「私、ここを出て行く。」

かなめ「だから引っ越しの話なら、」

未来「私だけ、出て行くの。」

かなめ「何で?」

未来「先月分の家賃。私払えなかったの。」

かなめ「え、でも」

未来「払ったよ。片瀬くんが。」

かなめ「…片瀬…?何で片瀬が出てくるんだ?」

未来「事務の給与だけじゃ足りなくて、コンビニでも働いてたの。…気付かなかった?」

かなめ「…そんなに、」

未来「今までも何度か私が払うことあったけど貯金もその度減っちゃって。私、どうしても仕送りと奨学金の返済だけはしなくちゃいけなかったから。」

かなめ「言ってくれれば、」

未来「言えば何か変わってた?」

かなめ「…」

未来「夢、諦めてた?」

かなめ「…いや、」

未来「うん。」

かなめ「でも、引っ越すとかさ、もっとなんか」

未来「引っ越しするお金もないんだよ。」

かなめ「…」

未来「かなめは夢を捨てられない。」

かなめ「それは、」

未来「私が生きてく為に最初に捨てた夢を、かなめは捨てられない。」

かなめ「未来の夢?」

未来「私もね。女優になりたかったんだ。」

かなめ「…え」

未来「でも、最初に捨てちゃった。だって夢でお腹がいっぱいになる?」

かなめ「…」

未来「夢は未来への投資。今日のご飯にはならない。」

かなめ「未来、」

未来「弱虫だから、私。」

かなめ「そんな、」

未来「かなめの夢応援してるのちょっと辛かった。頑張って欲しいのに羨ましくてぐちゃぐちゃになりそうだった。」

かなめ「俺、全然気付かなくて、」

未来「…明日食べるご飯があって、今日眠れる家があって安心して目を閉じる。それが、今の私の夢なの。」


かなめ「俺の夢は、未来と一緒にあの世界で報われることだよ。」


かなめ「俺の夢には未来が必要なんだよ。」

未来「ごめん。」

かなめ「未来。」

未来「かなめ。私あなたを裏切った。」

かなめ「な、に」

未来「片瀬くんと、寝た。」

かなめ「…」

未来「かなめの夢を一緒に見る資格はないの。」

かなめ「なんで、」

未来「…」

かなめ「なんでだよ。」

未来「お金、貸してくれたから」

かなめ「っ、あいつぶん殴ってやる」

未来「やめて。私が決めたんだから。」

かなめ「なんで、」

未来「…」

かなめ「俺、一生懸命頑張ったのに。どこで間違えた?未来のために俺、」

未来「私の為じゃない。かなめは自分のために頑張ってきたの。」

かなめ「違う」

未来「違わない。かなめの過去を否定しないで。」

かなめ「何が、何が分かるんだよ!」

未来「わかんないよ。」

かなめ「未来、なんで裏切ったんだよ!」

未来「ごめん、」

かなめ「何で、俺」

未来「かなめ。」

かなめ「絶対に、喜んでくれるって思ったんだ。“おめでとう”って、そう言ってくれると思ってたんだ。」

未来「うん。」

かなめ「俺の夢には未来もいるんだよ。」

未来「かなめ、欲張っちゃ叶わなくなっちゃう。本当に叶えたいのは役者になることでしょう。」

かなめ「…」

未来「台詞ちゃんと言えなくてごめんね。」

かなめ「未来」

未来「かなめのエンドロールには誰がいるんだろうね」

かなめ「未来」

未来「ねえ。」

かなめ「言わないでくれ。」


未来N「舞台のお祝いに渡すはずの花束を抱えて彼に言う。」


かなめN「この砂時計の砂が落ちきった時、俺には何が残っているんだろう。」


未来「その夢、叶うといいね。」


かなめN「夢を見た。満席、息をのむ音が響く、耳の奥で鳴る心臓、舞台の真ん中で俺は」


未来N「アルストロメリアは、」


かなめN「( )」


※最後の台詞は好きなものをお入れください

なくても構いません

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