試験
「それでは受験番号と氏名を名乗り、順番にあの的に向かってあなたが最も得意な魔術を行使してください。天蓋石で出来ていますので割れることはありませんから全力で問題ありません」
試験官はそう言うと席に着いた。
天蓋石というのは耐魔性の高い石で、反魔法の加工を施す際に使用される非常に硬い石のことだ。
だが見たところ厚さはせいぜい五センチもない。
ここが勇者の学び舎と言うのであれば、あれを壊す者もいるはずだ。
「では、次の人」
試験官は奇遇にもさっき〈想念通話〉を送った女だった。
「受験番号00303、名はイオという」
「始めて下さい」
試験官はそう言うと値踏みするかのような視線を浴びせてきた。
この試験の肝は二十メートルほど離れた場所にある十センチ四方の天蓋石の的にしっかり当てられるかという精度を求めること、魔力の強さにある。
俺の勇者学院への入学に世界平和がかかっている以上、手を抜くことは出来ない。
「【
聖属性の白光を伴う
五センチ厚の天蓋石は、粉微塵に砕け散り的の無効の壁にはどこまでも突き抜ける大穴が穿たれた。
「なっ……天蓋石が……」
「嘘だろ……」
「今の魔力量は何なんだ!?」
試験官も周りの生徒もありえないと言いたげな表情を浮かべている。
それこそ神族と殺り合うのならこれくらいの魔法は最低限求められる。
これでも威力は最低限絞ったつもりだ。
「み、見事という他無いでしょうね」
試験官の言葉を背に受けながら俺は会場を出た。
すると後ろから駆けてくる足音が聞こえた。
振り向くと見覚えのある少女がいた。
「朝はありがとうございました」
「気にするほどのことじゃない。それより試験の方はどうだった?」
そう尋ねると少女は恥ずかしそうに俯いた。
「その……恥ずかしながら的を吹き飛ばしてしまって……皆さんちゃんと的を壊さない程度に威力を調整してるのに……」
なるほど、この銀髪の少女はそれなりに魔術を扱えるということなのか。
「安心しろ、俺も的を粉微塵にした」
「え……じゃぁ私たち揃って失格なのでしょうか?」
不安げに瞳を揺らしながら少女は俺を上目遣いに見る。
だが一つ気付いた。
この少女、実は自身がそこそこ魔力のあることを自覚してないのでは?
「安心しろ、そんなことは無い。他の受験生は魔力が無いが故に的を壊せないのだ」
「そうだったのですか!?」
ぱぁぁぁぁっと花が咲いたように微笑む。
「お前には素質がある、そういうことなのだろう」
「でも私、威力の調整が出来なくて……だから魔力の減りも早いんです」
なるほど、出力を自身で調整出来ないということか。
それぐらいなら俺でも教えてやれそうなことだ。
「その程度なら心配はいらん。俺が後から教えてやろう」
「本当ですか!?」
少女は期待に満ちた魔眼で俺を見上げた。
「あぁ、入学したらな」
今から教えて一朝一夕でどうにかなる問題でもあるまい。
コツを掴むには相応の時間が必要だ。
そう言ってやると少女は
「教えてくれなくて落ちたら貴方のせいなんですからね?責任とってくださいよ!」
と、嬉しそうにそう言うのだった。
地上最強の魔王、勇者学院に通う〜最強の魔王は転生して平和を求める〜 ふぃるめる @aterie3
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