一悶着

 「これを返そう」


 取り返した魔導具レガリアを少女へと渡す。


 「あ、ありがとうございます!このご恩は必ず返します!」


 そう言って少女はパタパタと走っていった。

 魔導具とは何か、聞きそびれてしまったな……。

 まぁいい、いずれわかることだろう。

 そんなこんなで試験会場に入り試験に臨むこととなった。

 試験は二段階に分かれ一次試験である程度の力量に達しなかったものは、落とされる。

 一次試験を突破した上位一割の受験者の中からさらに2次試験で二百名ほどに絞られるわけで、非常に狭き門といえた。

 もしかしたら先程の少女に出会うこともないのかもしれない。

 あまりにも広大なエクスルターテの森の十箇所に一次試験会場は分かれているらしく集団ごとに別れ始めていた。


 「受験番号下一桁で0から順に右になっています。自分の受験番号を確認し集団ごとに分かれてください」


 俺の受験番号の下一桁は……3か。

 そうすると左から四番目の集団になるというわけだ。


 「おいおい、俺のそばに平民が近づいてきやがった。離れろよ!」


 該当する集団の最後尾につくと目の前にいた男子がいきなりそんな言葉を浴びせてきた。

 彼の周りの受験生はどういうわけか皆、煌びやかな服を纏っている。


 「そいつは失礼したな、だがここは最後尾だ。不満があるならお前が前に行けばいい」


 そう言うと男子生徒は剣呑な眼差しを向けてきた。


 「おいおい、この俺にそんな口を叩いていいのか?」

 

 男は取り巻きと共に腰の剣を抜いた。

 これも魔導具レガリアなのだろうか……?


 「平民、この魔導具レガリアに驚いたか?」


 やはり魔導具レガリアのようだった。

 だが魔眼を凝らして見ると、たかだか魔力を十倍に増幅させる程度のものらしい。


 「いやなに、随分と安っぽい玩具オモチャだと思っただけだ。気にするな」


 周りの生徒達は、ヒヤヒヤと事態を見守るばかり。

 教師は教師でただ傍観するだけだった。


 『好き勝手してもいい、そう判断して構わないか?』


 近くにいた教師と思しき女に〈想念通話スケプト〉を飛ばして一応の確認をとる。

 するとすぐさま反応が返ってきた。


 『こんなものまで使えるのね。殺さなければ煮るでも焼くでも好きにするといいわ』


 なるほど受験で落とす手間も省ける、そういうことか。


 「貴様ァァァァッ!」


 男子生徒は魔導具レガリアとやらに魔力を収束させ始めた。

 この時代の人間がどれほどの魔術を使うのかを知る丁度よい機会になりそうだな。

 取り巻きの男子生徒達も同様に魔力を収束させ始める。

 さしずめ怒りに任せた全力の一撃、といったところか。

 魔力の総量からしてもたいした痛痒にはならなそうだ。

 おまけに馬鹿正直にも魔導具レガリアで魔力十倍と言っていたからな。

 切り札は、相手に言わないことなど戦闘の鉄則のはずなのだが……。


 「「「【火竜フランベ】!!」」」


 放たれた三つの火球、さすがに魔力十倍なだけあってミノタウロスの丸焼きを作るには丁度よさそうな火力だ。


 「【火竜フランベ】」


 ならばこちらも同じ魔法で対抗してやるとしよう。

 二千年の昔なら幼児でも使えそうな魔法だが……よもやこの歳になってから放とうとはな……。

 ぶつかり合う火球、すぐに勝負は決した。


 「馬鹿な、この俺様が負けるだと!?」

 「同じ魔法なのに魔導具レガリアを持たぬ平民風情になぜ負ける!?」


 分からないという表情を浮かべたまま三人は炎にその身を焦がした。


 「口ほどにもなかったか……。【治癒クーラ】」


 激しい火傷に苦悶の表情を浮かべていた三人の傷を一応治療しておいた。


 「この借り、絶対に返す!覚えてろよ!」


 三下もびっくりの捨て台詞を残すと三人は去っていった。

 売られた喧嘩を買ってその上、治療までしてやったのにどうやら恨まれたらしい。

 二千年の月日が流れてもどうやら人の心というのは理解に苦労するものらしかった。

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