男同士の恋愛相談-1
健太は錬とすすきので落ち合い、居酒屋で酒を飲んでいた。誘ったのは、健太の方だった。
「実はさ……好きな子が出来てさ……。」
一杯目のジョッキを空にしてから、健太が切り出した。自覚してしまった想いを胸の内に留めておくのが苦しくて、誰かに聞いて欲しかった。
「なんだい深刻な顔して。いっつも好きになったら一直線に体当たりしてんじゃん。今回も当たってみろよ。たまに砕けない時が奇跡的にあるんだからさ。」
ニヤニヤ笑う錬の顔を見て、相談する相手を間違えたかと頭を抱える。そう言えばこいつは、高校時代の恋愛しか知らないはずだった。
「月に一人は好きな子が出来てさ、惚れたら即告白してさ、大体撃沈するんだよな。んで、たまーに付き合ってもいいよって子がいてもさ、休み時間の度に教室を訪ねていって帰りも一緒に帰って家に帰ったら電話とかLINE攻撃してさ、煙たがられてぽしゃるんだよな。」
「そりゃあ、高校生の時の話だ。」
からかい続ける錬に、健太は不機嫌に応じる。錬は首を傾げて見せた。
「社会人一年生になっても、変わらんかったべや。」
「いや……、まあ……。」
痛いところを突かれ、健太は頭を掻く。
「で、その後はどうなのさ。恋愛の仕方は、大人になったのかい?」
健太は居酒屋のすすけた天井に目を向ける。錬は大学一年の二学期から行方不明になっていたので、その間の恋バナを知るよしもない。かいつまんで説明しようと自分の恋愛遍歴を振り返る。
夏は農家の仕事、冬は除雪の仕事で忙しいが、彼女を探すべく常にアンテナはビンビンに張っている。出かけていった先やイベントでいい女がいたら、絶対に連絡先を聞く。教えてくれない事の方が圧倒的に多いが、行動しなければ女は出来ない。街コンや合コンの話があれば絶対に出席する。大抵盛り上げ役に徹することになり、可愛い女の子をお持ち帰りする男達を見送る羽目になるのだが、たまに上手く行くこともある。
猟銃を連射するがごとく女性を口説き、たまに出来た彼女のことは心から大切にする。少しでも時間があれば会いに行こうとするし、会えなければ通話やLINEでやり取りをする。畑で出来た野菜や米は勿論、スーパーやコンビニ、ホームセンターに出かけたときも彼女が気に入りそうな物を探してはプレゼントとして手渡す。
付き合って間もない頃は、甲斐甲斐しい愛情表現に感激していた彼女も、次第に「ちょっと今忙しいんだけど」と距離を置くようになり、一ヶ月後には別れ話に至る。
『ごめん、ちょっと愛情表現が暑苦しい。』
誰もが共通して、そう言う。
健太は巨大な溜息をついた。
「いや……。変わんねぇわ……。」
自分の恋愛を客観的に捉えたのは、これが初めてだった。その成長のなさに愕然とする。錬が、ケタケタと笑った。
「だよなぁ、健太らしいわ。」
そう言って笑いながら、ねぎまの串に齧り付いた。健太も皮串を手に取り、齧り付く。塩こしょうがききすぎている。ついでに言うと、もうちょっとカリッとしている方が好みだ。
「今度の相手はさ、できれば惚れたくなかったんだよな……。」
そう思えば思うほど、控えめなアキの笑顔がちらついて離れない。錬はビールをグビリと飲んでから眉根を寄せて身を乗り出してきた。
「……まさか、不倫とかじゃねぇだろうな。」
健太は慌てて首を横に振る。
「不倫じゃねぇよ。もう、別れてるんだから。」
健太の言葉に、錬ははっと息をつき更に眉をしかめる。錬は案外勘が良い。この一言で相手が誰だか見当が付いたようだった。
「まさかと思うけど……。」
錬が止めた言葉に、健太は観念して首肯した。
「ああ……。正人の元嫁に、惚れちまってさ。」
「マジかよ……。」
錬は溜息をついて頭を抱え込んだ。そうだよなぁ、と健太も溜息をつく。
正人の元嫁と隠し子の出現によって美葉と正人はギクシャクしている。この状況で正人の元嫁に惚れてしまうとは。万が一付き合うようになったら、正人にとって元嫁が親友の彼女ということになる。正人と美葉がよりを戻してからも、気まずいしこりが残るだろう。
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