京町屋のコンドミニアム

 京町家を改築したコンドミニアムの設計は、最終確認に入った。李の町屋に涼真と出向き、座卓の上に図面を広げる。


 入り口を開けると、広いエントランスホールが出迎える。その奥はダイニングルームだ。六人掛けのダイニングテーブルと、壁に面したキッチンがある。ダイニングルームの奥は坪庭を眺めるリビングルームで、四人掛けのソファーを配している。リビングを抜けると浴室と洗面室がある。浴室には大きな窓があり、坪庭を眺める事が出来る。露天風呂並の開放感を味わうことが出来るだろう。


 二階は寝室が三間。一階の坪庭は吹き抜けにしたので、二階のガラス窓から眼下の庭を眺めることが出来るし、光を取り入れることも出来る。畳敷きの和室だが、ベッドを置いた。中国人は硬いベッドを好むらしいので、和を感じるように畳ベッドにした。い草の香りに包まれて眠ることが出来るはずだ。


 全ての家具は宇治の家具工房によるオーダーメイドで、ミャンマーチークを用いている。ミャンマーチークは天然素材の中でも最高級木材とされているが、すでに伐採禁止となっている幻の素材だ。木寿屋の倉庫番本間に相談し、秘蔵の木材を使わせて貰った。


 「いやぁ、素晴しい。京町家の限られた空間をこれほど開放的に創り替えるとは、流石ですね。」


 「ありがとうございます。」

 美葉と涼真は、李に深く頭を下げた。美葉は姿勢を正す。


 「私も今回の設計を通じて沢山のことを勉強させて頂きました。李さんには感謝いたします。ここからは建築に移りますので、担当は現場監督に引き継ぐことになります。」


 もう一度頭を下げる。李は不服そうに首を傾げた。


 「じゃあ、美葉に会うのはこれで最後って言うこと?それは残念だ。」


 美葉はビジネスライクな笑みを返す。


 「現場監督にはしっかり申し送りをいたしますので、ご安心下さい。李さんが二件目のホテルを建てるときには是非、ご指名下さい。」

 「ええ、その時は勿論。でもその前に、お食事でもご一緒しませんか?」


 美葉の隣で、涼真が軽く咳払いをした。


 「それでしたら、私もご一緒しますよ。日本食の良い店をご紹介しましょう。」

 爽やかな笑顔を向けると、李も営業用の顔を作った。


 「社長さんもご一緒となると、ちょっと緊張しちゃうなぁ。今日のところは、諦めましょう。美葉、また今度ね。」


 李の投げるウインクを、美葉は引きつった笑顔で受け取った。

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